27.灰崎

 俺は英語と数学のテストが終わった後に、赤城さんと青木が一緒に教室から出ていくのが目に入った。確か青木は緑屋と仲が良かったはずだ。となるとあいつも協力しているのだろう。俺は二人の後を追いかける事にする。一般のやつに負けるとは思わないが、念には念をというやつだ。

 俺は昔から頭がよかった。中学でもたいした勉強をしなくても常に学年10位以内だった。だから俺は天才なのだと思っていた。この学校にくるまでは……

 俺は出身中学からただ一人綺羅星学園に入学し、しかも、特進クラスに入ることができた。でも、本番はそこからだった。どれだけがんばってもあがらない順位、なくなっていく自信。俺は神童からただの人へと落ちていった。俺は自分が特別ではなくただの人であると、自覚させられていきどんどん追い詰められていった。

 そんな中、二年のクラス替えでみかけたのは赤城里香という同級生だった。整った顔立ちに他人を寄せ付けないミステリアスな雰囲気、彼女が心を開くのは幼馴染の緑屋という一般クラスの幼馴染だけらしい。しかもその幼馴染とも付き合っているわけではないらしい。

 そんな中俺は思いついた。だれも寄せ付けない彼女を口説くことができれば俺の事をみんな見直すのではないだろうか? 緑屋はしょせん一般クラスだ。特進クラスの俺と付き合った方が彼女にとっていいに決まっている。そして、俺はみんなが一喜一憂しながらテストを見ているというのに、いつも当たり前のようにトップをとる頭脳と横顔に惚れたのだ。だから声をかけてみた。結果は惨敗だった。

 こっぴどくフラれてへこんでいるときに俺は彼女が、緑屋と一緒に帰宅しているのをみた。その時の彼女は意地の悪い笑みをうかべているが、本当に楽しそうで……クラスの誰もがみたことのない、幸せそうな顔をしていたのだ。図書館でからんだのは嫉妬があったのだろう。まあいい、とにかく今はあいつらの動向が気になる。



「それじゃあ大和の点数は英語が85点、数学が87点だ。まだまだじゃないか。私は多分両方100点だよ」

「いや、俺の歴代最高得点なんだけどな!!」



 ついて行った俺が聞いたのは信じられない言葉だった。あの緑屋が俺と同じくらいの点数をとっているだと……? いや、俺をはめるための作戦か? そんなはずはないだろう。俺が聞いているのをあいつらは知らないはずだ。国語は苦手分野だ。あいつに勝てはしないだろう。動揺したせいか、青木にみつかりそうになったのでとっさに身を隠す。



「前回の点数と同じくらいなら、英語と数学は灰崎と少し劣るくらいだから、国語がいつも通りとれればいけるとおもうよ。ちなみに俺も国語は得意だから、大和が俺に勝つのは無理かな。俺もなんか賭けときゃよかったねー」



 話を聞いていると、青木が向かってきたので、あわてて逃げ出した。しかし、頭の中は混乱していた。おそらく今は同じくらいの点数である。本来の予定ではこの二科目で差をつけるはずだったのだ。そして国語は読解力が求められることもあり、すぐに力がつくわけではない。このままでは緑屋には勝つことはできないだろう。どうすれば勝てる? どうやれば勝てるのだ? 

 俺は動揺したままテストに挑む。テストも終盤の時に隣の席から小さいいびきが聞こえた。みると青木がテストが早く終わったのか寝ていた。まてよ、こいつは確か国語も得意だったはずだ。だいたいだ。緑屋が特進科の俺と同じくらいの点数を取るのはおかしい。どうせカンニングでもしているのだろう。ならば俺もカンニングをしてもおかしくはないだろう。俺はにやりとして奴の机を教師にばれないようにのぞく、幸運にも俺のわからない問題の答えが見える。そして俺は急いで答えをうつすのだった。これで勝てる。




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