公安部公安総務課魔術係

JUN

第1話 0.0001%の体質

 景色がとてつもない速さで背後に流れていく。そしてその白い乗用車を、パトカーが猛スピードで追いかけて行く。

 進路方向の信号はコントロールされ、交通事故が起こらないようにしつつ、巧みに白の乗用車を誘導している。

 と、パトカーを振り切れない事に焦れたのか、白い乗用車の窓から杖が突き出され、パトカー目掛けて発射された。火の魔術だ。

 パトカーは火の玉に慌ててハンドルを切り、横道にそれたり後続車とぶつかりそうになったりして、白い乗用車は追跡を振り切った。

「ざまあみろ!」

「ひゃっほう!」

 テンションの高いままに歓声を上げる彼らだが、それには気付いていなかった。

「20秒後、来ます!」

「僕が車を減速させる」

「俺は車を止めよう!」

「オレが魔術師を無力化するぜ!」

 短く骨伝導式の無線で確認し、その時を待つ。

 と、20秒後に、交差点にその白い乗用車が飛び出して来た――と思った時には、3人が飛び込んでいる。

 猛スピードの車に突風をぶつけてスピードを殺し、中からの攻撃に備えるのが1人。

 白い乗用車に飛びつき、車を止めるのが1人。

 白い乗用車に飛び掛かるようにして、魔術士の持つ杖を奪い取るのが1人。

「うおお!?何だ!?」

 叫んで、反撃に移ろうとした時には、手遅れだ。3人に囲まれて武器を向けられている。

「警察だ。魔術の違法使用、銃刀法違反、銀行強盗、道交法違反で逮捕する」

 そして手早く、犯人達に魔術が使用不可能になる手錠をかけていくと、白い乗用車の位置を捕捉し、タイミングを出す係をしていたもう1人も合流して来た。

「他に逃げた犯人はいませんよお」

 坂下麻智さかしたまち、28歳。巨乳アイドルに見えるが、公安部公安公安総務課第6公安捜査係の警察官だ。

「大丈夫ですか、ブチさん」

 悠月ゆづき あまね、26歳。大人しくて目立たない平凡なタイプの、公安部公安総務課第6公安捜査係の警察官だ。車の足止めを担当していた。

「おう!俺は身体強化系だからな!」

 ニッと笑うのは、馬淵明夫まぶちあきお、34歳。背も高くがっしりとした体格をした、公安部公安総務課第6公安捜査係の警察官だ。車を素手で止めた人物だ。

「お、パトカーが来たぜ」

 背後を振り返って言うのは、合田紘夢ごうだひろむ、26歳。小柄でニコニコとした、公安部公安総務課第6公安捜査係の警察官だ。杖を取り上げる係を担当していた。

 この4人が、公安部公安総務課第6公安捜査係4班のメンバーだ。

「係長、犯人を逮捕しました」

 班長の馬淵が報告すると、無線の向こうから、女の声が応える。

『ご苦労様。全員ケガはない?』

 笙野舞香しょうのまいか32歳、公安部公安総務課第6公安捜査係の係長である。キリッとした美人キャリア上司だ。

「大丈夫です」

『なら、戻って来て』

 それで、追い付いて来たパトカーの警察官に犯人を引き渡し、彼らは庁舎へと引き上げた。


 魔素というものの存在が証明され、魔術というものが確立されるまで、魔術は都市伝説や魔法として扱われていた。

 その内魔術という現象が認められると、それが扱える人間の少なさから、奇蹟的な体質と呼ばれた。

 そして魔術を使える者が人口の0.0001%を占めている現在。魔術を違法な事に使用する者も現れた。

 魔術を使える者は登録が義務化されたが、それでも魔術犯罪はおさまらなかった。その為、魔術犯罪に対抗できる部署を設立し、公安部公安総務課第6公安捜査係、通称魔術係としたのである。


 部屋へ戻ると、待機当番に当たっていた1班が既に次の事件で出て行き、2班はまだ捜査中でおらず、待機当番に繰り上がった3班がデスクワークをしたりしていた。

「この分だと、俺達が待機当番になるのもすぐだな」

 ヒロムが言うのに、あまねが同意する。

「待機が休暇だな」

「悲しすぎますぅ。買い物にだって行きたいのにぃ」

 マチが溜め息をつくと、ブチさんが苦笑した。

「人数が増えればいいが、そう簡単ではないからな」

 この公安部公安総務課第6捜査係に配属になるには、魔術士である事が不可欠だ。魔術士が全員警察官になるわけではないため、なかなか、難しいと言わざるを得ない。

「せいぜい、平和を祈ろう」

「ちぇーっ」

 あまねが言って、ヒロムが口を尖らせる。

 そして報告書を書き上げ、笙野が帰っていいと許可を出したので、彼らは退社した。


 



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