第30話 加水分解でセメント作りました。

騎士団での生活が始まった。


ロウェルから聞いていた通りまずは訓練場の整備から始める。


「おーい、アレックス!頼んでた材料届いたぞ〜。」

「あー、そこ置いといてくれ〜。」


アレックスは、どんどん届く石と粘土を視界に入れながら、風と土魔法で木を伐採してはひとまとめに寄せる。

木々を一通り伐採し終わったら今度は、土をごっそり掘り起こし山のように積み上げた。この土は、訓練場を埋め立てるのに後で使う。


次に温水が湧き出ている場所から、人工的に作った訓練場横の穴に水を引き込むように高低差をつけて石を配置。

石にはセメントをつけて固定。

セメントは自作である。


材料は、粘土質の土を錬金術を使って高温で燃焼させて、人工ポゾランを生成。

次に、化学式で水酸化カルシウムを生成することにする。

酸化カルシウム(生石灰)に加水分解で水酸化カルシウムを生成させた。

この出来上がったポゾランと水酸化カルシウムを混合させてセメントの完成だ。

これは、古代ローマのカラカラ浴場にも使われたもので温水には適している。

アレックスが作れるギリギリのセメントだった。強度がいいセメントやコンクリートは知識がないからお手上げだ。


温水が正常に石の管から横穴にさらさらと流れ出ることが確認出来たので、訓練場側のクレーターに、避けといた土を風魔法で運んで塞いで整地した。

あとは、水を引き込んだ側の穴の整備で終わりだ。


穴の壁面に石を綺麗に引き詰める。

土壁だとぐちゃぐちゃになり地盤が緩くなるので、しっかりと漏れがないよう石をピッタリと敷き詰めた。


最後に掘り起こす際に伐採した木々で屋根や壁を作って、温泉施設の完成だ。

ネフィ用に1人分の衝立部屋も作り、いつでも体を拭ける様にもした。

第3の女性騎士は、ネフィのみだからだ。

多分、洗浄魔法で事足りるが、お湯で拭きたい気分もあるだろうとわざわざ配慮した。

俺は、ことごとくネフィに甘い自覚がある。フェミニストというよりネフィニストだと思う。生粋の下僕じゃないかと、もう諦めている....


とにかく完成した温泉場は、湧き出る量が少ないので大勢で浸かることは出来ないが、お湯が延々とたまり続けるので経済的だ。水を薪で沸かす必要もないので労力もいらない。重畳だった。

出来上がったものを見て団員たちにも高評価をもらえた。

訓練後、体を綺麗にするのにお湯が使えるようになったからだ。

水浴びは、夏じゃないと地味に辛いしな...。

俺、頑張った。偉い。えっへん!


訓練場の整備が終わった後日。

アレックスは、騎士になってしまったので嫌々だが訓練に参加を余儀なくされた。

最初は、剣の持ち方もわからなくて四苦八苦。

見様見真似で剣を握り、打ち合う。

しかし、剣筋が定まらずふらふらで、剣の重さに最初ギョッとしたものだった。


身体強化の魔法を使ってようやく振り下ろせる...。

ヘタレすぎる、俺。

周りの奴らの筋肉半端ねぇ。

と、アレックスはしみじみ思った。

最弱の騎士の誕生である。


ただ、やはりネフィと過ごしていたおかげで目がかなりいいのは僥倖だった。

音速の鞭を避けることもできるアレックスは、勝つことは決してなくても攻撃が当たることがないので負けることもなかった。

周りからは、「無勝無敗の最終兵器」と揶揄われた。

なにその二つ名...。かっこよくねぇ!?

今日もいろんな騎士と打ち合うが一撃もくらわなかった。

もちろん、攻撃も当たらなかったが....。


大体訓練のあとは、雑務をする。

これが1日のルーティンだ。

アレックスとネフィは、書類仕事を担っていた。

勤怠表を作ったり、隊員の給与計算、雑費の計算などだ。

遠征があれば、遠征予算の計上などイベントごとに書類が増える。

アレックスは、ネフィに言われるままひたすら計算をしていく。理系男子なので、計算は得意だ!

予算編成とか考えることは苦手だからそっちはネフィがやる。適材適所だろう?


今日の訓練の後も、雑務をしようと執務室に向かおうとしたが団長に全団員が集められた。


「集合!」


ハミルトンが号令をかけると、即座に全団員が各隊ごとにまとまり整列した。


「えー、実は厄介な案件がもたらされました。」

ハミルトンは困り顔で言い出しにくそうに話し出した。

どうやら、本当にめんどくさそうな任務になりそうな雰囲気だ。


「2ヶ月前くらいにチェラス地方の宵闇の森で、アンデッドが確認される頻度が増しました。最初のうちは、数体だったそうです。

冒険者達が出会うと燃やして対処していたようですが、その数が日に日に増えてきて、1ヶ月前には宵闇の森での狩りや採集が出来なくなる事態にまでなり、ギルドが介入することになったそうです。

ギルドとしては、聖魔法と火魔法が使える冒険者を募って対処していましたが、それでも数がどんどん増える現状らしいです。

アンデッドは、昼間は、宵闇の森の中しか活動できないので近隣の住民に害はないそうです...。

ですが森の境界には、アンデッドがゾロゾロいるのが見えるので、視覚的に恐怖を煽っているようです。

しかも日が暮れると森からアンデッドが大量に湧き出てくるので、身の毛もよだつ光景が繰り広げられて、阿鼻叫喚になってます。住民たちは、日が暮れると窓や扉に鍵をかけて身を潜めているようです。

今は、近くの教会の神官とギルドの冒険者達が昼夜逆転で討伐をしていますが疲弊が凄まじく、ギルドの要請により騎士団も出ることになりました。

当然第10騎士団は出征しますが、詠唱している間の魔術師達の護衛が必要になります。

よって、第3から9までの騎士団から1大隊ずつ派遣することが決まりました。

うちからは、第10大隊を出そうと思います。」

ハミルトンは、切々と現状を語った。


宵闇の森は、その名の通り二十四時間、夜のような森だ。

木々が生い茂り、蔦が頭上高く幾重にも絡みついているので、晴れた日でも日の光がほとんど入らずランプがないと進めないほどだ。

位置も大きな崖の北側に位置しているので、もともと夏以外は陽も差しづらい立地であるのも一因だ。

だが、日が入らないジメジメした環境による恩恵で、貴重な苔やキノコ等採集するには困らないお宝の森だし、魔物自体も大型のものが居ないので狩りもしやすい利がある。

初心者冒険者に適しているので人気があり近隣の街は、そこそこ栄えている。

そんなところにアンデッドがはこびるのはたしかに恐怖という他ない....。


「バンキュレイト隊長!」

ハミルトンがネフィに呼びかけ命令を下す。


「はっ!!」

ネフィが、ビシッと敬礼して答えた。


「貴殿の隊は、隊長・隊長補佐が魔術も使えるので大いに期待しています。よろしくお願いしますね。

作戦は、向こうのギルドマスター・神官長・各大隊長・第10騎士団長が全員集ってから、会議を行い決定するそうです。

周りと連携して、ことに当たるように。

ちなみに、聖女も出るそうです。聖女の護衛は、第1騎士団から出るので気にしなくていいです。」


あー、あれか。乙女ゲームのヒロインだな、ネフィの同級生の。

結局、第2王子と婚約できたんかなぁ...。

と、アレックスが任務と関係ないことを考えているとハミルトンから急に呼ばれ、ビクッとした。


「第10大隊長補佐っ!!」

ハミルトンが、アレックスに向かって声を張る。


「は、はいっ!!」

アレックスは急に注目されて思わず普通に返事をしてしまった。


「返事は、『はっ!』っです!ぼーっとしないように。

貴殿には、道中なるべく解熱鎮痛剤を作ってもらいます。今回、魔術師は全員攻撃魔法に専念するので、護衛の騎士や冒険者の怪我に回復魔法が使えません。

聖女も今回は癒しは行わず浄化に専念します。

なのであらかじめ冒険者と騎士には薬を渡して、死ぬ前に自分で服用してもらう予定になりました。

向こうで魔力切れを起こさない程度に薬を精製してください。」


アレックスは、騎士の仕事・魔術師の仕事・薬師の仕事3つもこなさないといけないようだ。

立派なワーカーホリックで過労死しそうである....。


「あと、薬を1回分に分ける作業が必要になるでしょう?ロウェルとジョッシュの2名をつけましょう。」


「ロウェル、ジョッシュ。

アレックスの助手をお願いします。現地では、バンキュレイト隊長とアレックスの護衛にまわってください。いいですね?

では、出立は明後日になります。

騎士達は馬で出発し先に到着してください。第10騎士団とアレックスとロウェルとジョッシュは、荷馬車移動になります。以上解散っ!!」


アレックス達は、明後日から遠征が始まることになった。


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