第4話 錬金術との邂逅

それからはひたすら本を読んでは、実践を繰り返した。

そして、ネフィが学園に入るまでにほとんどの魔法が使えるようになった。


「ネフィ。お前が学園に行ってる間、この小屋そのままにしておいてくれるか?風呂と洋服があれば、大店に魔術書買いに行けるから。」と提案した。


「ん〜、いいけどさ。魔術書高いよ?お金も置いてく?」とネフィが提案してくれたが、俺には秘策がある!


「大丈夫だ。殆どの魔術を覚えたから、魔法使って荒稼ぎするよ。

魔術師ギルドで働くのもいいかもな。俺も、16歳だから働きゃなきゃならねえし。」と、自信満々に答えた。


「わかった。じゃあ、たまに手紙を書くから。屋敷の従僕にこの小屋に届けてもらうから読んで。

もし、困ったらうちの使用人に言ってくれれば私に伝わるからね。次に帰ってくるのは夏季休暇になる。」


「おうっ、俺はお前を裏切らないから安心して行ってこい。」とお互いに拳を突き出して、コツンと合わせた。





ネフィが学園に行ってしばらくたったある日。

「何でも屋だよ〜。畑を耕したり、重い荷物の荷運び、護衛なんでもしまーす!魔術が使えるので、100人分働くよ〜。」と呼び込み中の俺。

ここ最近は、大農家の手伝いに行って95ヘクタールの面積の畑を耕した(ドーム20個くらいだ)。

土魔法と風魔法の重ねがけだ。

これがものの数分もしないうちに終わったので、えらく感謝され報酬も弾んだ。

これがきっかけになり、ここの街では俺はちょっとした有名人になった。


「アレク〜!ジャネット商会の頭取が、お前に話があるってよ。今から行けるか?」と早速仕事が舞い込んできた。


「一時間あれば、伺えるって伝えてくれるか?」と伝令を頼んだ。

今から小屋に行って、軽く体洗って服を着替えれば一時間で足りるだろう。


街の金持ち区域の大通りをまっすぐ進んで、綺麗な服がディスプレイされたショーウィンドウの店の裏手に入ったところにジャネット商会の事務所がある。

俺は、入り口にいる黒服に話しかけた。


「こんにちは。何でも屋のアレックスです。頭取からお話があるとうかがったんですが、取り次ぎお願いできますか?」と前世社会人だった俺は、ちゃんとした会話ができる。

これも売りの一つである。

すぐに応接室に通されて頭取が来るのを待っていた。


ガチャり。頭取らしきイケオジが入ってきた。


「はじめまして。君がアレックスくんかな?私はジャネット商会頭取のケビン・ジャネットだ。今日は、君に仕事の依頼がしたい。」と話しだした。


要約すると、この街から離れた場所に住んでいる錬金術師のところに行って依頼の品を取りに行って欲しい。途中、魔獣や盗賊が出ることがあるので自己責任で。ということだった。

うーん、これ俺一人に依頼ってちょっと胡散臭いか。依頼の品ってやばいものかなぁ。


「その依頼の品というのは、何ですか?差し支えなければ教えてほしいです。運ぶことで、犯罪になると俺は平民なのですぐに処罰されます。それだと困るのです。」と率直に不安を伝えた。


するとジャネットさんは、がははと豪快に笑って安心しなさいと言った。

「これを運んできてほしいんだ。」と、手のひらに乗るほどの大きさの瓶を見せてくれた。


「この中には、私の心臓の薬が入ってるんだ。錬金術師が薬を作ってくれるんだが、すごく貴重なものなんだ。だが大人数で護衛しながら行くと逆に盗賊を呼び寄せるだろう?だから君一人ならリスクを減らせるだろうと思ってな。」と説明してくれた。


錬金術師!?薬作れるのか!金や金属を作るんじゃなくて?それは、知りたい!!俺の中の薬剤師の血がたぎる!

ということで、二つ返事で行くことにした。





「ここが、錬金術師がいる家かぁ。」

見ると普通のログハウスって感じで、家の前にはちょっとした畑と薬草?畑があった。あと、ヤギがいてメェと鳴いていた。

確かにここに来るまで常人なら大変だった。

一度盗賊が現れたが、そこは俺の魔力量に任せて、土魔法でどっかんと足元の土を凹ませ盗賊を奈落の底に落とした。頑張れば出てこれるだろう…。頑張れ盗賊!

魔獣は、風魔法と氷魔法でヒトツキに串刺しにした。その後風魔法で解体して、火魔法で焼いて美味しくいただいた。

夜は、俺の下に魔法陣を敷いて魔力を流して防御壁を作った。そして普通に寝た。

魔法陣の上にいれば勝手に俺の魔力が魔法陣に流れて防御壁はそのままだ。朝起きたら、周りに魔獣が数匹いて朝飯にしてやった。

美味かった。俺、最強!

そんなこともあって、なかなか快適な旅だった。

馬を走らせ続けて、4日目の早朝にようやく目当ての錬金術師の家に着いたのだった。


「こんにちは〜。ジャネット商会から来ました〜。何でも屋のアレックスです。錬金術師さんいらっしゃいますか〜?」とノッカーをコンコンと鳴らした。


「こんにちは〜。いませんか〜??........留守かなぁ。」

家の中の気配を探ってみたが、居そうにない。


すると、家の向こうから「ちょっと待っててぇ。今、朝露を収穫してて時間との勝負だから!」と女の人の切羽詰まった声が聞こえてきた。

俺は家の裏手に回って観察することにした。

薔薇の花びらについた朝露を必死に収穫している茶色のウェーブがかかった髪とグリーンの目をした妙齢の女性がいた。

しばらく見ていると女性が何かを唱えた瞬間、瓶が光った。


ピカっ!キラキラと瓶の中身が淡く光っている...。

光った瞬間、小さく魔法陣が現れた気がした。


「お待たせ〜。ごめんね、待たせちゃって。今度の薬にどうしても必要でさ。この時期のバラが咲いてる早朝にしか採取できないから貴重なものでね。

ところで、お前さん一人かい?」と女性が俺の後ろを確認しながら言った。


「はい、一人です。俺の名前はアレックスです。よろしくお願いします。」

腰を思いっきり曲げてお辞儀をした。


「ジャネット商会からこの森までひとりで来たのかい!?護衛もいなくてこれたのか?!」と女の人は、驚いて俺の肩をぶんぶん揺さぶった。


「すごいじゃないか!一人で来れるなんて強いんだな!私はこの森の錬金術師カリナ・フォレスターだ。よろしく、アレックス!」と、鼻と鼻がくっつきそうなくらい近づいてきた。グイグイ来る性格の女性らしい。


「いやぁ、よくきたね!森の奥深くでびっくりしたでしょ。ここは、野生の薬草や洞窟の苔や湖の水など錬金術に必要なものが多くあってね。鮮度が大事だから街中ではなかなか暮らすことができないんだ。今回は、ジャネットの心臓の薬だったね。ちょっと待ってな。すぐ作るからね。」と、いそいそと作業台に向かった。


「ジキタリス草の残りが少ないね。ちょっと花壇に行ってくるよ。」と外のガーデンに行こうとしていたのでついて行くことにした。


「ジキタリスの葉っぱをこの鍋いっぱいに収穫してくれる?」って言うので二人でひたすら収穫した。

カリナの花壇はいろんな種類の植物があって楽しい。ある程度集め終わったので、家に移動した。


「じゃあ次は座りながら作業するよ。」とダイニングテーブルに葉っぱを並べて葉っぱを分別し出した。

「葉脈は要らないからそれ以外の部分をこっちに入れて。」と言われた。


ふんふん、使用部位は前世の生薬と一緒だな。と思いながら黙々と作業する。

葉っぱが全部仕分け終わったところで、魔法陣が描かれた紙をカリナは持ってきた。


「それはなんですか?」


「これかい?これは補助の魔法陣だね。理論上は、無くてもいいんだけど、魔力の節約に使ってるんだよ。この上に分別したジキタリスを置いてくれるかな?」と言われたので葉っぱを並べた。

「じゃあ始めるよ。」とカリナが魔力を魔法陣に流し出した。

『乾燥。...温度40度..送風....乾燥完了。粉砕....瓶封入。防腐....完了』


葉っぱが巻き上がり、大きなシャボン玉のような膜の中で葉っぱが踊る。

カリナの声に合わせて、徐々に乾燥されてシワシワの葉っぱになった。

続けて粉砕というと、渦のように巻き上がり遠心力と風力で粉々になり、あらかじめ用意してあった瓶に全て入っていく。最後にピカっと強い光を出して瓶に魔法陣が浮かんだ。

その後淡く光り続け、光がだんだんと消失していった。


ネフィとした契約の魔法陣みたいに、全てが終わると補助の魔法陣が焼失...。

魔法陣が跡形もなく消えたのを見て、俺はカリナに聞いてみた。

「毎回一つのものを下処理するためにわざわざ魔法陣を描くんですか?」


カリナは頭をかき、げんなりした顔をしながら説明してくれた。

「そうだよ。毎回描くのに時間がかかるが、これをするのとしないのでは魔力の減りが全然違うんだよ。たくさん魔力を込めて薬を作るから少しでも節約するのが大事なんだ。」


なるほど、魔力を薬に込めるかぁ、その考えは前世ではあり得ないな。奥が深い...。

「温度40度と言ってましたが、それが最適温度なんですか?僕が知ってるのは60度以下で乾燥するといいと聞いたことがあるんですが(前世の生薬の授業で習った時は60度以下だった)」と質問をした。


「よく知ってるね!正解だよ。温度が高いと乾燥時間が短くて済むんだけど、薬効が残らない。60度以下なら何度でもいいんだけど、長時間乾燥してると魔力が減るだろう?だから、今までの経験で私が出来うる力の妥協温度が40度だったんだ。他の錬金術師は、違う温度かもね!」


なるほど、自分なりの経験も必要になるのか。


「ちなみに温度は呪文に必要なんですか?」

乾燥で温風をビューと出したらいいんじゃないか?と思って聞いてみた。


「これは、私の師匠の受売りなんだが。大体ですると薬にばらつきが出るから、温度はしっかり指定することを徹底されててね。これも、他の錬金術師とは違うかもね。」


カリナはジキタリス粉の瓶を掲げながら、

「じゃあ、この処理済みのジキタリスを使って薬を作ってくよ。私は、魔力が足りないから空中で全部は錬成できない。よって機械を少し使う。これから作業部屋に行くけど見るかい?」と聞いてきたので二人で作業部屋に移動した。


(おお〜っ、リービッヒ冷却器だ!懐かしい!)

薬学生時代にお世話になった装置に感動を覚えた。


「ここに今作ったジキタリス粉を入れて、自然の中でできた天然酒を入れる。」と言ってカリナは匂いが強い濁った酒とさっきの粉をフラスコに入れた。


「天然酒ってなんですか?」


「動物が、木の穴に食べかけの木の実などをため込んだものが唾液の成分と雨水で発酵して、酒になったものだよ。酒入りの木の穴がなかなか見つけられないものでね。いつも苦労してるんだ。」と苦虫を潰したような顔をしながら説明してくれた。


へぇ〜、そんなものがあるのか。今度は探しながら帰ってみようと心に決めた。


「じゃあ、残りの錬成行くよ!」とカリナが呪文を唱え出した。


『加熱。...温度80度。冷却。...温度5度。加熱。...液体気化。残留物...瓶封入。防腐...完了』


冷却器とシャボン膜の両方で反応がおき、新たな結晶ができた。最後にまた瓶の中で強く発光。これで完成したらしい。


すごいぞ!錬金術って、製薬工場がひとりで出来るものなんだ!と俺は心の中で大興奮だ。


「で最後にこれの薬効を強力にして、丸薬にする。」と言いながらキラキラした水が入った瓶と、もったりしたペーストが入った皿を持ってきた。


「この水はね、満月の日に、月を閉じ込めた湖の水だよ。」とカリナがびっくり仰天なことを言い出した。


「どうやって、月を閉じ込めるんですか!?」と俺は目を白黒させながら聞いた。


「湖の上に満月が来た時、満月が湖に映る。その満月が映ってる場所の水を採取するんだ。

それをすぐに、ある呪文を唱えながら魔力を通すとキラキラした月の水が出来る。

この呪文は、錬金術師しか知らない秘密なんだ。」とカリナがお茶目に片目をつぶって俺をみた。


「で、このドロッとしたものは、黄芋とヤギのミルクを練ったものだね。これで丸薬を作ると癖がない味になる。」とペーストの説明もしてくれた。


「じゃあ、最後の仕上げだ。」とカリナは呪文を唱え始めた。


『月の水混入...撹拌…薬効定着。ペースト混入...再撹拌...成形。瓶封入。防腐..完了。』


月の水と粉がぐるぐる混ざり発光し、それからペーストを入れ更に混ざり、ウネウネと丸い粒に変化してようやく丸薬が出来上がった。


「よしこれで、ジャネットの薬ができたよ。」と、額に浮いた汗を拭いながら薬を渡してくれた。


「ありがとうございます。こんなに手間暇かかってできるんですね。街の治療師とは全然違くて驚きました。不思議な材料と魔力を使うってところが錬金術なんですね。」

「効きかたもかなり違うのでしょう?」と尊敬の眼差しでカリナを見た。


「そりゃあね、薬効もあげてるから少量で効くしね。これ1粒と治療師の薬を比べるなら鍋1杯は食べないといけないね。」と大きく口を開けてアハハとカリナは笑った。


「カリナさん、貴重な錬金術を見せていただいてありがとうございました。無事に街まで薬を持ち帰りますね。」と帰路についた。

  

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