第6話「担当教師の面談②面倒をお願いされる」
「そう、そうなのよ。でもね不思議な事があるんです」
「なにがですか?」
そこでユッキーは椅子を回転させて、俺の正面に顔を合わせてくる。
「その子、転校生だから私、学校案内してくれるように頼んでおいたのに、樋口君に」
「…………はい?」
ユッキーのいった言葉の意味を理解していくうちに話は続く。
「うん、そうしかも文化祭前に転校してきたから、色々と出店に連れていってあげてねっていったわよね?」
「……えっと先生、一体誰の話を?」
「いやですね。神谷さんの事に決まってるじゃないですか」
とぼけてみても朗らかに川村先生にははっきりと告げられる。
「…………」
いやな話の方向にとっさに言葉が出てこない。
「ところで樋口くんはなんで神谷さんに校内を案内してあげなかったのかしら?」
口元は笑っているが、目が笑っていない顔を向けてくる。
今日はなんだか圧力を多く感じる日だ。吉崎にしろ、神谷にしろ、ユッキーにしろ、俺を威圧して楽しいのだろうか?
しかしこんな圧力に俺は屈しない。確かに案内していないけども、こっちにだって事情ってものがあるのだ。こちらの都合で案内しなかったわけじゃない。
「……いや、それはですね。話しかけたら無視されたので」
「駄目よ。何度も誘った? 神谷さんだって女の子なんだから、ちゃんと男の子がリードしてあげないと。根気よくいかないと女の子は落ちないわよ?」
「なんだかもの凄く聞く人によって誤解を与えかねない言い方しますね先生は」
俺がまるで神谷が好きで恋愛相談にここに来ているかと勘違いされそうな一言だ。
恐ろしくて鳥肌がたつからやめてほしい。
「どちらにしろ難しいですよ、実際、神谷は。話しかけてもとりつく島がありませんし」
普通に話しかけられては無視され、今日のように接触を持てても暴力でコミュニケーションされるし。
「まあ、問題がないとはいいませんけどね。でも大丈夫よ。樋口くんがちゃんと接してくれたら。ちょっと神谷さんはシャイなだけだから」
すごい恥ずかしがり方があるもんですね、川村先生。今日、神谷から腹パンされたんですけど。
もう一ヶ月もたつし本音を吐露していいのかもしれない。いくら学級委員だからってできる事とできない事があるのだから。
「いや、でも正直、俺に神谷の相手は無――」
「仲良くしたくないんですか? 仲良くしたいですよね? 仲良くできますよね? 仲良くしかできませんよね?」
両肩を掴まれ、俺の台詞が終わる前に言葉を発し、嫌な四段活用で迫られる。
至近距離に顔を近づけてきて、瞳には『お前、いいえなんていったらどうなるかわかってるだろうな?』という無言の圧力がある。近いよユッキー。怖いよユッキー。
しかし、ここが正念場だ。ここで断ることができれば、俺の不幸指数は圧倒的に下がるじゃないか。勇気を持つんだ。俺はもう殴られたくない。
「だけど、先生やっぱり俺にはちょっと……」
最後まで告げようとする台詞に対して、ユッキーは大きなため息を漏らした。俺の肩から手を離し何故か距離をとる。
「……先生、樋口くんの内申書にはいい子って書きたかったなー」
「えっ?」
「非常に残念な事を樋口君のご両親にお告げしないといけなくなるかも知れないわ」
ごめんなさい。この人が何をいいたいのか俺には理解できないんだけど。
「えっと、先生?」
「まさか樋口くんがクラスメイトを無視しようだなんて……好きの反対は無関心っていうけど、それってもういじめとしか……」
「ちょっと! それどういう論法ですか! 俺が無視されてるんですけど!」
俺は思わず叫んでしまい、周りの先生方の視線を集める。ああ、駄目だ。ユッキーが注意されていないのに、俺が怒られてしまう。
「でも、もう関わるつもりなかったでしょう? それってその人がいてもいなくても一緒ってことだから、ひどい扱いだと思わない?」
「それは……」
確かに積極的な接触は避けるだろうし、そうすると神谷と話すことは今以上になくなるだろう。
「私もね、樋口くんのご両親にそんなご報告をしたくないの、わかってくれるわね?」
自分の口角がひきつっているのがわかる。誰だ、この人を教師にした人は、その時の試験官に説教をしてやりたい。いっている事が目茶苦茶なのに、目が本気だ。
「……なにがですか?」
無駄な
「もうわかってるくせに」
ウフフとユッキーは作為たっぷりの朗らかな笑顔をみせる。悪魔にしかみえない。
「仲良くなるわね?」
ユッキーそれはもう命令です。
「…………………はい」
圧力と脅しに屈し俺は頷く。
まわりの皆さん生徒を脅迫して、無理やり回答を強要させた先生がここにいますよ。誰か頼むから何かつっこんでくれ! ここは聖職者が集まる場所だろうが!
「もうだから樋口くんは好きよ。まあ、先生も協力するからさ」
「……ははは」
俺は乾いた笑いを漏らす。他になにができるというのだろうか。
女性に好きといわれてこれ程、腹立たしい気持ちになることがあるなんて思わなかった。
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