第25話 対面

 翌朝、あたしたちは朝食をいただいたあと、アレンの部屋で話をしていた。

 ティリスとガクが昨日の夜から部屋に戻っていない事が真っ先に挙げられ彼らの安否が懸念される。 昨夜あたしは心配してチッタ達の部屋を訪ねてみたのだがガクも帰ってきていないという話になった。 しかし、どっかで喋ってるんだろーなどと言うチッタの言葉にあまり深くは考えず、その日は早めに寝ることにしたのだった。

 目が覚めても二人は部屋には戻ってはいなかったが、そのことは私達だけの秘密ということにしておきましょうというロイドの言葉でなるべく皆平然を装っていたのだった。

 何に関してかはわからないが、ちょっとした心当たりがあると言ったロイドは部屋を出て行き、部屋の中にはあたしたち三人だけになってしまったのであった。


 子供だけが残った部屋が、とても広いように感じられた。

「なんか、急に心細くなっちゃったね……」

 そう言ったあたしに、チッタが大丈夫だろ! と能天気な声を上げる。

 その声にアレンが俯いた。

「僕、怖いです。もしガクさんやティリスさんに何かあったら……」

 いまにも泣き出しそうなアレンの背中をあたしはさすった。

 普段はとてもしっかりしている彼だが、不安になる事があると急にこのようになってしまう。

 あたしが言えた事ではないが、やっぱりまだ幼いのだろう。

 聞けば齢十一だという。

 そんな小さな子がこの国の運命を背負うという事自体がそもそも間違っているのだ、とあたしは思った。


 扉をノックする音。

「アレン様、私です。ガレスです」

 一度顔を見合わせた三人だったが、すぐにアレンが返事をし、扉を開けた。

「ガレス、どうしました?」

 尋ねる彼に大臣は答えた。

「陛下の謁見の許可がおりました。こちらにお越しください」

「そうですか、分かりました。ロイドが戻り次第伺います」

 王子の返事に、大臣は首を横に振った。

「それはなりませぬアレン様。陛下はすぐに殿下をお連れするようにと仰っていました故」

 まるでロイドを邪魔者とするかのような口ぶりに、王子の瞳が不安に揺れる。

「……そう、ですか。分かりました。では今すぐ玉座の間に向かいます。チッタさん達は……」

 待っていてくださいと言おうとしたのだろうか、そのときチッタが口を開けた。

「俺たちも行く! な、いいだろ!」

「……いいですね、ガレス?」

 有無を言わさぬような彼の表情に、大臣はしぶしぶ頷き、 大臣の睨みつけるような目がこちらをじっと見つめていた。




 長い廊下を連れられ玉座の間に入ったあたしたちは、王の前に跪いた。

「顔を上げろ」

 王様のその声に顔を上げたアレンにあたしたちもつられ、顔を上げる。 アレンによく似た顔立ちの王がそこに座っていた。

「……陛下。いえ、父上。今日はあなたにお話があって参りました」

 ほぅ……と蓄えた髭をいじる王が口を開いた。

「お前の話は後だ。私の話を聞いてもらう」

「父上、話とは……」

「待っていろ。すぐにわかる事だ」

 嫌な予感しかしなかった。

 不安な気持ちを抑えながら数刻。皆何も話さずに待っていると、玉座の間の扉が開いたのが聞こえた。 大臣と他の臣下だろうか、数人が誰かを連れて王の近くに移動してきた。 連れてこられたのは二人で、頭には何か袋が被せられている。

 嫌な予感が頭をよぎり、二人が被った袋が同時に取られる。

「ティリスさん! ガクさん!」

 叫んだアレンの言葉通り、連れてこられたのはティリスとガクの二人で、ティリスは腹に血の跡が残っており、ガクは酷く殴られたようで、二人とも泥だらけになっていた。

「お前!」

 チッタが声を上げ変身しようとするとアレンがそれを制した。 連れてこられた二人も驚いているようで、状況をあまり把握できていないようだった。


「父上、これはどういうことですか。彼らは僕の大事な客人です」

 声を震わせながらアレンが口を開けた。 彼の目には涙が浮かんでいたが、口を噛み締めじっと耐えているようだった。

「交換条件だアレン。この二人の若者の命と、お前の命。ここでお前が素直に従うというなら、客人とやらはきちんとした場所に帰してやろう」

「……そんな……」

 幼い王子の心が、今にも押しつぶされそうになっているのが分かった。

「アレン、従う必要はない! 絶対に受け入れちゃ駄目だ!」

 叫んだガクを臣下の一人が蹴り、そして彼とティリスの喉元にナイフを突きつけた。

 怪我のためかぐったりとしているティリスが、心配そうな目をしてアレンを見つめていた。

「どうしたアレン。お前のせいで罪もない命が奪われようとしているのだぞ」

 アレンが俯き、その小さな手を握りしめ、心配そうにチッタがそれを見つめていた。 と、そのとき何かを決心したのか、アレンが顔を上げ、一歩前に進んだ。

「わかりました。その二人を開放してください父上」

 満足げな表情を浮かべる王が、ニヤリと笑みを浮かべた。

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