第8話 爆ぜる魔術士(7)招待

 谷川大地の遺留物からも同様の薬物と魔女のDNAが検出されたが、谷川と深見の接点が見つからずに捜査は難航していた。

 だが、深見の1人暮らしには不釣り合いの大きな屋敷には何かあると誰もが思っていた。

 気に入ったから、と言われればそれまでだが、怪しい。

 決して、狭い部屋で暮らしているからそれが気に入らないというわけではない。

「電気代がやたらとかかってるんだよな」

 どこかに何かないかと探った結果出て来た違和感だ。

 公安。警視庁では公安部となっているが、ほかの県警などでは警備部の中に入っているところもある。

 テレビや小説などの影響で、公安部と聞けば非合法な活動を行うところ、と思う人も少なくないだろう。

 公安が担当するのは、暴力主義的な破壊活動や国益侵害になるような行為についての捜査や取締だ。わかりやすく言えば、テロ、政治犯罪、学生運動、外国による対日工作など、日本全体の治安や国家体制に影響を及ぼす可能性のある事案を指す。

 そのため、公安警察は他の警察部門よりも更に厳しいレベルで情報の取り扱いに気を配る必要があり、それが秘密主義な部門となっている原因だ。

 さらに、公安の捜査では、協力者を用いて情報収集を行ったり、秘聴、秘撮、追尾、潜入などの独特な捜査手法がとられるので、スパイのような性質を持っているとも言える。その為に、ますます秘密主義的になって行く事にならざるを得ない。

 なので、他の部門が同じ事案や関連性のある事案を取り扱っていたとしても、公安警察は他部門と情報の共有や交換をほとんど行わない。

 また、多くの公安警察官への司令は、警察署や本部の上官を通さずに、警察庁警備局の中にある極秘の中央指揮命令センターから直接出されるというのも大きな特徴だ。

 そのため、各都道府県警のトップですら、同じ警察署に所属している公安警察官がどのような任務に就いているのか、正確に把握していないと言われているほどだ。

 これが公安だ。

 ただしそれは、公安総務課第6公安捜査係を除いての話だ。

 ほかの公安は事件が起こる前に事件が起きないように対処するのが仕事だが、総務課は起こった事件に対処するのが仕事になり、更に6係はその中の魔術関連に絞られる。

 そういう違いはあるが、捜査手法に関しては、やはり公安総務課第6係も公安であるというべきだろう。

 この電気代の請求書の入手方法は、大っぴらには言えない方法である。

「どれだけドデカイ冷蔵庫があるんだ?クジラでも保管してやがるのか?」

 ヒロムは鼻を鳴らした。

「ちょっと、留守中に確認してみるか?」

「抜け目がないだろうからな。カメラとか色々仕掛けてあるんじゃないか?違法捜査がバレたら、証拠として採用してもらえないぞ」

 あまねが言い、2人は腕を組んで考え込んだ。


 夜も更けた中、深見は自動車で自宅へと帰って来た。

 と、門の脇に誰かが立っているのが見えた。

「悠月さん?どうしたんですか」

 あまねは少し笑いながら言う。

「すみません。もう少し事件とは別に、魔術士について色々とお話を伺わさせていただきたくて。電話をしたらもうお帰りになられたとの事でしたので、ご迷惑かと思いましたが、待たせていただきました。来週から出張でいらっしゃらないと伺ったものですから」

 それで深見は、笑いながらさっと辺りを見回した。

「おひとりで?ここまではどうやって?」

「プライベートなので1人です。車も、個人では持っていないので、電車と、駅からは歩きです」

 それを聞いて、深見は満面の笑みを浮かべた。

「そうですか!ああ、もちろん歓迎しますよ!さあ、どうぞ!」

 瀟洒な門を開け、深見は車を庭に入れると、それにあまねも続いた。

 そして門は、またゆっくりと閉じて行った。






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