第26話「デートなんですから」


白のロングコート、ヒラヒラのついたミニとまではいかないが、ほどよい短さのスカートを身につけ、俺の横を歩く女性。



「いやぁ、やっぱ外は寒いですね」



そう言うと、白い息を吐きながら俺に向かって笑みを浮かべてくる。


まだ十七年ぐらいしか生きていないが、一つ思うことがある。



「生きてて良かったあぁぁぁ」



心の底からそう思いました。


まぁ、隣を歩いているのは恋人でも何でもない、財務大臣のアーヘンで、今日は一緒に出かけるだけなんですけどね。



「秋斗様、そんなに楽しみだったんですか?」


「恥ずかしながら、女性と二人だけで出かけるということ自体初めてでして」


「そうなんですか。まぁ私もそれは同じですよ? あ、お父さんは例外ですけど」



それを言うなら俺も、母親と出かけることは何度かある。


幼馴染の咲とも何度か出かけたことはあるが、こんなデートって感じの内容ではなかったんだよな。


ということで、実質初めてというわけです。



「それにしても、外ってこんなに寒いんだな」



俺がこの世界に転生してきてもう一週間以上が経つが、思い返せば今まで一回も外に出ていなかった。


室内はどこもかしこも空調が効いているので、非常に過ごしやすい温度だったが、今日 初めて外出して思いました。


え、なにこの温度? 温度じゃなくて気温か。まぁそんなのはどうでもよくてさ。



め っ さ 寒 い 。



エマに「防寒しなさいよ」って言われたから、一応コート着てきたけどさ。寒すぎでしょ? 今の気温は何度なんだ?



「秋斗様は寒がりですね」


「いや・・・ざぶい」



あまりの寒さに、全身バイブレーション状態だ。



「今日の最高気温は二度で、そこまで寒くないと思いますけどね。まぁ室内と比べたらそれまで ですが」



二度? 極寒じゃん。


まさかこの高崎という都市が、北極圏並みの極寒地だとは思わなかった。


アーヘンは寒くないのだろうか。


スカート故に、足とか見てるだけで寒そうだが。



「もし良ければ、貸しましょうか?」



見てるだけで寒そうって思っていた矢先、コートのポケットから手袋を差し出してくれた。



「えっと、これアーヘンさんのでは」


「良いんですよ。今日はそこまで寒くないですから」



二度だぞ!?


これで寒くないって、一体どんな身体してるんだ?



「それでは、遠慮なく」



まぁ俺は寒いんで、借りますけど。



「というか、寒いのなら地下街をメインに回りましょうか?」


「地下街?」


「この街の中心街は、地下道がいっぱいあるんですよ。通称地下街。中は暖房が効いていますから、暖かいですよ」


「なるほど・・・道理で人通りが少ないわけだ」



さっきから思っていたことだが、周りは太陽の光が入ってこないレベルで超高層ビルが乱立しているのに、人通りだけは奇妙なほど少ない。


その疑問の答えが、地下街ってわけか。


そりゃ、こんなに寒ければみんな暖かい地下を通るわな。



「あったけぇ」



ということで、早速 地下道に入ってみました。


印象としては、外の閑散が嘘のように賑わっていますね。


商業施設が軒を連ね、確かに地下街を形成している。



「ふむ・・・」


「何か気になるものでもありました?」



地下街を少し歩いて思ったことがある。



「物価の格差がすごいな・・・と思って」



店先にある商品の値段を見て思うのが、同じ乃至は似たような商品でも、値段が天と地ということだ。


その差は、モノによっては倍近くのものまである。



「物価の格差ですか・・・秋斗様は、都市間の移動が少ないことはご存知ですよね?」


「まぁ、さんざん議題になっているからな」


「そうですね。それで、都市間の移動が少ないということは、この街で販売される商品は、みんなこの街で作らないといけないですよね?」


「あぁ確かに。別に都市間同士の移動が全く無いというわけではないから、他都市からの商品もある」


「そうです。そういう商品は、移動費なども含めて値段が高いんですよ」



ローカル プロダクション フォー ローカル ケンシャンセン(Local production for local consumption)


つまり地産地消というのは、別に悪いことではないけど、何もかもというのは無理がある。


やはり、都市間輸送の確保(鉄道建設)は、早急にやって正解だった。


恐らくだが、経済が一気に成長する気がする。



「あ、秋斗様!」


「はい?」


「あそこのカフェ、行ってみませんか?」



そう言うアーヘンの目線の先には、木目調の壁が特徴的な、落ち着いた雰囲気のカフェがあった。



「えーっと」


「良いじゃないですか。これ、デートなんですから」



ニコッと、頭の位置を低くして上目遣いをしてくる。



「分かりました」



こういうお店に行ったことはないが、こんな頼まれ方をされたら、男としては断れないよな。

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