4.催眠術からはじまるラブコメ

 結局あの後体育館に残された俺は、里香が何を考えているのか昼休みいっぱい考えたが、答えはでなかった。いや、当たり前なんだがな。だが、あの反応から言って、俺の告白しようとしている相手が里香だとは気づいていないのだと思う。でもさ、それにしても、もっと突っ込んで聞いてくれてもいいと思うんだよな。そんなに俺に興味がないんだろうか、涼風ちゃんに煽られてがんばろうかとも思ったが、まだ時期尚早だったのかもしれない。

 それにしても、気になるのは里香が教室にいなかったことだ。クラスメイトに聞くと体調が悪いと言って早退したそうだ。さっきまで元気だったのだが何かあったのだろうか? とりあえずラインを送ることにする。ちょうど今日はあいつの家で料理をする日だったしちょうどいい。俺と里香の家は家族ぐるみの付き合いで、夕飯は当番せいにしているのでお互いの家を行き来しているのだ。



俺:体調は大丈夫か? 部活終わったら料理作りにいくけど何食べたい?

里香:元気だよ、なんでもいいかな。



 お、既読がついた。早いな。まあ、スマホをみれるくらいならば大丈夫そうだ。



俺:体調悪いならうどんにしよう。撫子に看病しに行くようにいっとくな。

里香:了解



 そこまで重病ではないのだろう、本当にいつも通りの彼女だ。いつも通りすぎるわ!! なんで文字じゃなくてスタンプなんだよ。普通気になる人が告白するとか言ってたらもっと動揺したり、さりげなく聞いたりするよなぁ……ソースは俺である。里香が告白された時はさりげなくどうするかを聞いたり、妹の撫子に土下座して、ケーキおごったりして聞いてもらっていたのだが……

  このまま告白してもダメではないだろうか? 全然脈とかなさそうなんだけど。いや、まあ、まだ告白とかはしないけどさ、でもさ、俺は自分の気持ちを強く自覚してしまった。ちょっと攻めてみようとはおもう。それとなく、可愛いとかほめてみたりしてみようか。いつもの皮肉は抑えたほうがいいかもしれない。

 里香のいない長く退屈な学校が終わり、俺はあいつのためにうどんを買って急いで家へと向かっていた。あいつのお母さん今日は帰りが遅いし、心配なんだよな。体調悪い時って誰か一緒にいてくれると心強いよな。まあ、撫子がいるから大丈夫だとは思うんだが。

 いつもと同じ彼女の家なのだけれど、お昼の事もあって告白のことがよぎってしまい、いつもと違い俺の指は震えていた。



『空いているよ、部屋にいるからあがってきたまえ』



 チャイムを押すとインターフォンごしに彼女の声が聞こえる。いつもの彼女の声だ。俺は勇気を出して一歩を進む。いざ、意識するとどうしゃべっていたんだっけ? などと緊張してしまう。もう何年も繰り返しているからか、習慣のように彼女の扉をノックするとドアが開かれて、彼女がそこにはいた。飄々とした顔に意地の悪い笑み、整った顔に好奇心に満ちた大きい目、いつもとは違い可愛らしい寝間着を身にまとっている彼女に思わずドキッとしてしまう。机にはなにやら難しい専門書と、少女漫画が乱雑につまられている。アンバランスな部屋も彼女らしいと思う。いつもは飄々としているくせに、イレギュラーがおきるとすぐにてんぱるのだ。そんなところも本当に可愛らしい。



「体調は大丈夫か? 早退したって聞いて驚いたんだが」

「ああ、悪かったね。ちょっと横になったら良くなったよ。それより、私に構ってていいのかい? どこかのだれかさんに告白をするんだろう?」

「あー。それはいいんだよ。そういや、撫子はどうしたんだ、来てるんだろ?」

「撫子ちゃんならリビングで寝ているから安心してくれ」



 彼女の言葉に俺は返事を濁した。この感じだとこいつへの告白の練習だとはばれていないようだ。それにしても、撫子のやつ里香の看病を頼んだのになんで寝ているんだ? でもちょっと違和感を覚えた。撫子は真面目だからそんなことしないと思うんだが。



「それで……告白はもうしたのかな? いや、ごめん無粋だったね。それに、うまくいってたらこんなとこにきてはいないだろうからね」

「いや……俺は……」

「言わなくていいっていてるんだよ。それより一つの実験に付き合ってくれないか?」

「それよりって……俺は里香が心配でお見舞いに来たんだが……」



 まあ、いいか、俺は内心すこしほっとしていた。勢いできたものの実際どうすればいいかわからなかったからな。色々かんがえとくかーと思っていると彼女はなにやらひものついた五円玉を取り出した。


「催眠術って知ってるかな?」

「はっ?」


 こいつなにいってんだ、体調不良のせいか頭バグったのか? 一応こいつ天才少女なんだよな……

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