第34話「金だ、金をくれ」
「あ、もしもし?」
俺がこの世界にやってきて一ヶ月が経った。
だから、というわけでもないが、俺はある人に電話をかけた。
「はいはい。久しぶりね」
『もしもし』が通じる人と電話をするのも、いつぶりだろうか。
今、俺と通話している人は、そんな人だ。
まぁ、この国で『もしもし』が通じる人なんて、俺と、幼馴染の咲しかいないだろうけど。
すると、消去法的に通話の相手は咲と言うことになる。
「ほんと、久しぶりだな」
「んで、何の用で電話したのよ」
塩対応だな。機嫌でも悪いのか?
「いや、俺たちがこの国に来てから今日で一ヶ月だろ? どうしてるかなぁと思って」
「なによそれ」
「良いだろ、別に」
「まぁいいわ。私は元気よ」
「そりゃなによりだ。今は何やってるんだ?」
「研究よ」
「研究?」
「そう! 私の才能が買われてさ」
急に元気になったな。
もしかして、自分の功績を褒めてほしかったのかな?
まぁ、咲に限ってそんなことはないか。
「秋斗は国王の側近なんだっけ?」
「そうだな」
「秋斗らしいね」
「らしい・・・のか?」
「社会科とか得意だったじゃん」
それと側近がどう繋がるのかは知らんが、国王の責務をほとんど肩代わりしている以上、咲の言ってることは大いに当たっている。
「まぁでも、咲も らしいことしてるじゃん」
咲は理系科目の成績がかなり良かった。
それどころか、どこからそんな情報仕入れたんだよってレベルで博識だった。
まぁその代わり・・・なのかは知らんが、文系科目は絶望的だったな。
「まぁ建前はこの辺にしてさ」
「はい?」
「秋斗、貴様に頼みがある」
急に態度デカくなったな。
「なんだよ・・・急に」
「まぁ秋斗もわかってると思うけど、金だ、金をくれ」
「か、かね?」
「そうだ。横領するための研究費をもっとくれ」
「えぇ・・・(呆れ)」
人にものを頼む態度がそれかよ。そして横領って言っちゃってるよ、この子。
通話なので相手の表情はうかがえないが、上からゴミを見るような目で見下している姿が、まるで目の前に咲きがいるかのように想像できる。
「秋斗くん・・・咲、お金欲しいな」
態度がデカいと思ったら、今度は可愛げな声が受話器から聞こえてくる。
もしこれが、アーヘンやいつの日か見た、赤毛のメイドさんとか、まぁあとは可愛い子とかなら、きっと瞬殺というやつだろう。
だが、受話器から聞こえてくる声は、聞き慣れてるのに加えて、可愛げのカケラもない咲の声だ。
正直な話、萌えないのだ。
ということで、返す言葉は決まっている。
「ダメです」
「せっかく可愛く言ってやったのに」
「いや、可愛くないから」
「あ? とにかく金よこせ。今すぐに金をよこせ」
そしてこの豹変である。
お金に関しては、来年度から歳入増加が見込めるから、それまで待って欲しい。
と言った感じの旨を、社会科の苦手な咲でもわかるように説得した。
「まぁ、そういうことなら仕方ないわね。でも、来年から必ずだからな?」
どこまで傲慢なんだか。
でも、納得してもらえて良かった。
「あぁそれと、そのうち私も高崎に行くから、そのときはよろしく」
「へ? こっち来るのか?」
「なんか、功績を称える何かそういったものがあるらしいわ」
「国民栄誉賞的なものか?」
俺は一応国王側近なんだけど、そんなこと、一ミリも耳にしてないが・・・。
「まぁ詳しくは知らんけど、久しぶりに会えるの、楽しみにしてるよ」
「咲がそんなこと言うなんて珍しいな。実は寂しかったりして」
「は? んなわけねぇだろ?」
「すみません。だからそのマジトーンやめてください」
きっと電話越しの咲の目は、死んで腐りきった魚の目のようだろう。
んでも、咲が国家的な大きな功績を残したのだろうか。
表彰されるってことは、そういうことよな。
もしそうだとするなら、幼馴染である俺まで、なんだか誇り高い。
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