第49話 魔王城

ドサリ.....


「痛て、ててて....。」


何が起きた?

確か、ジャルジャルートに招待がなんたらって....。

なんか見たことない文字の魔法陣に包まれて?

気づいたら、ここ。

どこだ、ここ?


キョロキョロと周りを見渡すアレックス。

四方の壁に蝋燭が灯っているが、窓がないのでひどく圧迫感がある。

部屋の大きさは、エレベーターの個室ほどの狭小空間。

石でできた床には、さっきの魔法陣みたいな模様が彫ってあった。

しかし、ドアがない....。


どうやって、脱出するんだ?

自分たちもどうなるかわかんねぇけど、あっちのロウェルたちも大丈夫だろうか?

魔力の道が切れてるから、防御壁も擬似太陽も全て解除されている。

まぁ、エバンズ団長が楽してたから魔力余ってるだろ。なんとかなるな。


横にはネフィがいるが、....意識が戻ってきてない。

そして、もう一人。意識がなく横たわってる人物、いや、悪魔?のジェ・スーがいた。


「あー、これって転移だよなぁ。

この世界にも転移魔法があったんだな。

ネフィの意識がないのは、よくあるラノベの転移酔いか?

おーい、起きろ。ネフィ。どっかに飛ばされたぞ〜。

か〜じ〜だぁ〜、避難しろ〜、起きてくださ〜い。」


右手でネフィを揺すり、声をかけつつ、もう片方の手で指をパチンと鳴らし、魔術を行使した。


『状態異常回復 アブノーマルステート リカバー!』


パァーッと、ネフィの全身が光る。

威圧と違って、今回は心の問題じゃないから状態異常の魔術が効くはずだ。


三半規管と耳石の機能と脳の混乱を治し、平衡感覚の修正を図れば万事OKだ。


多分、これで起こせばいいはず。

おーい、起きろ〜。

起きないと、アンモニア水かけるぞー?


ゆさゆさゆさ.....、ゆさゆさ......。


起きないな?おーい。起きろ〜。


..ゆさゆさ....。


....仕方ない。

いでよっ、生成の魔法陣!


『アンモニアNH3合成!結晶化!

水H2O生成!撹拌!

水酸化アンモニウムNH4OH!状態維持!!』


ネフィ、覚悟しろっ!

出来たてほやほや気付け水、臭度MAX!

いけっ降下!


ポタポタ....。


『ぎゅわぁぁぁっ!』


目、鼻、口がクワッと開いて、ガバッと起き上がる。

ウォーター!ウォーター!、と叫びながら慌てて顔を洗うネフィ。


「臭っ!臭っ!まだ匂いがぁぁ!

オーマイガァァ!!

何してくれるの!?アレク!

私の嗅覚機能っ、殺す気!?」


ガクガクとゆさぶられたアレックスは、ニヤニヤしながらネフィに『清浄 プリフィ』をかけてやった。


いつもの鬱憤を少しやり返すことができ、満足した。

その後は、ちゃんと情けをかけてやる。

基本紳士な男、アレックスだ。


「おはよう。起こしたんだけど、なかなか覚醒しないから心配したんだぞ〜?」


「ニヤニヤっ、ニヨニヨしながら言われても、ちーーっとも心配が伝わって来ないよねっ!?

ていうか、心配なんてしてなかったよね!?

さらっと、嘘言わないで!この童貞!


てか、ここどこぉぉぉっ!?」


「わからん。」


「はぁ!?」


「ここドアも窓もねぇし?

探索しにも行けなかったし?

仮に、ここから出れたとしても、ネフィを置いて行くことなんかできねぇだろ。


....一応、お前は女なんだからさ?男の俺がしっかりしなくちゃダメだろ?」


ネフィを覗き込みながら、心配そうに見上げるアレックス。

するとカキンっと、ネフィが固まった。

何か、変な発言したか?と、アレックスが不思議に思って見つめていると、ネフィの瞳が右や左に揺れ始め、目線が合わなくなった。


「あ、うん....。そうだね、生物学上は女だよ...。ありがとう....。」


急に女性扱いをされたことで、照れたみたいだ。

目元をほんのり赤く染め、もじもじとしながら御礼を言う。


『そんなことで!?どうした!?ツンデレかぁぁ!?なっ、なんか可愛いぞ?』と、アレックスはちょっとだけキュンとした。

でもすぐ、『待て待て待て。これは吊橋効果だ。出口がない密室、あーんど、現在地もわからないっつう不安の所為だ!うん、きっとそうに違いない!』と、思い直したのだった。


アレックスは拗らせ男子である。

無意識のうちに、恋愛を遠ざけようとしてしまう。

ちっちゃな恋愛フラグは、ぎゅーぎゅーに押し込んで鍵をかける。

きっと、今世も童貞卒業出来ない...。


とりあえず気持ちを落ち着かせたアレックスは、このまま座っていてもしょうがないので、動き出すことにした。

まだ倒れたままのジェ・スーをその場に放置して、壁や天井を調べ始める。

まずは出口を見つけなくてはならない。


コンコンと叩いたり、削ってみたり、魔力を壁や天井に通してみたりして、秘密の扉がないか確かめて行く。

やはり扉が見つからない。


やることがあっという間になくなった。

扉がなければ、次の行動も起こせない。


「ないな。」「ないね。」

「詰んだな。」「詰んだね。」


ぽく、ぽく、ぽく、ぽく、ちーーーーーぃん......。


静寂が場を支配し、密室の圧迫感がじわじわとやってくる。

『このまま長いことココにいれば、精神がやられ、いずれ狂ってしまうんだろうなぁ。黒とか白一色じゃないだけマシか?』と思案していると、ガコォっと大きな音がした。


なんだ?


ガッ、ガッ、ガッ.......ガチャガチャガチャガチャ...。


次いで機械が駆動しているような音も聞こえてきた。

何かが動いているみたいだ。


しばらくガチャガチャ音が聞こえていたが、音が急に止む。

少し時間が空いて、今度はカチンっと金属がぶつかるような響く音が聞こえたと思ったら、ゴゴゴゴ...という音と共に床がいきなり下降し始めた。


「えぇっ!そういう仕組み??」


どうやら床が迫り上がった状態だったようだ。

どんなカラクリ屋敷だ。


床がどんどん下がり、やがてゴトンっと音を立てて止まった。


「やっほ〜☆ようこそ!」


陽気な声がした方を見ると、頭に羊の角が生えた男児がいた。


8歳くらいか?

将来有望なイケメンになること間違いなしって感じのきらきらオーラがある天使のような子供だった。


ネフィもポカーンとした顔で男児を見ている。

この場に、似つかわしくない存在に、脳の処理が追いついてないようだ。


そんなネフィに、『あれれ?見えてる?僕のこと見えてる?』って目の前で手をブンブン振ってくる羊男児。

なんかわからんが、あざとい感じがする。


イラッとしたアレックスが、羊男児にぞんざいに問う。

「お前は、ダ・レ・だ?ここは、ド・コ・だ?」


「えっ?誰ってひどいなぁ。

しかも言い方っ! ぷんぷん、ぷりぷり☆

人間って、子供には優しくするもんでしょ?

なってないよ、お兄さん?

ちなみに僕は、王兄ジャルジャルートだよ。

君たちを招待したんだから、当然でしょ?

迎えにきたよ〜。

ちなみに、ここは、魔王城ね☆」


「は?何言ってんだ?

そんなわけないだろう。こんな小児が王兄??

それに、喋り方が違う。

ジャルジャルートの一人称は『俺』だったぞ?」


「うん。この姿の時は、『僕』って喋るんだ。

似合うでしょ〜☆可愛いでしょ〜?あざといでしょ〜♪

ちなみにティーンくらいの姿から『俺』を使うよ。」


(?????)

何言ってんのか、全くわからない。


「見たほうが早いかな。」と、自称ジャルジャルートが腰紐を解く。

腰紐で調整していたローブの布地がダボっと床に落ちた。

ずいぶん男児の体と合っていないローブを着てたようだ。


次いで、手をパチンと叩く羊男児。

すると、ぼわわんっ、にょきにょきにょきっと身長が伸び、筋肉もメキメキと発達し、顔のラインもシャープになった。

最終的にアレックスたちと同じくらいの年齢の青年に成長した。


「はぁっ!?」


アレックス達は、『幻覚ではなく、実際に成長しているぅぅぅ!?』と、びっくりした。

骨は?皮膚は?どうなってんだ??


成長した姿では、ローブがちょうどいい大きさになっていた。

そのために、ローブが長かったのか...。


「これがティーンの時の姿。

俺、まだ成長できるから。まぁ見てて?」


声まで低くなってる....。どうなってんだ?


パチンと手をまた叩くと、今度は30歳くらいのイケメンに。

またパチンと叩くと、50歳くらいのイケオジに変化した。


「こんな風に、いろんな年齢の姿に自由に変えられる。

それに合わせて、しゃべり方も違和感がないように変えている。

ちなみに、変えられるって言っても、私の今まで生きてきた容姿のみだが。

今現在の実際の姿は、この姿だな。

だが、自分としては小さい姿が殊の外、気に入ってる。

歩くのにも時間がかかるし、手が小さいから作業するにも時間がかかるからな。」


得意げに説明するジャルジャルート。

声も渋めに変わっている。ちょいワル親父風だった。

だが、言ってることは理解ができない。

時間がかかることが、気に入ってる?


「それっていいのか?普通は逆じゃね?」


「ああ、時間は余るほどあるからな。」


「???」


全く理解ができない。

時間があっても、わざわざ不自由な身体を選ぶか?


「我々悪魔は、この世界ができた時から生きてるんだ。

つまり、君たちが数える時間や日にちの概念が、有って無いものなんだ。

長く生きていると、今日はどうだったとか考えられない。

月単位でなら、かろうじて考えられるかもしれんが。

お前たちだって、1秒で何が起きたとか考えないだろう?

つまり、人間みたいに急ぐ必要がないんだ。むしろ、時間がかかることは美徳になる。」


「はぁ...。了解だ。

理解はできないが、余計な動きをするのが好きなんだな。変わってるな、悪魔って。

そんでもって、お前は今まで過ごしてきた若い時の姿に自由に変化できて、かつご丁寧にも外見に合わせて喋り方も変えてるんだな?

.......。(芸が細けぇな....。)

なるほど。ジェ・スーの体で喋ってる時に、口調がたまに変わったのはそういうことか。」


「ねぇ、ジャルジャルート!

そのイケオジ姿でずっといればいいじゃん?

その方が貫禄があるし、カッコいいよ。

それにさ、いくら男児の姿でも、実年齢が仙人じゃん?

『僕』とか使って恥ずかしくない?」


「ない。

さっきも言ったが、我々は、人間に比べたら時間がゆっくり過ぎて行くんだ。

常に新しいものや刺激に飢えてる。

こんなことでは、羞恥なんて感じない。

むしろ、羞恥を感じられる出来事は大歓迎だ!

だから、......(パチン!)....姿を変えて、口調を変えるような些細な変化くらい楽しまなきゃやってられないよね☆」


話してる途中で、パチンと手を打ち、今度は男児の姿に変わったジャルジャルート。

ヨイショヨイショとローブをたくし上げ、腰紐で調整する。

本当に男児の姿が気に入っているようだ。


「なぁ、ジャルジャルート。ソレ、いちいちめんどくさくねぇの?」

アレックスは、姿が変わる度に、ローブの腰紐を調整し長さを変える行為が手間に思えた。


「めんどくさい?全然☆

最近めんどくさいって思ったことがない気がする〜。最後は、いつだったかなぁ......。

天界のクソ野郎どもが、難癖つけてきた時??

それも一万年以上前かなぁ。

常に何かやってる方が幸せだから、細々したことが大好きなんだ。」


なんつーまめまめしい悪魔なんだ。

しかも、団長が話した神話通りなら難癖で終わらないほどの戦いだったんじゃないだろうか...、とアレックスは、信じられない気持ちになった。


「気が長いってこと??他の悪魔も、そんな感じ?

いやぁ、ありえないわ〜。

人間だったら、役に立たない愚図って馬鹿にされるよ。」


「大体、そうだね。

気が長い働き者が多いよ。

ひたすら植物を育てるやつや、ものづくりをするやつ、人間の観察日記を24時間張り付いてつけるやつ、悪戯することに全力をかけるやつとかね☆

でもね、....(パチン!)...

気は長いが、俺たち悪魔は短気だ。

怒る時は、速攻だ。

女、言動には気をつけろよ?気づいたら、体と頭がスパンっと離れるぞ。」


いきなり男児から青年期に変わり、凄まれた。

思わずグッと、迫力にのまれる。


 が、緊張感は、長くは続かなかった。


直ぐになんとも言えない気持ちになったのだった。


「ジャルジャルート....。

すごく目つきが怖くて、一瞬たしかに怯んだんだが...。

あー、なんだ?

視界の暴力っていうか......、台無しだ。

その姿じゃ、....変態だ。」


腰紐を調整せずに、姿が子供から青年に変わったので、ローブがミニスカートになってしまっている。


太もも半ばから、綺麗な生足がこんにちは。


なまじ、顔が彫刻像のように整い過ぎているから、違和感がすごい。

百年の恋も冷める姿だ。


「ふむ。そういえば人間は、あまり足を出さなかったな。

何故だ?寒い以外に、何か問題あるのか?」


「うーん。この世界では、はしたないらしいよ?」


「それに、人間の男はスカートを履かない。」


「なるほどな。それは知らなかった。」

失礼した、と言って腰紐を解く。

ようやくちゃんとしたイケメンになった。


「では、行くか。着いてこい。」とジャルジャルートが部屋から出ようとした。


「いやいや、待て待て。どこに行くんだ?それにコイツどうすんだ?」


アレックスは、意識がないジェ・スーを普通に放置していこうとするジャルジャルートを引き止める。


こんな石の床の上に女性を置いていったらいかん!腹が冷えるのは、女性には死活問題だ!、と医療従事者としては見過ごせない。


悪魔であるジェ・スーを女性の括りに入れていいのか、甚だ疑問ではあるが...。


ふんっと、ジェ・スーを一瞥したジャルジャルート。

全くその目には心配する雰囲気は無かった。


「そのうち、起きるだろう。

こんななりでも、俺の契約した元人間の中でも上位なんだ。

さっき、俺が無理矢理意識を奪ったから、反動で疲れてるだけだ。

癒されたら、勝手に動き出す。ほっとけ。

それにコイツが起きたら、襲ってくるぞ?

マジでコイツ人間憎んでるからな。

とくに、女。お前は、身体つきといいコイツの敵認定間違いなしだ。」


ネフィの妖艶なボンキュッボンな容姿は、ジェ・スーをいじめた花魁の姐さんたちを彷彿させるらしい。

『トラウマを引き起こす前に弟のところへ行くぞ』と、再度言われたので、後ろ髪を引かれる気がするが、転移部屋から出ることにした。


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