第7話 レベル




「『千本槍』! 」


 俺は広場にいる5匹の黒い猿の魔物の中央に10本の土槍を発生させた。


 


 それにより3匹を仕留めたが、2匹はかすっただけで致命傷を与えられなかった。


『ペングニル』!


 それを想定していた俺は広場の周りを木々に隠れながら走り、ペングニルを投げつけ一匹を仕留めた。


 すると残りの一匹が逃げようとしたので、俺は移動しながら戻ってきたペングニルを再度投げつけた。


 それは猿の頭部を直撃し、鈍い音をたてた後に猿はその場に倒れた。


「よしっ! Eランク魔石ゲット! 」


 これでEランクの魔石が47個だ。目標の45個がやっと貯まった。


 俺は角兎の肉に釣られ、広場で全滅した猿の群れを見下ろし達成感と喜びに震えていた。


 そして広場に出て魔物探知機を地面に置き、匂いにつられて新たな魔物がやってこないかチラチラと見ながら魔石の回収を始めた。


 やっとだ。これで部屋が手に入る。


 ゴブリンに殺されそうになったりもしたが、この五日間の苦労がこれで報われる。



 あの日。初陣でテンパってしまい逃げるように神殿へと戻った俺は、もう一度複数の魔物との戦うための訓練をした。しかし翌日。3匹の緑狼と戦っている時に、人型で角の生えた緑色の子供の集団が俺の背後から突然襲い掛かってきた。


 結果的には緑狼と5匹いたその小鬼をなんとか倒したが、棍棒で頭を殴られ俺も血だらけになり死ぬかと思った。


 恐らくあの小鬼はゴブリンとかいうやつなんだろう。戦闘中は魔物探知機は見る余裕がないからな。まさかあんなに直ぐにやってくるとは思わなかった。緑狼との戦闘が長引いたせいだろう。失敗した。


 その後は人型の魔物を殺したこともあり、色々と精神的ダメージを受けて神殿に戻った。魔石は吐きながらもなんとか回収した。キツかった。


 そしてもう同じ目にあわないよう、多数の魔物に対しての戦い方を再度考えた。


 それで思いついたのが森の中を彷徨うのではなく、自分の有利な地形に魔物を誘い込む戦法だ。


 魔物探知機はあるが、探知できる範囲は限られている。ゴブリンに奇襲された時のように戦闘中に見るわけにもいかない。森には木の上を高速で移動する猿の魔物もいる。また奇襲を受ける可能性は高い。


 だから常に魔物探知機を確認でき、いつでも逃げれるような地形で待つことにした。


 そこで見つけたのが、神殿から東に1キロほどの場所にあるこの森の中の拓けた場所だ。


 ここは膝くらいまでの草しか生えていなくて、そこそこ広い。俺はこの広場の中央に角兎の肉と内臓を撒き、広場の周囲にあるやたら大きい木の幹に穴を開けてそこに潜んで待つことにした。


 結果としてこの戦法は大ハマりした。


 最初に広場に来るのは、ほとんどの場合が鼻の良い緑狼だ。俺は狼が肉に群がるタイミングで、十本しか出せないが剣山改め千本槍と名付けた土槍を地中から発生させ突き刺した。そして仕留め損なったに狼は、あらかじめ地慣らししておいた広場の外側の茂みの中を、木を盾にして移動しながらペングニルで仕留めていった。


 たまに今回のように猿の魔物が来る時もある。コイツらは素速く立体的な動きをするが、餌を前にした時には仲間内で奪い合う。俺はそこを狙って緑狼と同じように奇襲を仕掛け倒していった。


 この戦法のお陰で、ここ三日間で28個のEランクの魔石を手に入れることができた。怪我も一切ない。大成功だ。


 ああ、なぜ魔石のランクがわかったのかって? それは初陣を終えた日にギフトの間取り図を発動して確認したからだよ。


 保存しておいた間取り図を呼び出して色々いじっていたらさ、実行ボタンがあったので試しに押してみたんだ。そしたらパソコンに魔石を投入してくださいって表示が出た。それでとりあえず角兎の魔石を入れたら、そのまま画面を通り抜けて下に落ちた。


 俺はやっぱりEランクより下の魔石だったかと思って、祈るような気持ちで初陣のその日に狩った緑狼の魔石を2個投入したんだ。そしたら必要魔石の45て数字が43になった。


 そうして同じようにゴブリンや猿の魔石も調べた。二つとも緑狼と同じEランクだった。まあ色も大きさも似てたからそうだろうとは思ってた。


 そういうわけで魔石のランクが分かったわけだ。


 そのあとは撒き餌となる角兎を狩ってから広場に行き、集まってきた魔物を狩っての繰り返しだ。


 だがそんな狩りの日々も今日で一区切りがついた。


「ふう、これでよしっと」


 魔石の回収を終えた俺は、魔物探知機を拾い立ち上がった。


「ギフトで部屋ができればやっとあの火起こしから解放される。しかし火起こしがあんなに大変だとは思わなかったな」


 角兎の肉を焼いて食おうとしたけど、肝心の火がない。だから俺は森で落ち葉や枯れ木を拾ってきて、必死に棒を擦って火を起こした。これがなかなか火がつかなくてかなり苦労した。そりゃあもう大変だった。


「でもこれで部屋が現れなくて、模型とか出てきたらショックで死ぬかもしれない。頼むぜ女神」


 俺はそんな嫌な展開を思い浮かべながらも、神殿へ向かって森の中を走って移動した。


 また身体が軽くなった気がするな。今の戦闘でレベルが上がったか?


 レベルアップがあるとか、ほんとゲームの世界みたいだよな。


 そう、この世界にはレベルがある。


 いや、別にゲームみたいに自分のステータスが現れたとか、そういう話じゃない。ただ、数値として目に見えなくても、俺は間違いなくゲーム的なレベルアップをしている。なぜそう言い切れるかというと、体力も身体能力も初日に比べ大幅に上がっているからだ。


 今では足場の悪い森の中を走り回ってもまったく疲れない。最初は森で一戦しただけでクタクタだったのにだ。


 もちろん身体もそれに合わせて変化している。怪我の治りがやたら早いし175センチで中肉中背だった俺の身体は、今では腕が太くなり腹筋も割れてきた。たった五日でだ。どうりでやたら腹が減る上に、毎晩寝る度に全身が痛いと思ったよ。


 身体が強くなったからか、心なしか精神的な部分も強くなった気がする。毎晩地上げ屋のギフトの練習をしてるんだけど、精神が前ほど疲れなくなった。


 これはもう魔物を倒したことで、レベルアップしたとしか考えられないだろ。


 しかも驚くことにレベルアップしたのは俺だけじゃない。


 驚くことに昨日戦闘が終わった直後に、三種の神器も進化した。


 ペングニルは1メートルくらいの長さだったのが、20センチくらい長くなった。アンドロメダスケールも少し大きくなり、3メートルの長さだったのが5メートルに増えていた。魔物探知機も100メートルの探知だったのが、体感だけど150メートルにはなったと思う。


 三種の神器は所有者のレベルに応じて、その姿と能力を変化させていく物だということなんだろう。


 ああ、それと俺の着ているスーツとコートなんだけど、これは防具だった。しかも耐衝撃・防水・防汚・自動修復機能付きだ。


 それが分かったのは初陣の翌日に、ゴブリンと乱戦になった時だ。


 あの時はゴブリンに奇襲されて棍棒で頭を殴られたあと、しばらくリンチされてたんだけど頭以外全然痛くなかった。そのおかげで反撃に移れて命拾いをした。


 そのあと試しにペングニルで上着の袖の端の部分を刺してみたら穴が開いたので、耐衝撃の機能があるだけだと思う。いや、十分なんだけどな。


 それでしばらくすると袖に空けた穴が塞がったのを見て、神器と同じ修復機能があると思ったわけだ。俺の頭の出血における汚れもスーツの上をツルンて感じで落ちていったし、泥も軽くはらうと綺麗に落ちた。


 コートも羽織ってから近くの木に背中から当たりに行ったけど、全然痛くなかった。汚れもすぐ落ちるしスーツと同じ機能なんだと思う。


 そういえば風呂に入っていないのにYシャツも匂わない。恐らくYシャツも防汚や消臭機能があるんじゃないかと思う。下着や靴下はそうじゃなかったけど。


 そういった事から色々と自分の能力や装備のことを知ることができ、収穫の多い五日間だったと思う。


 レベルアップとか、ゲーム脳が久々に刺激されたよ。考えてもみればあんな凶暴な魔物がいる世界だ。これくらいは無いとこの世界の住民も生き残れないだろう。


 俺も死にたくないし、できるだけレベルを上げようと思う。


「いよいよだ。これで火起こしとも硬い土のベッドとも、塩気のない兎肉やかゆい身体ともお別れだ。俺はとうとうマイルームを手に入れるんだ」


 神殿に戻った俺は急いで扉を開けて中に入り、閉まったのを確認して地下へと降りた。そして初めて目が覚めた部屋に入ってすぐの場所で、間取り図のギフトを発動した。


「頼むぞ……さあこれで45個だ! いでよマイルーム! 」


 俺はあまりの嬉しさに、妙なテンションで光るパソコンに定数の魔石を投入した。


 その瞬間。パソコンの下に魔法陣のようなものが現れ、それが部屋いっぱいに広がっていき強烈な光を放った。


 俺はその光に目を開けていられなくなり、スーツの袖で目を隠しうつむき光が収まるまで待つのだった。

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