第14話 友達の弟①

ある日、郁美は同じクラスの白石あきこから、相談したい事があると言われた。学校では静かに話せないので、放課後に学校の近くの公園で、話しを聞く事になった。

あきこは幼稚園の頃から同級生で、とても仲の良い友達だった。

ベンチに並んで座ると、あきこが気まずそうに口を開いた。


「あのね、私ね、弟が出来たの。」


あきこが、ずっと兄弟を欲しがっていた事は知っていいた。


「良かったね。おめでとう。いつ産まれるの?」


嬉しい事のはずなのに、あきこは浮かない顔をしていった。

考え事をしている様に、郁美の顔を見ながら黙っていましたが。数分間そのまま黙っていたが、決心した様に話し出した。


「あのね、私も変な話しをする事はわかってるから、最後まで聞いてね。」


深呼吸をした。


「この前、家族でキャンプに行ったの。キャンプって言っても、遠い所に行ったんじゃなくて、去年遠足で行った公園の横にある所なの。」


去年の遠足は、バスで1時間くらいの県立公園だった。

幼稚園でも家族でも、何度か通った事があるので覚えていた。道路の反対側に森があり、キャンプ場の看板があった事を憶えている。


「それでね、パパとママがテントを立てて、ご飯を作ってる間、一人で近くの河原に行って遊んでいたの。綺麗な石を拾っていたら、小学校2年生くらいの子供達が話しかけて来て、一緒に石を拾って遊んだの。多分、他のキャンプに来ていた子供だと思って、凄く楽しかった。それで、その日は、日が暮れる前にテントに帰らなきゃいけなかったから、さよならしたんだけど、次の日の朝もここで遊ぶ約束したの。」


楽しいキャンプの思い出話しだった。

しかし、話しているあきこは、相変わらず浮かない顔をしていた。


「次の日の朝、ご飯を食べた後、また河原で遊んでたんだけど、その日お昼には帰らなきゃいけなくて、だから、また遊ぼうね、って言ってさよならしたの。テントの所に戻ると、パパがおかえりって言って、私と弟の名前を言ったの。」


急に話がわからなくなった。郁美は、あきこの家に、何回も行った事がある。

だから、彼女が一人っ子だと知っていた。


「その子は、河原で遊んだ子供の一人だったんだけど。その子が知らない子だって事は知ってるんだけど、でも、私と弟が小さい頃から一緒に育てられて、一緒に遊んだ思い出もあるの。だから、他人だとは思えなくなっちゃって。家に帰ると、弟の洋服とか、おもちゃもちゃんとあって。私、何が本当なのかわからなくなっちゃって。ねぇ、私って兄弟いたのかな?」


今の話を聞いて、郁美は変な感覚に襲われた。あきこに弟なんかいない事を知っている。しかし、先ほどまでなかったはずの、弟の純平と遊んだ記憶が思い出せてしまったのだ。


「ごめん、私もよくわからない。さっきまであきこちゃんが一人っ子だって事知ってたんだけど、私も純平君の事小さい時から知ってる。」


郁美の返事を聞いたあきこは、自分だけ変になってしまったわけでない安心感と、弟に存在を否定して欲しかった期待が崩れてしまった事で、泣き出してしまった。


「あきこちゃん、この事相談したい人がいるから、明日家に行っても良い?」


あきこが泣き止むのを待って、その日は別れた。

郁美は話を聞いてもらう為に、お姉さんの家へ急いで向かった。

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