第21話 リダリアさんは、突き進む

窓から外を見ると、すでに真っ暗。

灯りといえば、遠くに酒場の灯りがちらほら見えるだけだ。


アレックスは、最後の仕上げに外に出た。

『着火 イグニッション』

空中に、火の玉をいくつか出して、建物の周りを照らす。

雪をザクザクと踏みしめながら進む。


あった、あった。

窓から捨てた汚れとバイ菌らしき黒い塊を残らず回収する。


『燃焼 カンバッション』

まとめて消し炭にした。立つ鳥跡を濁さずだ。


だいぶ遅くなったなぁ、ネフィが心配してるかな。

いや、...最悪怒ってるかも。


「それじゃ、治療が終わりましたので帰ります。」

一声、治療師さん達に声を掛けて帰ろうした。


「待ってくださーい!

アレックスさん、あのっ!

ゆ、夕ご飯をご一緒しませんかっ!?」

リダリアが遠くから駆けてきて、はぁはぁと肩で息をし、必死に懇願する。


(押せ押せ、リダリアっ!

お客の立場から、1歩前進するのよっ!

カレードに帰っても、一緒にお茶したりデートが切にしたい!

チャンスは、活かさないとっ!!

ご飯にかこつけて、お酒もじゃんじゃん飲まして酔い潰すのよ!

ワンナイトラブもやぶさかではないっ!

アレックスさんと結婚したら将来安定間違いなしなんだからっ!)

リダリアは、超肉食女子だった。


「お疲れ様です。今日は寝ずに働いてくれて助かりました。ありがとうございます。

夕飯ですか?そうですね、お腹が減ってるので魅力的なんですが...。

連れの状態が気になるんで、すぐに宿に帰らないと....。すいません。」

アレックスは、リダリアの心のうちも知らずにあっさりキッパリ断った。

アレックスは、好意に鈍感すぎる男である。


「お連れ様?誰かと一緒にマンチェスタに来てるんですか?」


「はい、幼馴染と来てるんですが。魔力切れで朝からぐったりしてるのを放置してきたので心配なんです。」

リダリアと話をしながらも、宿屋に向けて歩みを進める。


「魔力切れですか?珍しい症状ですね。

アレックスさんと同じ薬師さんですか?薬の作りすぎですかね。それにしてもずいぶん魔力がある方なんですねぇ。」

リダリアは、頭にハテナが沢山浮かんでるような顔で目をぱちぱち瞬いた。


「魔力切れって珍しいんですか?」


「はい、普通の人は魔力が元々少ないのでスッカラカンになっても、ちょっと怠いだけです。ぐったりするってことは、マックスの魔力量との差が凄いってことでしょう?」


へぇ〜、そうなのか。知らなかった。


「そうですね、昨日ギルドで計ったとき2300くらいありましたね。」

アレックスは、顎に手を当てて昨日の魔力測定のことを思い出しながら、さらっと告げた。


「.........。え?いくつですか?もう一度言ってください。」

リダリアはキョトンと首を傾げ、聞き間違いかと思ってもう一度聞き返した。


「2300ですね〜。魔力は、そのくらいだったんですが、力の方がすごくて....ゴリ  ら」


発言の途中で、リダリアが被せてきた。


「えぇぇぇっ!!!大魔道士様ですか!?

すごい魔力ですね。ほぇ〜....。

何をしたら、それほどの魔力がなくなるんですか?」

リダリアは、初めて聞く数値にびっくりして叫び声を上げつつ、また乙女の妄想の世界に旅立った。


(なんて人と一緒なの!?

アレックスさんの交友関係が謎だわ!

ミステリアスで素敵よぉぉぉ!

きっと、真っ暗な部屋で蝋燭の灯りをたくさん灯して、魔術談義をしてるのね!なんて知的でムードがあるんでしょう!)


もう何でもかんでもどうでもいいことでも、アレックスのことを素敵だと思うリダリアである。

恋は盲目、あばたもエクボ状態だ。


「何をしてたかなぁ...。1番の原因は瀕死の人に回復魔法かけたことですが。

他にはマンハッターホールの山を身体強化で駆け抜けたり、武器に魔力を通して切断したりしてましたかね。」

アレックスは、何でもないことのように何に使ったか事実だけを淡々と思い出しながら羅列していった。


「回復魔法....。凄いレアな属性の方なんですね。

ギルドに行ったということは冒険者の方なんですかぁ。」

へぇ〜と、リダリアは感心した。


「あ、リダリアさん。ここが俺が泊まってる宿屋です。」

リダリアと話しながら歩いていると、あっという間に宿屋に到着した。


「あ、そうですか....。お別れですね、寂しいですね...。」

リダリアは、モジモジしながら上目遣いでアレックスを見つめ、別れを惜しむ恋人のように秋波をおくる。


「そっか、リダリアさんは宿舎ですもんねぇ。

部屋に一人だと、寂しく感じる人なんですかぁ。

俺は、一人でも平気なタチなんで大丈夫ですよ!

それに、部屋には今は連れがいるんで寂しくないです。

リダリアさんは、カレードの親父さんのところにはいつ帰れるんですか?」

アレックスは、まじでトンチンカンな男である。

朴念仁だ。絶食系男子だ。

据え膳も食わないに違いない。


リダリアは、アレックスの鈍感さに息を呑んだ。

(えっ??嘘でしょう?この流れで、どうして自分と離れるのが寂しいって気づかないの!?

どうしたら、意識させられるのぉぉぉ??)

リダリアは、頭を抱えて苦悩した。


「今日、アレックスさんが大部分の患者さんを治してくれたので明日にでも帰れるんです......。」

リダリアは、がっかりしながらも、ぼそぼそと答えた。


「あー、よかったですね!家族と一緒がやっぱり楽しいですよね!」


(もう!わざとなの!?私の好意が、煩わしいからなの!?)

リダリアは、一周回って憤怒を覚えた。


「俺たちも、近いうちカレードに帰るので向こうでまた会いましょう。お休みなさい。」

ぺこっと頭を下げて、アレックスはさっさと宿屋に帰っていった。


道に残されたリダリアは、絶対振り向かせて見せるわっとメラメラと心を燃やし、指が真っ白になるくらいグッと拳を握り固く決意をした。


普通はここで脈なしとして恋心を捨てようとするのだが、リダリアは変なところにガッツがある女子だった。

リダリアも目が覚めない限り婚期を逃しそうである。



「ただいま〜、ネフィ生きてるか?」

アレックスは、ドアをそっと開けてそーっと伺う。


「おかえり〜。アレク〜。ずっと寝てたのと魔力回復薬のおかげで二日酔いくらいにはなったかなぁ〜。」

ネフィは、よっこいせっともたれながらベットに座った。


ネフィは頭がぐらぐらするのか眉間に皺が寄っている。


「飯は?」


「うーん、気持ち悪くて食欲はないけど、お腹は空いてると思う。」

親指と人差し指で眉間をぐりぐりと揉み解しながら必死に言葉を発する。


「じゃあ、俺が今日食べたオートミールの飯屋に行こうか。疲れた胃にピッタリだったぞ。」


「いいねぇ。パンがゆとかオートミールなら食べれそう。」

弱々しくネフィが同意する。


「ん、じゃあ行くぞ。」


ふらふらのネフィの腰を支えながら店に向かうことにした。

腰に手を回して引き寄せながら歩くので、はたから見ればバカップルみたいだ。


今日はネフィが具合が悪いので恥ずかしいが致し方ないと諦めながら歩く。


(恋人とデートみたいだなぁ。

実際の恋人だと、何か特別に楽しいのだろうか?わからんなぁ...)


アレックスは、未知の領域に想いを馳せながら支えて歩く。

ネフィが今は魔力を使えないので、アレクの温風ローブの中にネフィを包み込みながらだ。

もはや10人中10人が、恋人だと思うシチュエーションである。



そして、リダリアはご飯を食べ終わり店を出た時にその姿を目敏く見つけてしまう。お約束の展開である。


「!!?」


間が悪い女子であった。


(えええええええええっ!?どういうこと!?

アレックスさん、横の女性は誰ですか?!

顔は見えないけど、女性よね。長い髪だし体の線が細いもの。)


リダリアは、確かめるために尾行することにした。

アグレッシブ女子である。


(私の将来の旦那様に近づくなんて!?許さないんだからっ。

まずは、ライバルの情報を集めなくっちゃ!)


アレックスとネフィと、少し離れてリダリアがご飯屋に入って行った。




「いらっしゃーい。おや?お兄さん、昼間も来たね。」

店の女将さんが、アレックスのことを覚えていたようだ。


「こんばんは、オートミールが美味しかったのでまた来ました。夜ですが、ありますか?」


「もう朝のオートミールはないね〜。

お兄さん、男なんだからガッツリ肉を食いなよ!」


「僕は、肉でも何でもいいんですが。

連れが元気がなくてドロっとしたものなら食べれそうなんです。」


ネフィは、店につくなり机にぐてっと体を投げ出している。


「おやまあ、えらい別嬪さんじゃないかい?二日酔いかい?」

女将さんは、ネフィの顔をマジマジと見て具合を確認した。


「違うよ〜、おばちゃーん。魔力切れなの...。

昨日の夜から食べてないんだけど、口を動かすのもだるいの〜。」

ネフィは、目も閉じながら、なるべく低燃費に喋った。


「魔力切れかい?はぁ〜、そんなにだるいのかい。

ちょっと待ってな、クスクスとパンがゆだったらどっちがいいかい?」


「パンがゆ〜。しょっぱめに作ってぇ〜。」


アレックスは、ガッツリ食べれるおすすめのものとエールを頼んで、ネフィの横に座った。

ネフィの顔に髪が垂れて口に入りそうになってたので髪を、さっと耳にかけてやる。


ネフィは、目を一瞬開けてアレックスにお礼を言った。


リダリアは、綺麗な碧眼であるネフィを見てしまった。

(な、なんですかっ!?あの美少女は!

あの人が、大魔術師様?

男の人じゃなかったのぉぉ。

でも、なんでしょう。甘い雰囲気が全くないですね。)

リダリアは、お酒とイカ焼きを片手にふむふむと観察する。


「ネフィ、特級魔力回復薬の効果はどうだった?」


「ん〜、1昼夜寝続けたのもあるけど、500くらい回復してる。助かった〜。」


特級だとふむ、200〜300くらい回復するのかな。

個人差がありそうだが、寝るよりは回復するんだな。


「じゃあ、ネフィもう1本予備で買ってあるから飲んどけ。明日の朝、調子が良ければ月桂樹で回復薬を仕入れてからカレードに帰ろうか。」


「うん、おっけい〜。」

ネフィは、ごくっと魔力回復薬を服用した。



(アレックスさん、明日帰るの?宿屋の前で張りこみしてたら、一緒に帰れるかしら?)

リダリアは、偶然を装って一緒に帰ろうと算段を立てた。


しかし、リダリアは知らない。

アレックスたちは、野営しながら自力で帰ることを。

無駄な算段であった。


リダリアは、アレックスたちが店を出るまで観察していた。

(ふ〜む、アレックスさんは、お連れの方に恋愛感情は持ってなさそうね。

お連れの方はわからないわ、あるといえばあるかなぁ??

でも、ちょっとアレックスさんに寄りかかりすぎよね。気に食わないわっ!

明日出てきた時に、マウント取ってやるわっ!!)


プチ修羅場が、起きそうであった。




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