08


 ナナシの指示した方向に目をやる……と!

 本当に、赤い逆三角マークが宙に浮き。ゆっくりと横回転していた。

 残念ながら、彼女ゲット作戦はダメっぽいが当初の目的が達成出来る可能性は残っている。

 予告された時間までは、後10分ほど。ゆっくりと階段を上って反対側のホームに向かうなか……。


「なぁ。本当にモンスターってあそこに湧くのか?」

【肯定。モンスター発生まで後9分。提唱。これ以上の接近は危険と判断。提案。現在地に止まり静観する事を推奨】


 予想外に物騒な事を言われたため、俺は足を一旦止めちまったが――ナナシの言うことをスルーしてゆっくり階段を下りる。


「あのなぁ。モンスターが湧くからってそんなに大げさに言うもんじゃねーだろ」

【否定。ナナシの説明に大袈裟なところは皆無。推測。現在の状態で克斗が敵モンスターに勝利する確率は0%。提案。モンスター発生ポイントを確認したのであれば、確認後即撤退を推奨】

「はいはいはい。じゃあ、とりあえず赤い三角マークのところまで行くのには問題ないのな?」

【肯定。問題ありません】


 時間的には、まだまだゆとりがある。ゆっくりと指定されたポイントへ向かう間。

 俺はナナシの事を信じようと努力していた。先程、ナナシが言った事は突拍子もない事だとは思うが。

 少なからず相手を信じようと決めた以上。それに従って行動すべきだと思ったからでもあった。


 それに――


 もしも、本当に危険なモンスターが出現するのであれば近くに居る人に対して知らせるべきだとも思ったからでもある。

 いくらザコモンスターとはいえ、場所が場所だ。モンスターに驚いて線路に落ちたりでもしたら大事になりかねない。

 そこに電車が入ってきたりしたら惨事である。

 指定された場所には清涼感漂う青い色の自動販売機があり。中段にお勧めの新商品である缶コーヒーが並べられていて――

 その丁度真ん中に埋まって、赤い三角形が横回転していた。


「なぁ。これって、自動販売機の中にモンスターが発生するってこと?」

【肯定。モンスター発生ポイントと自動販売機の座標は重なっています。提案。モンスター発生まで後6分。即、撤退を推奨】

「はぁ…なぁ、なんでたかがモンスター相手にそこまでせにゃならんのだ?」


 俺は、相変わらずなナナシの言い様にうんざりしながらも聞いてみる。


【説明。本日AM1:55分に初心者訓練用のレベル0終了条件が敵正規プレイヤーNo.2。No.3。No.4。No.5。No.6の共闘により完了。同時刻AM1:55分よりレベル1に移行。以上の要因によりモンスターの強さが格段に上昇】

「なんだ、そりゃ…」


 全く意味不明だった。もっとも意味不明なのは最初っからだが……。

 だが、心は震えていた。ウソならそれでいいじゃないか。どうせ外道だの鬼畜だのとののしられる日々でしかない。

 だったら、ここでバカ騒ぎしたってたかがしれている。

 正直なところ、そんなことしたら執行猶予中の自分が退学になることは分かっていた。

 でも…でもである。もしも、万が一でもナナシの言った事が本当で。本当に危険なモンスターが湧くのだとしたら、そんなヤツラは許せない!

 気分が悪くなり、吐き気がする。とっくに直ったはずの背中がずきずきと痛みを訴える。


「よし分かった。だったら、作戦変更。モンスターを撃破する」

【了解。作戦を変更を容認。敵モンスター撃破に切り替えます。提唱。戦力強化のために至急彼女を入手して下さい】


 引き締まる俺の心とシリアスな雰囲気はナナシの提案により一瞬で吹き飛ばされてしまった。


「は……。なに…それ?」


 意味不明にもほどがある。なんでこの展開で彼女という単語が出てくるのか理解しろって方が無理な話だろう。


【確認。質問の意味が曖昧過ぎます。報告。思考が乱れて判断が困難。提案。ナナシに判断出来るレベルでの発言を求めます】

「いやいやいやいや、だから、彼女ってなんで、彼女がでてくんのさ! そんなもん手に入れてなにすんだよ!」


 ツッコミどころが満載なのは理解していたが、さすがにこればっかりは想定外だった俺の声は震えうわずっちまっている。


【説明。本日AM4:57分。克斗の説明により彼女の定義が更新されました。克斗が提示した彼女の定義では彼女を手に入れた者は見えないものが見えるようになり、触れなかったものが触れるようになり、出来なかったことが出来るようになるだけでなく、単独での宇宙飛行が可能になるとなっています。これにより彼女とは全ての戦闘能力を向上させるアイテムであると情報の更新がされました】

「だれだよ! そんな寝言ほざいたバカは!?」

【回答。克斗です】

「って…まじで?」

【肯定。ナナシの説明に不備はありません】

「すまん…もし、それが事実だったとしたら、それ…完全に寝言だ……」

【確認。ナナシの定義では、寝言とは不明朗で間違いの含まれた事となっています。確認。克斗の定義を間違いと判断し、以前の定義。彼女とは、主に男性に置ける特別な異性の事で間違っていなのでしょうか?】

「ああ。間違ってない。間違ってるのは俺自身だ……」

【了解。彼女の定義を以前の定義に戻します。確認。彼女の定義を以前の定義に戻しても問題ありませんか?】

「ああ。問題ない。それから、どうでもいいことはいちいち確認しなくてもいい…はっきり言ってめんどくせー」

【了解。今後は確認の重要度を模索します。報告。彼女の定義を以前の定義に戻しました。現在の克斗にはモンスターを討伐する戦闘能力が皆無。提案。最高ポイントを諦め即時戦力増強を要求】

「なぁ…戦力増強って、人数集めりゃなんとかなんのか?」

【検証。索敵範囲内に居る非正規敵プレイヤーの能力確認開始します。報告。検証終了。索敵範囲内の非正規敵プレイヤーに戦力増強に足るプレイヤー無し。提案。戦闘放棄が最も優れた選択。至急戦闘放棄の意思を表明して下さい】

「なぁ、ちなみに、もし戦ったらどうなるんだ?」

【回答。敵モンスター詳細情報抽出開始。抽出成功。ナナシは問題なく敵モンスターの情報入手可能と判明。報告。敵モンスター詳細情報提示。基本戦闘レベルD。近中距離攻撃特化型。溶解レベルC。噴出圧力レベルE。その他攻撃方法有り。射撃攻撃レベルB。音波攻撃レベルB。物理攻撃レベルB。基本移動速度レベルG。物理防御レベルH。現時点で克斗の勝因は皆無。防御せずに溶解攻撃を受けた場合。克斗の肉体溶解範囲55%以上と推測。克斗の機能停止確率95%以上と推測。克斗のゲームエンド確率100%】

「んなもんゲームエンドっつーより俺の人生が終わってるわい!」

【肯定。克斗は死亡します。報告。ナナシは役目を終えて回収。次のシステム作成におけるサンプルとなります。確認。機能停止前にお別れの挨拶は必要ですか?】

「なに、勝手に終わりにしてんだよ! っつーか! やる前からお別れの挨拶ってなんだよ! それ完全に死亡フラグじゃねーか! ってゆーか! んな事言ってる暇あったら勝てる方法の一つでも考えやがれ! このバカ!」

【了解。現状改変による勝利要因の構築を開始。報告。ナナシは一時的な肉体制御が可能と判明。提案。ナナシによる肉体制御の許可を求めます。報告。ナナシが肉体制御を行った場合。克斗の最大攻撃力。約300%に上昇可能。基本戦闘能力約250%まで上昇可能。警告。ナナシによる肉体制御状態で最大出力を使用した場合。克斗の破損率約85%】

「まてまてまてまて! バカかてめーわ! よく分からんが、それじゃどっちにしろ終わってんじゃねーか!」

【否定。克斗の肉体は致命的な破損をするだけです。修理すれば戦闘可能】

「修理ってなんだよ修理って! 治療のこと? つーか俺ってどんだけひでーケガするわけ?」

【肯定。修理とは治療と同じです。推測。右腕破損。両足破損。全身の筋繊維破損率約80%。以上のダメージと引き換えに勝利可能】

「まてまてまてまてまて! ちょっとまて! なんだよ、そりゃ! よくわからんが、それ終わってるから。もう完全に俺終わってるから! それともナニ? そこまでして俺に戦わせたいわけ?」

【否定。戦闘選択は克斗の意思。ナナシは敵前逃亡を推奨】

「ああ…そういや~そうだったな……」

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