Alius fabula Pars 1 創造神召喚

そこは地上では無い何処か遠い場所。

およそ生物が辿り着けない場所で物思いにふける存在が居た。


(きっと居るはずよ・・・)

「“この世界”を作った者に問いただすわ。わたくしを創生した存在に・・・」

(きっと何処かに・・・)


そう思う"彼女"は強く念じていた。

それはずっと感じていた”スプレムス”の違和感が原因だ。

何故自分は存在するのか。

自分を生み出した意思がどこかに居るはずだと。


彼女に本来性別は無い。

しかし彼女に認識させた存在がいる。

それは彼女の娘だ。

性別の無い彼女からも性別の無い子供が創生されたのだが、その個体には"娘"としての自覚が有り、母親と呼んだ事から全てが定められたかの様に進んで行ったのだ。



ずっと感じていた違和感。

眷属たちは自分こそが創造神だと信じているようだが、確かに創生したのも事実だ。

しかし、自分を生み出した惑星の意思はどうだろうか?

その”存在しない意思”以外に別の何かが作用しているのでは?

そんな疑念が思考のどこかに異物となって存在していた。

世界を作り自分を生み出した意思の根源に問いただしたいと、その存在の召喚を試すにあたり、実態がとてつもなく大きい場合や精神体だった時の事を考慮して、魂だけを召喚して依代に憑依させることを思いつく。


実は以前から密かに召喚を試していた”スプレムス”は、魔法陣を発動し召喚したものの気配は感じるが、望んでいた存在を顕現させる事は出来なかった。


専属のしもべを使い、召喚した魂に”聞き取り調査”をして、自身が感じている存在の具体的な場所の特定を行った。

その召喚された魂の数は四桁にも及ぶ。

これは最も信頼する娘の”テネブリス”が転生者だと告白した時から始めた召喚の数である。

全てはあの時に確信したスプレムスだった。


(まさか、あの子が転生者だったなんて・・・どうしてこんなことが起こる訳? 絶対に可笑しいわ。わたくしが解らない何者かの力が働いている可能性も有るわねぇ。でもそんな事が出来るなんて・・・本当に神が存在するのかしら?)


まるで因果が巡っている錯覚が現実だと実感した瞬間だった。

テネブリスが行った全ての疑念に納得のいくスプレムス。

自分の知らない魔法や言動。

知識が無いと出来ない行為であり、他の眷属が出来なかった事だ。

仮に出来たとしてもテネブリスの指示や、真似をしているだけなのだ。



密かにその思いを胸にしまい、”龍国”の中心である自らの寝床付近で行う召喚の儀式。

龍族が開発した召喚魔法陣を元に独自の細工を施して、異次元の存在を召喚出来る魔法陣を作らせたスプレムスは実験を繰り返していた。

側使えは二人の僕だ。

創造神と確証する具体的な根拠となりえる質問の答えはスプレムスの名前だ。

自らを創造した者であれば、当然名前を知っているだろうと考えたからだ。

しかし例外無く同じように答える召喚者達だった。


自身の領域を立ち入り禁止にして魔法陣を発動させる。


「ふぅぅ。また失敗かぁ・・・もっと魔素が必要なのかしら? 確実に呼び寄せているけど、やはり実体は無いのよねぇ」


召喚魔法は別の場所から特定の者を任意に呼び寄せることが出来るが、スプレムスが行っているのは”自身が感じる異次元の存在”を呼び寄せる事だ。

“漠然と感じる存在”なので実体を呼ぶ事が出来ず、精神体の光が現れては消えるだけだった。


召喚した魂だけの存在は、その念話から誰もがスプレムスの事を”女神”もしくは神様と呼んでいた。

召喚者達にはそのように感じたのであろう。

召喚した魂だけの存在と対話をするには念話しか方法が無いからだ。

語りかける優しいスプレムスの念話の声。

質問に対する返答も召喚者達が想像しやすい女神を彷彿とさせる受け答えだからだ。


間違ってはいないが”彼女”の求める答えでは無かった。

その段階で僕と交代し氏名、性別、年齢、種族名もしくは召喚前の世界の情報を問いただすのだった。

そして可能な限り要望に沿った肉体へと下界へ転移され魂の定着が行われた。


精神体であれば精霊と同じく憑依できる依代があれば定着することが可能だと考えて、密かに自分で作って用意したにも関わらず、“殻”の素材を使用した依代ゴーレムに魔素を含ませても召喚した存在が定着する事は無かった。

極秘に創生した卵を使ったり、しもべを使った実験も失敗に終わった経緯がある。

全て下界の生物の出産前の肉体へ受肉が行われた。


1人で悩み試行錯誤を繰り返していたスプレムス。

そんな龍族の思いとは関係無く事件が起きる。





「今回は必ず成功させて見せるわ」

意気込むスプレムスには確信と勝算が有った。


数々の召喚実験で最も成功に近い失敗が前回行われたからだ。

それは、過去最大量の魔素を使った召喚だった。

その量は、過去に行ってきた召喚回数分の半分の魔素量を使ったのだ。

その魂は過去に無いほどのまばゆい光で驚きと共に喜んだ途端、収束して消えてしまったのだ。

スプレムスと僕達はガックリと落胆したが、可能性が見たので次回に期待して計画を練った。


計画とは、本来神の召喚を極秘で行っているからだ。

扱う魔素を子供である眷属に察知されないように結界を張り、膨大な魔素を自身の体内と龍国内の魔素保管場所から内緒で集めたり、大神とされるスプレムスだから可能な行為だった。



「さぁ、今度こそ成功して見せるわ」

「はい、大神様」

「今度こそ創造神様がご降臨されますよう、我らも祈ります」

「あなた達・・・」



全ての準備が整い精神統一するスプレムス。

様々な魔法陣が付与されて依代とするべく特別に作らせたのは、魔石と龍国の大地を形成する素材を元に魔導機械としてゴーレムよりも高度な素体を僕達と龍国民に似せて作られた依代だ。

皮膚や脳漿、心臓に血液など肉体の隅々まで魔導科学の粋を集めて作成した特別なゴーレムは魂の定着を行うだけだった。


幾重にも施された結界の中で、気合を入れて召喚の魔法陣を織りなすスプレムス。

今回は前回の倍の魔素を使う予定だ。

すなわち、スプレムスが体内に保有する三倍の魔素量だ。


前回よりも桁違いの魔素量に僕達も緊張して魔法陣を見ていた。すると

辺り一面が輝き、まばゆい光で室内が埋め尽くされた。


「こっ、これは!!」


眼を開けなくとも、その神聖なる存在を感じ取る事は容易だった。

(よしっ、後は依代に定着させれば・・・)


ゆっくりと静かに依代へと吸収されていく輝く存在。


「ふぅぅ・・・成功だわ」

「「おめでとうございます」」

「ありがとう。これで創造神様とお話が出来るわ」


顕現した光度と神気で求めていた存在だと勝手に認識するスプレムスと僕達だ。

それほど今までの召喚した魂と圧倒的な存在感が違っていたからだ。


とは言え、これからがスプレムスの目的が始まるのだ。

それは自分の存在意義を聞く事だ。

この世界に降り立った時から持っていた疑問に答えてもらうべく、対話を始めるスプレムス。


「創造神様・・・お目覚め下さい。創造神様・・・」

しかし、いくら呼びかけても反応は無かった。


「おかしいわ・・・」

「我らも一緒に呼びかけてみましょうか?」

「ええ、お願い」

「「「創造神様! お目覚め下さい!!」」」


すると、どうだろう。

ビクンッと動いた後、カタカタと小刻みに震え出した。そして・・・

依代から光が溢れた瞬間に、光の球体が見当違いの方向に飛びだして行った。


「大変!!! 創造神様を追うのよ!!」

「「はい!!」」


防御結界に壁もすり抜けて、いずこかに消えてしまった光体だ。

僕達は入り口から出ていったが、スプレムスは迷う事無く壁を壊し、一直線に後を追った。






それはスプレムスが創造神を呼び出す少し前の出来事だ。

いつものように欲望に任せて肉欲を堪能していた”下界のメルヴィ”。

愛しい妻の名を呼んで絶頂に達する夫を快楽の中で受け入れていた。

過去に我慢していた分、底なしの欲情を何度も際限なく求めていたのだ。


(さてと、もう一回たべちゃおうかな・・・)

ところが暫く休んでいると思っていたが、いつまで経っても動く気配が無く呼んでも起きない。

「あなた。ねぇ起きて。あなたったらぁ。もう、おにいちゃん!!」

不審に思い呼びかけるが一向に起きる気配が無かった。

息はあるし心臓も動いているので不思議に思ったメルヴィだ。

(そんなに疲れるほど”した”かしら?)






時を同じくして、とある”封印された場所”では。


「うわっ!」

「どうしたの?」

「いや、なんか変な感じがしたんだよ。あれ?ここは何処だ?ん?何だ、この感じは」


“エルヴィーノ”は不思議な感覚になっていた。

ずっと居るはずの”この場所”が、まるで知らない場所に感じたのだ。


その事を側にいたメルヴィに説明する。

「・・・」



魂が分かれていても思考を共有出来る”念信”魔法を身体に施してあるので一瞬で”2人のメルヴィ”は同じ事を思いついた。


それは魂の帰還だ。

原因は分からないが下界のエルヴィーノの魂が本体に戻ってしまったのだ。


(こんな事ってあるの?)

(でも他に説明が付かないわ)


下界のメルヴィは目の前の光景を目の当たりにして。

封印のメルヴィは、あり得ない事を話す愛しい男の言葉を聞いて判断する。


下界のメルヴィは昏睡状態のエルヴィーノを連れて一時的に龍国へ戻る事を他の妻たちに魔導具で連絡した。



“詳しくは戻ってから説明するけど、諸事情でエルヴィーノと龍国に向かいます。メルヴィ”



嫉妬深い妻たちも”龍国”と言う禁句で沈黙するのだった。

本当は説明すら必要が無いと思っているメルヴィだ。

しかし最愛の夫が無断外泊する事で他の妻たちのオモチャになる事を良しとせず、その場を取り繕う言い訳で誤魔化したのだ。

一応家族には他国の視察とし、全員に連絡をする。


「こっちの手配もしたし、一緒に行こうね”お兄ちゃん”」

意識の無い体はスヤスヤと寝ている様だった。





龍国では既に準備が整っていた。


封印された場所で、強制的に眠らされたエルヴィーノは”所有者”と共に龍国内の施設に転移していた。

そこに下界から転移で現れたメルヴィとエルヴィーノだ。

衣服は違うが二人のメルヴィが並び立ち、二人のエルヴィーノが横になっている。


「ちょっと見てみましょうか?」

下界のエルヴィーノに魔法を使うのは”アルブマ”だった。

一部始終を見守っている”テネブリス”と二人のメルヴィ。


「確かに魂が抜けた状態だわ。一体何が有ったのかしら?」

全員が下界に居たメルヴィに答えを求めていた。

しかし、夫婦の営み以外には特に思い当たる事が無いのだ。


「まぁ、魂が戻って来たのなら、もう一度定着させれば良くない?」

元に戻す方法も有り、魂も戻っているので問題は無いと判断していた封印のメルヴィだ。


「そうね。あなた達の帰還が遅いと後で困るのはこの人よ。さぁ、始めましょう」

そう言って仕切るのはテネブリスだった。


全ての環境が整い、後は実行制御盤を押すだけだ。

今回は下界のメルヴィがその役を買って出た。


目の前の突起を押そうとした瞬間。

一瞬で室内が激しい光で満たされた。


「キャァァ!!」

「な、何!! 一体何が起こったの!!」

「アルブマ! 何とかして!!」

「わたくしじゃ無いわ!1」

「みんな目を閉じて気配を感じて!!」








一体、何が起こったのか。



Alius fabula Pars 1=アリウス ファブラ パルシ イー=もう一つの話 その1


地上ではない別の地で美しい女性は決意を胸に秘めて行動していた。

これは魔王と勇者が激突する数十年前にさかのぼるお話です。

どこかの物語の続きでもある。かも




※龍族は全て変身の魔法で人化している。

始祖龍スプレムス・オリゴー=星を見守る存在。大神とも呼ばれている。

暗黒龍テネブリス・アダマス=メルヴィの転生体であり、現在の本体でもある。

聖白龍アルブマ・クリスタ=テネブリスの支えしとて世界を救った存在。

メルヴィ・デ・モンドリアン=夫を束縛する分身体と下界で暮らす分身体が存在する。

エルヴィーノ・デ・モンドリアン=龍国で監禁されている本体と下界で暮す分身体が存在する。

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