最終話:みんなの王子様は私だけのお姫様

 二人が付き合い始めて初めての週末。今日は二人はデートの約束をしていた。


「み、美桜ちゃん、お待たせ」


「ん。…行きましょう…か…」


 水蓮の私服姿を見て美桜は固まってしまう。二人が私服で会うのは、これが初めてだった。


「…へ、変…だった?やっぱり私、スカート 似合わない?」


 水蓮のスカート姿は学園で見慣れている。しかし、美桜は水蓮がボーイッシュな格好で現れることを想像していた。現れた水蓮はばっちりメイクをして、短い髪を内巻きにして、白いニットに秋に相応しい淡い黄土色のスカートを穿いていた。


「ね、ねぇ…なんか言ってよ…」


 背が高く、男顔であることがコンプレックスだった水蓮は、女性らしい格好をすることがほとんどなかった。私服はほとんどパンツスタイル。メイクも最低限しかしない。

 やはり自分にはこういう格好は似合わないのだろうかと落ち込む水蓮を美桜は抱き寄せる。


「ひゃっ!な、何!?」


「…可愛いです。可愛すぎて、抱きしめたくなりました」


「う…あ、ありがとう…お世辞でも…嬉しい…」


「お世辞なわけないでしょう。鏡見ました?今の水蓮さん、めちゃくちゃ可愛いですよ。好きです。可愛い。可愛いですよ。水蓮さん」


「う…うぅ…そんな…可愛いって連呼しないで…」


「可愛い」


「もー!それ以外ないの!?」


「ふふ。可愛いしか言えなくなるくらい可愛いです」


「な…なんだよそれぇ…」


「ふふふ」


 結城水蓮はリーリエ女学園の全校生徒の憧れの的であり、学園の王子様。しかし、恋人の美桜の前で普通の女の子だ。恋する乙女だ。そのギャップがたまらなく愛おしいと、美桜は感じていた。


「可愛いですよ。水蓮さん」


「も、もうやだ…やめて…心臓が持たない…」


「ふふふ。可愛いー」


「もー!美桜ちゃん!」


「あははっ!」


 学園の王子様という称号は、水蓮にとってはある意味呪いのようなものだった。美桜はその呪いをあっさりと解き、本当の結城水蓮を解放した。


「水蓮さん、王子様なんて呼ばれてるけど、むしろお姫様ですよね」


「…そんなこと言うのは君くらいだよ」


「ふふ。じゃあ、私だけのお姫様ですね」


 水蓮もまた、自分を揶揄って笑う悪戯な恋人にたじたじになりながらも、その憎たらしい笑顔さえ愛おしいと感じていた。

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