『異世界あるある現象』について真面目に考えていたら、ディストピアSF群像劇ができた。 ~ハッピーエンドに辿り着くまで、強制リセマラデスループ~
第四部隊は五部隊の中でも武闘派で知られています。彼らは日夜、鍛錬を欠かしません。
第四部隊は五部隊の中でも武闘派で知られています。彼らは日夜、鍛錬を欠かしません。
日が完全に顔を出しただろうという時間にようやく起きて(今くらいの季節は日の出が八時半ごろなので、つまり十時をまわっている)、昨日持たされた紙袋から適当に朝食兼昼食ということにしてダラダラ食べ、「あ~そろそろ行かなきゃな~」と三回くらい思ってからシャワーを浴び、ようやく寝巻から着替えて髪が湿ったまま家を出た。
検診で適合数値が低かった職員は、半月は内勤になる。
二日前に血清を打ったばかりの今日は、局内でまた検査をしてもらって、数値を確かめる日だ。
午後いちばんで採血をしたあと夜まで八時間の勤務である。
「おいこら。ボケっとしてんな。ちゃんと制服着ろ」
「イテッ」
すれ違いざまに後頭部をパカッと叩いたのは、先輩職員の平たい尻尾だった。
「すんません……」
言ったころには、先輩はオフィスを出ている。たぶん聞こえなかっただろう。
第四部隊のオフィスの端で、腰に巻いていたジャケットをモソモソ着る。
六年前のアン・エイビー事件から、戦闘部隊である第四部隊は体制を見直して、常駐する職員を1.5倍に増やした。
この国では、百戦錬磨の第四部隊が必要な事件も、まま起こる。が、『普通の日』というものは、普通であるからして、『普通じゃない日』よりも多い。
この日はどちらかというと、『普通の日』であった。
「きょ~うは~平和~だな~」
「てきとーてきとーにいこー」
「ジムで筋トレしてくるわ。なんかあったら呼んで」
「冷蔵庫にあるドリンク誰のだ? 飲んでいい? 」
「マジ事務処理誰か変わってくれね? 」
「それお前の始末書だろ。やだよ」
「ねえ~アタシのごはん知らない? これくらいの紙袋なんだけど」
「あれゴミじゃなかったの? 」
「……は? 」
とつじょ始まった職員同士の乱闘にヤジが飛ぶ。唾もタオルも机も椅子も、その他もろもろ飛べるものはだいたい飛ぶ。
第四部隊の控室が広くて頑丈で殺風景なのは、これのためといってもいい。ここの人たちはなんでも武器に変えてしまうからだ。
偉い人たちですら、これを「第四独自のトレーニングです」と言い張るくらいに日常茶飯事だった。
しばらくすると、お互い血みどろで肩を組んで揺れながら「仲間っていいな」と歌っていたりするから、インテリ集団の第三部隊などからは「第四ってバカしかいないよね」と言われてしまうのだ。
彼らは闘う。暇じゃなくても闘うし、暇であったら暇だから闘う。男も女もそれ以外も。
そういう人種しか集まらないというよりは、そういう人種になっていくのであろうと思う。独自のルールがあるので、治安は悪くても仲の良さは五部隊イチだ。
いつもなら晴光も元気に観戦するが、今日はなんだか気分が乗らなくて、そっと部屋を出た。
今日はボンヤリしている自覚がある。こういうとき乱闘に参加するのは危険なのだ。あれで高度なコミュニケーションが必要なスポーツなので。
「わ! せ、晴光くん――――」
そうしてガラリと扉を開けた先に、『ボンヤリ』の原因が立っていた。
●
前にエリカに、「あなたって●●●よね」と言われたことがある。
意味が分からなかったのでそう言うと、ニルに「唐変木って意味だよ」と苦笑されたことがある。『とうへんぼく』の意味もわからなかったので聞き返したら、「うーん、この場合、『察しが悪い人ね』みたいな……」と、もっと苦笑されてしまった。
ファンは、いつも通りだったが、どこか気まずそうだった。身長差があるので、彼女のほうから上を見ないと、視線がまったく合わなくなるのだ。
今回ばかりは、晴光も『とうへんぼく』ではない。原因は昨日のアレである。
「あ~……なんかあったか? 」
「う、うん。あの、検査、どうだったかなって」
「あ、なんか、大丈夫だった」
「よ、よかったね。……あ、あと、これ、ハック・ダックのおじさんから……」
腹のあたりに押し付けられるようにして差し出されたのは、なんてことはない白い封筒だった。
表と封に第四部隊長のハンコが押してあり、正式なものだ。
「ハック・ダックのおじさんは、第五の事務さんから頼まれたんだって」
「ああ。
「それだけ? 」
「ああ、うん」
……と言ったが、ほんとうは違う。
「……じゃ、じゃあわたし、お仕事の邪魔になっちゃうから……じゃあ、ね」
「うん。じゃあな、また」
封筒には一枚。
要約すれば、『召喚被害者としての周 晴光へ、再度の記憶調査協力要請』だ。極秘なので他言してはいけない、ともある。
晴光はぽりぽり頭を掻いた。
(……『召喚被害者』って呼ばれたの、ひさしぶりだな)
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