第23話 林間学校二日目夜(キャンプファイヤー 合唱&ダンス)

 未翔の告白の後も、俺たちのキャンプファイヤーは続いた。


 プログラムは合唱へと切り替わり、星空の下で揺れる炎を囲みながら、俺たちは流行りの歌をみんなで歌った。合唱というよりはほとんど叫んでいるような状態だったが、それぞれが誰よりも大きな声で歌おうとしていて、今この瞬間自分が一番盛り上がっているのだと言わんばかりに輝いた表情をしていた。


 それは会澤も同じだった。


 未翔の告白後、俺たちはすぐには言葉を交わしたりしなかったが、すっかり会澤はいつもの会澤に戻り、本気でキャンプファイヤーを楽しんでいるように見えた。


 それに俺は聞いてしまったのだ。


 告白大会で未翔が拍手と喝采を浴びる中、会澤がポロッと漏らすように呟いた言葉を。




 ――未来だ。




 こうして林間学校のことを一から振り返るまで、俺はずっとそれについて忘れていた。


 今になって、その一言がものすごく重要な意味を持つように思えた。




 みんなで大声で歌った後は定番のダンスが待ち構えていた。


 一曲目の『オクラホマ・ミキサー』では男女がペアになって手を取り合って、順番に相手を入れ替えながら踊った。異性と手を繋いで踊るというのは中学生の男子にとっては恥ずかしい以外の何物でもなく、かといってそれを悟られるのも決まりが悪いので、各々頑張って「全然意識してませんよアピール」をしていた。


 ご多分に漏れず、俺も淡々と下手なダンスをこなしていたが、未翔の順番が回ってきたときにはさすがに動揺が表に出てしまった。


 けれども、曲は当然止まらない。俺はろくに目も合わさないうちに、流れの中で彼女の手をそっと握った。


 その手は冷たくて、意外と骨ばっていたと思う。女子の手は暖かくて柔らかいという単純で馬鹿なイメージがあったから少し驚いたが、その繋いだ手を意識すればするほど気恥ずかしさが増してきて、最初に握ったときのギリギリ手を離さないくらいの強さをキープして踊り続けた。


 未翔は黙ったまま、何も言わず俺のダンスに付き合ってくれた。


 視界の端で揺れる表情を捉えながら、俺は何か話しかけようかと迷っていた。もしかしたら未翔のほうから声をかけてきてくれるかもしれないと密かに期待していたのだが、どうやらそれはないのだということが雰囲気で伝わってきた。


 だから、あとは自分からいくかどうかだけの選択だったが、俺は何も言わなかった。


 未翔とのダンスはあっという間に終わった。


 手が離れる瞬間、なぜか心が揺らぐような後悔の感情が流れた。


 しかし、それが何に対する後悔かなど考えている暇もなく順番は次へと回っていき、俺も未翔もそれぞれ別の相手と手を繋いでいた。


 しばらくして曲が終わり、次の音楽が流れ始めた。


 ダンスで使用したもう一つの楽曲は『マイム・マイム』だった。


 前曲とは違い、火を囲うようにみんなで手を繋いで一つの大きな輪っかを作り、陽気な曲調に合わせて楽しく踊った。


 詳細は省くが、なんか炎の周りを足がもつれそうなステップでぐるぐる周り、油断したところで「マイムマイムマイムマイム、マイムレッサッソ(後半適当)」みたいな掛け声を上げて火のほうへ近づいたかと思えば、また同じように歌いながら離れていくという奇妙な動きを繰り返した記憶がある。しかも突然テンポが早くなったりもする。


 とにかく、盛り上がったのはよく覚えている。歌とダンスでみんなのテンションは最高潮に達していて、囲んだ目の前の炎によって照らされる一人ひとりの弾ける笑顔はどれも輝いて見えた。きっと誰もがその瞬間を力の限りに生きていた。


 俺も心の中で「今だ!」と叫んでいた。アピールするように心がそう叫んだのだ。


 その感情の道筋をしっかりと言葉にするなんてできない。


 多分、それらは叫んだ言葉に集約されているのだろう。


 表現すべきすべては「今」に存在していた。

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