放校処分

14


 不眠不休――


 そのことに関してだけは、比較的真面目に取り組んでいた克斗のもとに――とつじょ白いスーツを着たかっぷくのいいおっさんが現れた。もっさりとした口ひげに白髪。まるで全身が真っ白と言ってもいいくらい白かった。

 彼は自分の事をカネルと名乗り克斗にゲームをやらないかともちかけてきた。


「ん? あぁ? ゲームなら、いまやってるって~」

「えぇ、先ほどから拝見させて頂いておりますが……」

「んぁ? だれ、あんた?」

「見たところだいぶお疲れのようですが。そんなにも面白いモノなのでしょうか?」

「あぁ、これ~。く~~~~~」


 ここに来た当初から想定はしていたがカネルは自分の目的達成において、この上なく都合のいい獲物だと思っていた。

 なぜならカネルにも自分で決めたルールみたいなものがあり。それは、相手の了承を得るというものだったからだ。

 相手の意識はもうろうとしていて的を得ない回答がすでに何回か繰り返されていた。

 そのため、克斗が寝るたびにゆすって起こしては話を持ち掛けるという行為を続けている。

 なにせここに来るまでに、何人にも断られいたからだ。

 サイレントの名を出すとかなりの確率で話にはなるのだが、危険性を説明し始めたところで終わり。

 記憶を消去しては次のお宅にお邪魔するという繰り返しだった。

 ここは、なんとしてでも良い実験材料になってもらいたいものである。


「それに、今回はレベル1からの参戦になるので特別な条件での契約ができますよ」

「んふぁぁ~~~?」

「クリア報酬として私に出来る事ならどんな願いも叶えるというだけでなく相応の能力の追加をさせて頂こうと思っております」

「ふぇ、なに? かのじょでも、しょうかい…して……く~~~~~」

「ええ、ですからぜひともここは貴方の望む能力を教えて欲しいのですよ」

「んぁ~? らんれも?」


 克斗の目に少なからず光が宿っていた。


 ――やっと食いついてくれましたか。


 これを逃したらまたしても面倒なことになりそうだ。

 危険性については、すでに話してある。


『相手が理解していたかどうかはこのさい仕方がないでしょう』


 カネルは自分自身を納得させて話を進める。


「ええ、なんでもです。貴方の望むスタイルをおっしゃってください」

「うむ。そりゃ胸は大きい方がいいな」

「胸ですか? では、貴方の望む力は外装変化系統と成りますがよろしいですね」

「はぁ? 外装変化系統ってなんだ?」

「はい、外装変化系統というものはですね戦闘時に装備するスーツをより自分好みの形に変化させ効率よくポイントを稼ぐことが可能となります。実際のところ使っているプレイヤーはいませんが使い方次第では凄い成果を上がられる可能性もありますので玄人好みの能力と言ったところでしょうか」

「はぁ? なんじゃそりゃ?」

「おわかり頂けませんか? つまり、あなたのスタイルを変えて戦うということになります。ですが正直なところ、それでは強さに対するパラメータ変化に期待がもてませんがきっと貴方には私なんかが及びもつかないお考えが有るのでしょう。それでは確認します貴方の望む力は外装変化系統でよろしいのですね?」

「はぁ? って、まてまてまて! 自分の胸でかくしてどうすんだよ?」

「違いましたか?」

「俺はなぁ! 金もってて、可愛くて、俺にだけに愛情を注いでくれる彼女が欲しいって言ってんだよ!」

「ふむふむ。なるほど。おっしゃる意味が全くわかりませんな」

「んあぁ、なんでわかんねーんだよ! ようするに、俺が欲しいのは、俺好みの彼女見つける素敵能力に決まってんだろ!」

「なるほど!」


 カネルはポンと柏手を打つ。


「つまり、貴方は探索及び判別する能力を望むということでしょうか?」

「あぁ、なんかようやく話が噛み合ってきた気がしないでもないな。まぁたぶんそんな感じでOKだ」

「しかし私が認識している彼女というものは戦士でも戦闘スタイルでもなく貴方がた男性と対に存在する生命体。端的に言うなら異性という見解をしていましたが他にも意味があるのでしょうか?」

「あるある! あるに決まってるだろ!」

「なんと、そうでしたか! それは申し訳ございません。なにぶんこの星にきて間もないものですから知識が大幅に足りていないのです」

「まぁ、知らねーんなら教えてやる! 彼女ってのはな!」

「はい! どのような戦闘スタイルで戦う戦士なのでしょうか⁉」

「女の子かな」

「女の子…ですか」


 あまりにも普通の答えで拍子抜けしてしまう。

 その程度であれば聞かずとも理解したつもりでいたからだ。


「ですが、先ほど貴方は、その、それだけではないとおっしゃっていたではありませんか?」

「あぁ、当然だ! 彼女ってのはな! 可愛くってお金もってて、なんでも言う事聞いてくれて! おまけに、俺だけを愛してくれる素晴らしい戦士なんだよ!」

「なるほど、彼女というものには戦士の素養が不可欠だったのですか! 勉強になりました。心に刻んでおきましょう」

「ですが…果たしてそんな補助的な能力で生き残れるのでしょうか?」


 カネルはアゴに手を当てて首をかしげる。


「いやいや、むしろそれは必須だって! じゃなきゃ俺に未来は無いっていうか! 人類絶滅しちまうって! いいか、俺は不出来な男なんだよ! 多少どころか多大にずるしてようやく人並みなの! ったく! そんな能力あるんなら真っ先に教えてくれるべきだろ!」

「それは申し訳ありません。ん~ですが、なるほど。言われてみれば確かに貴方達の戦い方を見ていると個々の攻撃力よりもプレイヤー同士が結託する事により素晴らしい成果をあげているのも事実。本来は誰が一番ポイントを多く稼ぐかで競うゲームなのですが共闘したからといって別にルール違反にはなりませんし良いでしょう」


 カネルは大げさにうなずいて見せた。

 ぶっちゃけ自分で操作出来る範囲内の能力で決まってくれるならなんでも良かったからだ。

 それに、一つの脳を二人で使った場合になにが起こるか興味があった。

 初心者用のシステムを改造すれば良いだけだし。ベースにするのも克斗の持っているゲームとやらを参考にすればいいだけ。カネルにとっては簡単な作業でしかなかった。


「それでは確認致します。あなたが探索及び判別能力を選んだ場合。貴方に入るポイントがかなり目減りする結果となると予想されますがよろしいですね?」

「あぁ、それでいいんだよ! 確かに独り占めは理想なのかもしれないが俺は一人居ればじゅうぶんだからな!」

「では、貴方の能力は探索及び判別能力でよろしいですね」

「おうよ! ばっちりライバルよりも先に理想の彼女ゲットして見せるぜ!」

「はい、それでは欠員した新たなメンバーとして存分に戦ってくださいませ」

「おお任せろ! なにせ彼女を手に入れられりゃ見えないものが見えるようになるし(眼福的な意味で)、触れなかったものが触れるようになるし(性的な意味で)、出来なかったことが出来るようになるからな! (もちろん性的な意味で)、とにかくスッゲーパワーがみなぎるもんなんだよ! それこそ宇宙に飛び出しちまうくらいにな!」

「なるほど、つまり彼女とは特別な強化を促す存在なのですね 。今後の参考のために貴重なデータとなることでしょう。それでは、初心者用のサポートシステムを改造して直接組み込みますのでしばしお待ちくださいませ」

「あぁ、……く~~~~」


 それでは横になって下さいと言うまでもなく、満足げな顔をして克斗は寝てしまった。

 誰よりも早く相手(モンスター)の出現場所を察知し対峙(敵対)した者(モンスター)の能力を見極める能力。

 使いようによっては面白いかもしれない。


「まぁ、生き残ってくれたらの話ですけどね」


 例え克斗がすぐにリタイアしたとしても、まだ予備は2つある。

 理想だけで語ればレベル5をクリアしてもらい星間対戦ゲームとして確立させたいところではあるが……

 失敗したらしたで問題はない。

 カネルは自分の違法行為を取り締まる者の目の届かないところを実験場に選んでいるのだから。


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