転生三法師の奮闘記 ~魔王の孫とよばれて〜

夜月

序章 京都御馬揃え編

転生


 


『転生輪廻』


 死んであの世に還った霊魂が、この世に何度も生まれ変わってくることを言う。




 ――貴方は、転生を信じますか?




 何故、いきなりそんな怪しい宗教家みたいな事を言っているのだ? と、疑問に思う人が圧倒的に多いだろう。俺だって、街中でそんな事言われたらダッシュで逃げる。


 では、何故そんな俺が冒頭の発言をしたのか。それは、気がついたら赤ん坊になっていたからである。


 えっ? 意味が分からない? 俺だって意味が分からん! こういうのって、トラックに轢かれた高校生とか、なんかの手違いで死んじゃったとかで哀れんだ神様が特典くれたりするやつでしょ? 俺、まだ神様に会ってないんですけど!?


 ……はぁ。そもそも、俺は誰に向かって近況を説明しているのだろうか。人は、おかしくなったら独り言を呟き続ける哀れな生物なのだろうか。


 そんな無力感に浸りながらも、今の状況を整理していこうと思う。その方が楽になるから……。






 ***






 先ず第一に、俺は都内に通う高校二年生だった。夏休みだって言うのに、冷房もクソも無い部屋でマッチョなゴリ沢直々の補習を受けていた。


 歴史十二点……確かに酷い点数だし、補習も致し方無い。だが、断じてあのようなむさ苦しい空間で、ゴリ沢とマンツーマンレッスン&鬼のようなレポート作成と言う地獄を、善良な男子高校生に味合わせる等間違っている! パワハラだっ!!!


 だが、やらねばキツいお仕置が待っている。次は、三者面談待った無しであろう。補習地獄で夏休みが潰れるのもナッシング! そんな事になれば、いよいよ俺はさらし者確定じゃないか! それは、嫌! クラスの笑い者にされる!






 そんなちっぽけなプライド片手に、ネットを漁りながら資料を集めていたある晩。俺は、信長の孫の存在を知ったんだ。


 享年二十六歳、信長の孫と言う立場を利用され波乱万丈の人生を歩んだ挙句、僅か二十代でその生涯を閉じた悲劇の男。その名を、三法師と言う。


 織田信長くらいなら、こんな俺でも知っている。大抵の歴史系アニメや漫画に出てるしな。んでも、孫の存在は知らなかった。信長が本能寺って所で殺されたのは知ってたけどな。


 どうやら、この三法師はその事件のせいで人生を狂わされたらしい。充当にいけば、この人は一国の王様だった訳だ。


 そんな三法師に興味を持った俺は、早速とばかりにレポートの作成に勤しみ、遂に夏休み最終日で完成! 後は、あのゴリラに叩きつけるだけだと、意気揚々とベッドに入って眠りについた。






 ***






 ――そうしたら、目覚めた時には赤ん坊になっていたって訳よ。マジで意味分からんかったんだが、大河っぽい服装の人達が俺の様子を見に来るのでだんだん状況が掴めてきた。おそらくこれは転生ってやつだ、しかも逆行転生ってやつ。


 正確な年代は分からないが先日見た大河の風景に似てるから戦国時代であろう。しかし、年号を言われても分からないな。西暦で言ってくれ、西暦で。


 あと、俺の名前は【三法師】らしい。凄い偶然だ。んでも、流石にあの三法師じゃないだろう。この時代、名付けとかめっちゃ適当やしな。アホみたいに被ってるし。


 まぁ、それは良い。問題は、どうやら記憶に欠損があることが分かったことだ。自分の前世の名前とか、虫食いのような状態に陥っていた。


 でもまぁ、転生物のラノベとかよく漁っていた記憶は覚えていたから、最初は戦国時代に転生なんて男のロマンだよな! と、お気楽に考えていた。前世の名前なんて覚えていても大して意味無いしな。






 事態が急変したのは、俺が転生して初めての正月の時だ。どうやら余程裕福な家に生まれたのか、家来らしき人が大勢集まって宴をしており、新年の祝いと俺のお披露目を兼ねているようだ。 


  『新年明けましておめでとうございまする。左近衛中将様におかれましては、御子息様も御生まれになり、まことめでたき事。我等家臣一同お慶び申し上げまする』


「うむ。皆大儀である。今宵は、三法師の誕生を皆で祝おうでは無いか! 存分に楽しんでくれ! 」


『ははっ! 』


  父親に向かって大勢の男達が一斉に平服する様子は、近代日本では到底見られない光景であり思わず興奮してしまった。


 これは、もしかしたら大名家なのかもしれない……と。




 ――この時の行動を、俺は生涯後悔する事になる。




 大河とかで、主君の背後に大きな家紋があった事を思い出した俺は後ろを振り返ってしまった。有名所の家かも知れないなと浮かれ調子に。


 そこで、俺は見てしまった。ゲームや漫画で散々見てきた超有名な家紋を。


  「お、だ……? 」


  えっ? あれ織田信長の家紋じゃね? も、もしかして三法師ってあの信長の孫!?


  「おぉ三法師が喋ったぞ! はははっ! まさか最初に喋る言葉が織田とは、まさに織田家の嫡男に相応しき事よ! 」


『はは! まさに、吉兆の証かとっ!!! 』


  なんか親父達がはしゃいでるけど、こっちはそれどころじゃないんだよ! 三法師ってあの清洲会議の!? じゃ、じゃあ親父は織田信忠でじいちゃんは織田信長かよ!?


  俺は思わず頭を抱えそうになってしまった。というのも、俺自身である三法師に問題があったのだ。




  織田三郎秀信、幼名三法師は本能寺の変後、かの清洲会議で僅か三歳にして秀吉に担がれ家督を継いだ者である。享年二十六歳、戦国の覇王の血筋である身を利用され、非業の死を遂げた。




  秀吉の天下取りの影に隠れている為、あまり詳しくは知らないが確かこんな感じだった。


  まず三歳で家督を継ぐとか絶対傀儡じゃん! あんま有名じゃないのは、秀吉によってお飾りにされたからなんじゃ…だって俺が主君のままだったら天下統一したのは織田家じゃないとおかしいもんな。


  ……あぁ、本当にどうしよう。本能寺の変は絶対止められないし、俺が三歳の時に起こるから二年後か。……あれ? そう言えば信忠が生きていれば織田家の崩壊は無かったってなんかで読んだ気がする。


  よくよく考えてみれば確かにその通りだ。信長からは早くに家督を譲られてるし後継者である嫡男三法師は生まれてる。武田攻めでは成功してるし順風満帆だろう。


  そもそも、なんで本能寺の変の時に近くにいたんだ? まだまだ上杉や北条もいるし、武田の旧領地の統治も終わってないだろうし。……本当に謎だらけだな。






 まぁ、これ以上考えてもしょうがない。


  とにかく俺が出来ることは、本能寺の変までに知識や身体を鍛えて家臣達に俺を認めさせる事。そして親父を死なせない事だ!


 決意を新たにした俺は目の前の宴を見つつ、この幸せを失わさせはしないと固く決心した。






 ……しっかし、ままならんもんだよなぁ




  ――拝啓神様、転生先がハードモード過ぎませんか?




 溜め息を吐く。見たこともない神様に呪詛を吐きながら。どうやら、これから先忙しくなりそうだよ。






 ***






 これは、歴史知識がほとんど無い転生者による織田家復興の物語。




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