第16話「グリルったわ」


高級な高層マンションの最上階を思わせる部屋・・・そこがエマの部屋だ。


実際は高層ビルの最上階なのだが、高さが高層マンション、ビルのそれじゃないレベルで高い。


まぁその分、夜景とかは遠くまで見渡せて、綺麗なんですけどね。


そして今、俺はそんな感じのとこにいる。


これもしかしなくても、女の子の部屋に入ってるってことだよな。



「いや、ないか」



この人はそんな人じゃないのは、ここ数日で分かりきってる。


俺が意識するのもバカバカしいよな。



「んで、なに飲むわけ?」


「いや、酒とか飲んだことないから、分からないかな」



ちなみに、俺がエマの部屋にいる理由は、ここで酒を飲むためである。


その前に、どうか誤解はしないでほしい。


俺は確かに十七歳だ。だが、この国はドイツ方式らしい。そのため俺でもお酒は合法のようだ。


言うまでもないが、もちろん日本では違法である。



「ビールか、ワインか・・・まぁアルコール度数10パーセント以下ぐらいなら大抵 大丈夫よ」


「10パーセントって、度数高くないか?」



俺の年齢だと、度数が低いお酒しか飲めないらしい。


アルコール度数に関しては完全に無知だが、日本で10パーセント以上のお酒ってそんなに見かけない気がする。



「10パーセントねぇ・・・まぁその人次第じゃない? それに、10パーセント超えていても、死ななきゃ問題ないわよ」


「それでいいのか」


「だって、この国 私が法律だもの」


「まぁそうなるのか」



立憲君主制って便利なんだなぁ・・・と。



「んじゃ、私の好きなものでいいかしら」


「良いですよ」



ということで、彼女が別室からワインボトルを持ってきた。



「ろま・・・ねぇ?」



文字が書いてあるのだが、ローマ字・・・いや、ラテン文字か? とにかく読めない。これは英語じゃないな。ドイツ語か?



「ロマネ・コンティよ。ドイツ語じゃなくてフランス語」


「俺 ドイツ語がどうこう言ってませんけど」



心の中では言ったけど。



「何となくわかるのよ」


「は、はぁ」



悔しいので調べてみました。



「待て待て、これエクスペンシブ(Expensive)でトイヤー(Teuer)なやつじゃないですか!?」


「なに秋斗までドイツ語使ってるのよ」


「そりゃ使いたくなりますよ!?」


「初めてなら、失敗がない方がいいでしょ?」


「確かにこれなら失敗はないでしょうね!?」



ネットで調べたら、200万円から300万円ほどの値段しか出てこない。


それどころか「一生に一度は飲みたい」などと言われてるほどだ。


それはつまり、ワインが好きな人なら喉から手が出るほど欲しいということだろう。



「あら、ワインは嫌だったかしら」


「初めてにしてはハードルが高すぎます」



仮にこれ飲んで口に合わなかったら、世界中から非難されること間違いなしだろう。


こういうのは、その価値を十分に理解してから飲んだ方が良いというものだ。



「庶民向けのやつはないのか?」


「わかったわ」



そう言い、また別室に向かう。


数分で帰ってきた彼女の手には、また別のワインボトルが持たれていた。



「えっと・・・」



また読めない。



「La Cuvée Mythique Blanc よ」


「はい?」


「だから、La Cuvée Mythique Blanc よ」


「あの、無駄にネイティブっぽく言うのやめてもらえません?」



ドイツ語はあんなカタコトなのに。



「ラ・キュベ・ミティーク ブランよ」



やっと日本語っぽく言ってくれた。



「これは高くないよな?」


「札一枚で買えるわ」


「ならよかった」



ということで、人生初のワインを飲んでみる。


見た目は透明に少し色がついた感じで、まぁ察するに、白ワインだろう。



「う、うーーん・・・?」



飲んでみると、なんか不思議な味がする。



「どうかしら」


「なんだろ、ワインだからぶどうの味でもするのかなぁ・・・って思ってたから、なんか想像と違うんだよな」



もちろんぶどうの味もしなくはないのだが、もっと違う・・・桃とか洋梨とか、その辺の味がするんだよな。気のせいかな?



「ほう・・・秋斗も食レポは苦手なタチかしら」


「ですね」


「私も同じよ。でも、味の良し悪しはわかっているつもり」


「そうなんか」



まぁそこは、さすが貴族って感じだろうか。



「ちょっと待っててね」


「あ、うん」



また席を外す。今日はよく動くな。



「おまたせ」



数分もしないうちに帰ってきた。


手にはお皿を持っているが、これもしかして。



「白ワインでしょう? 合うかなぁって思って」


「エマが作ったのか?」


「そうよ。作り置きだけどね」



こいつ、料理できたのか。



「えっと、鶏肉とじゃがいも?」


「レモンをかけてグリルったわ」


「グリルったのか」


「グリルったわ」



味は・・・まぁ美味しいんですけどね。


肉なのにさっぱりした味わいは、レモンだからなのだろうか。


確かにこれは、今飲んでる白ワインと合う・・・な? うん、やっぱ良し悪しがよく分からない。


まぁでも、夜ご飯も食べてなかったし、これはちょうどいい。



ーーーーーーーーーーーー※ーーーーーーーーーーーー



言うまでもないと思いますが、一応書いておきますね。

ドイツの法律では、

14歳以上は、親の監視下でアルコール濃度の低いお酒

16歳以上は、自分でアルコール濃度の低いお酒

18歳以上で、全てのお酒

が、飲酒可能となっています(2019年時点)

これはドイツの法律であり、

日 本 で は 普 通 に 違 法 に な り ま す 。

なので、日本ではお酒は二十歳になってから・・・ということで。

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