02-14. SPD終盤戦

 潜航ディビジョンでトリシャとセオドアがぶつかる。

 互いに物理の近接武装で潜航外殻を削り合う。

 相手のイナーシャルコントロールを消耗させようという狙いだ。


 トリシャの連続突きが黒いAFに襲いかかる。


「へいへーい。今日は調子が悪いんじゃないのぉ」


「見え見えの挑発に乗る拙者ではない」


 眼帯顔を引き締め王女をにらみ返し、一撃の重い両手剣で大きく外殻を割ろうとする。

 近接での攻撃力ならグラオザーム・ヴェヒターが有利だ。

 一振りで確実に流体制御への負荷を加えるだろう。


 それに対してトリシャはラフィーと同じ対応をする。


 先手で相手をちょこっと削って、抜き去る。

 ブレインパルスの出力としてはまだエクスカリバー14に軍配が上がる。

 でなければ、第十三聖剣を放つ利点がトリシャにない。


 セオドアが置いていかれることに狼狽する。


「お、お前もか『勤労王女ロイヤルプロレタリア』!」


「本命が待っているんだから、手間を掛けてはいられないのよ」


「傲慢な言い方だな。目的の者以外は眼中に無しと申すか」


「ちゃんと見ているわよ。どんなエアリエルでも、ないがしろにできるほどASFは甘くないんだから」


 水面に飛び出す青い煌めきエクスカリバー14。


「だから、お見上げ」


 背後へ向いているレーザー推進機を軽く収束させ照射。

 エクスカリバー13は大出力放射以外にも、小分けで使うことが出来る。

 それは推進機能の他に、攻撃にも転用できる。


 海水の切り替わり時にグラオザーム・ヴェヒターがレーザーを浴びてしまう。

 ブレインパルスの減衰効果が更にかかり、ヒットポイントも残りわずかにまで減らされてしまった。


「此度のレースはここまでなのか……」


 さすがのセオドアも自分の状態がわからないわけではない。

 苦しい顔で機体の安定に専念することにした。




 レースも終盤に入り、緊張感が更に高まる。

 未だに中団以上の順位が固定されず入れ替わりが続いている。

 エクスカリバー13による超広範囲攻撃の影響だ。


 一見エクスカリバーから逃れたアエロフォーミュラが有利と見られるが、そこはエアリエルたちの知恵の絞りどころだ。


 ダメージを受けた同士で一時共闘する戦法を取る者たちも出た。


 この方法では無傷のラフィーが多人数に囲まれることになる。


 ちょうど今がその時だった。



 第二海上ディビジョンで前方を2機のAFに抑えられ、横合いから牽制射撃をされる。


 加速しようにも横に抜けようにもガッチリと抑えられて

しまっている。

 アルス・ノヴァの機体性能で押し通すこともできる、

 だが経験の浅いラフィーには、その場合の反動がどれだけくるか予測できず戸惑っていた。

 ここで力を使い切ってしまっては、先頭へ追いつくことができなくなる。


 無理をせず立体的に動ける潜航ディビジョンか、飛行区域までまって追抜けば良いかもしれない。


 しかしレースはいつまでも続くわけではない。

 もうあと数ラップで終わってしまうのだ。


 レース最初の焦燥が再びラフィーの身体を炙りだす。

 ちりちりと小さな炎を肌に近づけられているような不快感。


 そして何度も思い返す。

 何事もやらなくては始まらない。


 RHFの設計図を見つけたのも、ニタジークに出会えたのも、直人たちに支えてもらえたのも。

 全部が全部、ラフィーがやろうと決めて、行動してきたからだ。


 考えがまとまった時、潜航ディビジョンに移行した。

 水中ではレーザー、ビームに類するものは機能が制限される。

 なのでラフィーは浅慮にコース限界まで深く潜って、相手からの攻撃をやり過ごす。

 トリシャと一緒にチームで応援しているフォロワーたちも、小さなエアリエルの思い切った行動に驚愕する。

 その驚きが力となって、ラフィーに返ってきた。

 アルス・ノヴァがさらに増速する。


 これだ。この感覚が、人と一緒に飛んでいるという共感だ。


 強引にブロックしていた3機を抜いて、空中に飛び出る。

 開けた視界は、舞上げた水しぶきと、晴れやかな気持ちで輝いて見えた。




 トリシャが前方を泳ぐライジンシーカーに繋ぎを取る。


「さてイリソン。一つ提案があるんだけれど」


「なーにぃ? 『蒼き旋風ブルーゲイル』さんはここでなんの企みなのぉ?」


「ラフィーに抜かれてだらけているわね。

 本来の仕事であるジャーニのアシスト、つまり他のAFの足止めや牽制ができなくて拗ねるのも解るけど」


 ジャベリン使い切っちゃったし、と細かくトリシャが頷く。


「実はわたしもラフィーのアシストを考えているの。

 予定では逆の立場だったんだけど、レースって水物だから。

 本番になるまでわからないこと多いのよね」


「それで、一緒にやろうってお話」


「ううん。違うわ。素直に落ちちゃってお願い」


 会話中に接近した所でナギライフルによる大振り。


 イリソンは泡を食って避ける。


「めっちゃズッこいやり方するじゃん!」


「できることならラフィーが使っていた新型ビームセイバーでずばっといきたかったわ。

 でもアレってAK46専用に作ってあるのかもしれないのよね。

 途中で変形させられるのは驚いちゃった」


「あんだけわけわからないビームセイバーなのに、弾数にまだ余裕があるのが不思議だわ。

 ラフィーは一体どこからあんな高性能なオプションを手に入れたの?」


 最後のビームランチャーでエクスカリバーを追い払ったイリソンが会話続ける。


「どうもF衛星の実験機らしいのよ」


「うわ。そんな汚いところいきたくない」


 さすがに汚いは違うんじゃないかなと思いつつ、ナギライフルでの突撃を敢行する。


 武装が尽きたライジンシーカーは逃げるだけだ。


 コースラインが空いた所でエクスカリバー14が先行する。


「それじゃ殿しんがりはよろしく」


「今からでもおかーさんたちに追いつくつもりなんだ」


「当然でしょ。トップを狙ってないなんて、ついちゃいけない嘘よ」


 真剣な眼差しでゴールを見据える王女がはっきりと言い切った。




 一方でトップを先導し続ける2人のエアリエルは、徐々に聖剣のダメージから回復してくる出力を確かめていた。


 ジャーニは最後まで力を温存し、最終ラップに掛ける心づもりだ。


 ルカインは付かず離れずのジャーニを意識することなく、黙々とゴールを目指していた。


 そしてサンニッチ島の上空を2機のAFが通る。


 SPD最終ラップ。

 これが最後のサーキット周回となる。



 ジャーニはリボルバージャベリンを一本手に取り、加速を開始する。


 僅かに2人の距離が縮まるが、それも数秒間。

 今度はジャーニが引き離されはじめた。


 力を温存していたのはライジンストライカーだけではなく、アルス・マグナも同じである。

 最終ラップに残る全てを出しきろうというのだろう。


 距離が離され続けられ、海上ディビジョンに入る。

 スタビライザーが下ろされ、先端を海面に差し込む。

 布を切り裂くように、水面が割れる。


 後方からはサウスSパークPディメンジョンD特有の弱点であるスタビライザーが狙いやすい。


 それはやられる方も承知の上。海上ディメンションでは通常以上に十分な注意を払っている。


 海上でジャーニが仕掛けた。


 ビームランチャーで範囲照射、アルス・マグナの動きを制限させる。

 狙いすましてリボルバージャベリンを発射。

 これは沈まれて避けられるが、ここまでは計算通り。

 貯めたいたブレインパルスを使いルカインの頭上に位置取る。

 浮上してきたアルス・マグナも急加速で不利なポジションからの離脱を試みる。


 それも読んでいる。

 手にした投槍は誘いの意味合いもある。


 残ったリボルバージャベリンをルカインの前方に偏差撃ち。


 急制動を掛けるアルス・マグナにライジンストライカーが槍を構えて落ちる。


 2機は交差し、バキッとスタビライザーが折れた。

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