第12話 キャラバン隊、北へ(二)


 高速入って二回目の車中泊の朝、昨日暗くなってから到着したここは前沢サービスエリア。

 夜だったので気がつかなかったが、桜が咲いている。

 関西ではとっくに葉桜、終わりの方だとは思うが桜前線に追いついたみたいだ。

 クロマルを降ろして散歩、さらっと降ろすといっても寝台の奥の方へ逃げこもうとする奴をひっ捕まえ抱えて降ろす。

 ちなみに乗せるときは完全に抱えて持ち上げて乗せるというか降ろすというか置く。

 成犬のレトリバーなら1メートル位の高さがあっても飛び上がれるはずなのだがクロマルは規格外、ジャンプ機能はオプション装備だったらしい、ちょっとびっくり。

 寝台の場合は高さがあるのである程度は仕方ないが、通常の乗車位置である後部座席足元の場合でも自分からは乗ろうとしない、なので同じように持ち上げて押し込むが、機嫌のいいときはお尻を押す程度で飛び乗ってくれる時もある、ごく稀に。

 降ろすときはリードを付けて引っ張ると、最初はイヤイヤするが最後にはぴょんと飛び降りる。

 クロマルはカリカリに売店で買った牛乳とスティックパン、自分はサンドイッチと缶コーヒーで朝食。

 その後はノートPC起動して情報収集、この時代スマホも一般的でなく、フリーのWi-Fiなんてまだ無いのでUSB接続のモデムを使用、距離とナビの推定到着時間と寄り道やらを勘案してフェリーの予約をする。

 青森からは北海道へ渡るフェリーが3航路あり、距離の長い方から、八戸発-苫小牧行、青森発-函館行、そして今回選択した大間発-函館行だ。

 東北道を北上し岩手山サービスエリアで休憩、その後すぐ八戸方面へ分岐して高速は終了、その先は一般道を進む。

 選んだルートは陸奥湾沿いでなく太平洋側、基地の街三沢を過ぎ何やら物寂しい風景の中を淡々と進んでいるとナビの表示がグレイアウト、何も無いわけではなく厳重な柵が延々と数キロにわたって続いていて中には大規模な施設がある。

 しばらく走ると正体が判明する、ここは六ケ所村の原子力施設、そのまま進むと東通原発も、東京電力原子力PR館なんてのもあったが当然の臨時休業中。

 ナビの縮尺をいじり広域表示にすると施設名もでてくるのだが、間近では大人の事情かグレイに塗りつぶされる。

 セキュリティ上の理由か何か知らないが、こんな巨大施設隠しきれんだろうと思うが、なんとなく納得はする。

 斧の頭のような下北半島をぐるっと回り込んで本日の立ち寄り地の恐山へ。

 駐車場の周りで軽くクロマルの散歩と給水、この後はクルマで留守番してもらい自分だけ中へ。

 なんというか、この世のものと思えない不思議な風景が広がる、つげ義春の漫画の背景みたい。

 そしてカラスがやたら多かった、寺社の境内には鳩がつきものだが、ここではカラスこれが雰囲気にピッタリだった。

 二度来ることはないだろうが、一度行く価値はあると思う。


 恐山を出ると、大間はもう近い。

 大間港に着きフェリー待の間、クロマルの散歩。

 クロマルは水道の蛇口の形状と機能を完全に理解しており、公園やサービスエリアでは自分で見つけて水を出せと訴える。

 しかし、大間の港には一箇所からいろんな蛇口がニョキニョキ生えた謎オブジェがあり、クロマルを惑わせる。

 そして、またもクロマルをクルマに待たせ自分だけ名物のマグロ丼で遅めの昼食、旨し。

 罪滅ぼしに醤油もワサビもついてないところを一切れ、留守番のお土産に持ち帰る。

 やがてフェリーへの乗船が始まり、これから2時間弱の船旅で函館へ。

 時間も短いので船室へ上がらず、クロマルと車内で過ごすことにする。

 多分ダメだと思うので、係員が車両の固定やらしている間、見つからないよう隠れてやり過ごす。

 短い船旅を、後部座席に横に寝そべり、クロマルを宥めながら過ごす。

 初めての函館に上陸、さてどこに向かうか。

 しかしもう夕方近く、勝手も知らない函館の街をさまようのもなんなので、五稜郭公園を目指す。

 クロマルを降ろし、サービスエリア内のチマチマしたのではない、ゆったりした一筆書きコースでの散歩。

 しかしこの五稜郭、思っていたよりショボい、「えっ、こんだけ!?」って感じ。

 クロマルの散歩には丁度いいが、城とか要塞を想像していると肩透かしを食らう、大砲もある時代に、こんな軍事拠点じゃ官軍に負けるわ。

 散歩を終え、少し移動して買い物、さらにラッキーピエロに寄って自分の夕食をテイクアウト。

 ラッキーピエロは函館中心に展開しているハンバーガー屋、ご当地バーガーってやつ。

 初めて食べたがメニュー豊富、値段も手頃で満足度は高い、ソースのかかったフライドポテトがうまかった。

 それに先立ってのクロマルの夕食は例によってカリカリ中心の夕食、旅が始まって以来クロマルが便秘気味なので一計を案じ、繊維質ということでの白菜、ちぎって与えるとむしゃむしゃ食べた。

 全くの便秘というわけではないが、以前なら朝昼夜の散歩できっちり出ていたものが、不規則細切れ散歩のせいですっかり便通不順、効果あるかな。

 先に食っているにも関わらず、こちらの食事に猛烈なプレッシャー、あまりシェアできるものもなかったので、バンズとポテトのかけらだけ。

 ここからの移動も面倒だったので、五稜郭公園の駐車場で一夜を明かすこととする、しかし都会は駐車するにも金がかかる。


 翌朝、4時過ぎからゴソゴソしだしたクロマルを宥めながらなんとか5時までもちこたえ車外へ。

 朝の散歩は当然の五稜郭公園、こじんまりした感じでぐるっと1周がちょうどいい距離感。

 どうやら桜前線は追い越したようで、まだ蕾が膨らみかけた段階。

 土地柄場所柄なのが、あちこちにコンクリートの土管を立てたようなものがあり、何かというと花見バーベキューの炭がら入れ。

 このような公園では火気厳禁が普通かと思うのだが、さすがはどこでもバーベキューの北海道。

 夏は海水浴でもテント張ってバーベキュー、そして寒いから海へは入らないとか。

 散歩から戻り、クロマルに牛乳とカリカリとスティックパンに白菜と豪華朝食、自分は缶コーヒーだけ飲んで二度寝、さすがに車中3連泊で疲れがまっている。

 3時間ほどで目覚め再始動、地元コンビニのハセガワストアにて、やきとり弁当を購入し遅めの朝食。

 やきとりだけどなぜか豚肉というのは北海道ではよくある話、レンチンなどではなく店内で煙もくもくで焼いていたのには少し驚いた。

 軽く散歩してクロマルのトイレを済ましてから出発、この時期はまだ高速が函館方面まで延伸していなかったこともあるが、観光がてら国道5号線を北上する。

 大沼公園で休憩、誰もいないのでクロマルをフリーに、すると何を思ったのか湖に突進。

 ラブラドールといえば水を見れば飛び込む河童ぞろい、しかしクロマルは規格外これまでそんなことはなかった。

 湖に足だけつかり、水を飲むクロマル、のどが渇いてたみたい。

 周囲を見ると全くの無人でもなく所々に釣人がいた、そしてそれは目を疑う光景。

 なんと釣り台出してのヘラブナ釣り、北海道の釣り人はルアーでマスとか釣ってるんじゃないのか。

 道南と称されるこの辺りはなにかと本州的、杉林もあるので花粉症の方は要注意。

 函館のある渡島半島が道南、札幌を中心としたエリアが道央で、旭川から北が道北、それ以外が道東で、道庁のある札幌を道央としたがため道西は無い。

 他にも支庁(現在は振興局)というのがあって、石狩、空知、上川、留萌、宗谷、網走(オホーツク)、根室、釧路、十勝、日高、胆振、後志、渡島、檜山の14支庁、今居る半島の太平洋側は渡島で反対の日本海側は檜山、空知とか胆振とか後志とか観光客はもちろん移住者にとってもピンとこないトコロもあるのだが道産子は全て理解しているのだろうか。

 濡れ犬をタオルでくるんで回収し、出発。

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