第32話

「あー、カクタスダンサーのお兄さ~ん」

 

 

 レルフィード様は聖女が来るせいで仕事量が増えたとかで、私が仕事を終える方が早くなって来た。

 

 それでも私が1人で町に本でも買いに行こうとすると、一緒に行きたいとレルフィード様が悲しそうなオーラを出してくるため、城内の庭のベンチに座りながらぼんやり待っていた。

 

 

 掘って♪掘って♪掘って♪掘って♪

 埋めて♪埋めて♪埋めて♪埋める♪

 

 

 いつものリズムで仕事熱心に花壇の土起こしの作業をしていたサボテンさんたち(私に歌が聞こえないのが本当に残念だ)の集団を見つけて、私は近寄りしゃがんで声をかけた。

 

 リーダーが私を見て、腕を上げた。

 

 なんか「よお」と言うようにそのまま上げられた腕には小指のつもりらしいトゲトゲを1本ぴーんと伸ばしていた。

 

 

 恐らくだが、レルフィード様の恋人だろ?的な意味合いだろう。まあ違ってはいないのでコクコク頷く。

 

 見た目はファンタジーそのものなのに、仕草がやらしいオッサンのようであるが、可愛いので許そう。可愛いは正義である。


  例え300歳を越えていようが、座った体勢からヨッコラショといった様子で立ち上がろうが、私にとってはサボテ●ダーのような見た目でお釣りが来る。

 

「あのですね、近々隣の国の勇者たちと聖女がこちらにやって来るみたいなので、怪我とかしないよう避難するようお仲間の皆さんに伝えてもらえますか?」

 

 腕を組んだサボテンが体を揺らしながら何か言っているようだが私には念話は分からない。

 

 伝わってんのかなぁと思っていると、仕事を終えたらしいレルフィード様が早足でやって来た。

 

「キリ、ここにいたのか。探したぞ」

 

「あー、レルフィード様ちょうど良いところに!

 カクタスダンサーさんに、聖女が来るから皆さんが怪我しないよう避難してくれって言ったんですけど、ゆらゆら揺れてるだけなんですよ。ちゃんと伝わってるか確認してもらえますか?」

 

「仕事を終えてるのだからフィーと呼べ。

 分かった、少し待っててくれ」

 

 黙って見つめ合う美青年と揺れるサボテン。

 

 多分念話で会話しているのだろうがシュールである。

 

「……話は分かったが、仕事をおろそかにしたくないと言っている。彼らカクタスダンサーとしてのプライドなのだろう」

 

「いえ、プライドより命の方が大事です」

 

 また見つめ合う1人と1体。

 

「防御魔法だって少しは使えるし、魔族はそんな簡単には死なないから大丈夫だ、とアピールしていたそうだ」

 

 このクネクネ揺れているのがそうなのか。

 このどう見ても酔っ払いか踊っているようにしか見えないのが強さアピールだったとは。

 

 

 話の出来ない魔族との意思疏通は思ったより難しい。

 

 

 まあ白ちゃんや緑子ちゃんたちも、YESとNOの表現が出来るようになってからだもんな、まともに会話が出来るようになったのも。

 

 

「それでも、用心するに越した事はないんです。お兄さん達が死んじゃったら誰が土起こしの仕事をしてくれるんですか。国の重要なお仕事をしているんですから、『いのち大事に』でお願いします」

 

 カクタスダンサーの兄さんが、うにょんうにょんとなりながらレルフィード様に何か訴えている。

 

 レルフィード様がウンウン頷き、

 

「こそばゆい事言わないでくれ、なんか照れるじゃねえか。レルフィード様のハニーは誉め殺しが武器なのか?と言っている」

 

 おー、あのうにょんうにょんは照れていたのか。

 

「ハニーはやめて欲しいですが、誉めているというか事実なので。この国で穀物や花が栽培出来るのもお兄さんたちのお陰ですし──」

 

 私は必死に説明をするが、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら仲間の所に走っていってしまった。

 

「…恥ずかしくてケツが痒くなる、ちゃんと気をつけるからと言っていた。

 ……何か、他の奴をキリが誉めるのはここが苦しい」

 

 胸元を押さえるレルフィード様に私は苦笑して、

 

「フィーは好きな所が多すぎて1度には言えないの。

 でも、聞きたいなら幾らでも言うけど?」

 

 と手を取り握りしめた。

 

「あ、え、いや聞きたいけど照れ臭いから聞きたくないような気はするし、でも気になるし」

 

「じゃあ1つずつね。まずは、思いやりがあるところ。──とりあえず私と町に一緒に買い物に行ってくれるでしょ?」

 

「ああ勿論」

 

「私の恋人は私に甘いなー。本を1冊おねだりしちゃおうかなー」

 

 私と歩き出したレルフィード様は、嬉しそうな顔で頷いた。コワモテでも笑うとよりイケメン度が増す。

 

「何冊でもいいぞ。欲しいのを買え。……あ、でも……」

 

「でも?」

 

「本に夢中で私との時間を削られても困るな、と」

 

「わお……破壊力がすごいな……」

 

 私がこんなムキムキのイケメン魔王に過剰な好意を寄せられているのが未だに信じられないが、本人がそのつもりなくても殺し文句をダイレクトにポンポン放って来るのがもっと恐ろしい。

 

 恋愛経験値が低いのも良し悪しである。

 

 10、20%の小出しでなく一気に100%の思いをストレートにぶつけられるのは心臓によろしくない。

 

「ん?なんだ?」

 

「いえ。……フィーが好きだなあと改めて思っただけ」

 

「っ!!あの……キリ、もう1回言ってくれ」

 

「えー、言わないですよ。何度も同じ事を言うと有り難みないでしょう?」

 

「あっ、そうだな。うん。私の中でリピートすればいいだけだから!」

 

 頬を少し赤らめてよりご機嫌になって歩くレルフィード様に、

 

(ピュアなイケメンも正義だよなあ……)

 

 などと思いつつ、私も少し熱くなった顔を仰ぎながら町への道を共に歩むのだった。

 

 それにしてもカクタスダンサーの【ケツ】の部分とはどの辺りなのかボディーが直線的でよく分からないが、あのトゲトゲの手で掻いたら怪我しないんだろうかと変なことばかりが過る。

 

 自分でもかなり残念な性格であるが、気になるものは仕方がない。

 私も大概恋愛慣れしていないので、恥ずかしくてどうも甘いムードのままで居られないのたろう。

 

 

 

 

 そして3日後。

 

 

 バッカス王国の一団がマイロンド王国の領土内に入ったという報告を受け、私のあまやかな気持ちが一気に吹っ飛ぶのを感じるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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