第2話 合流そして……

 カネティスが何か提案をしようとした、まさにその時。大きな声で呼びかけられた。


「おーーーい! そこの君ーー。たぶんしなね屋で会った彼だよねーーー」


 その声に驚いて振り向くと、赤い髪の女性が手を振りながら近づいてきている。その後ろには緑のフードをかぶった大柄な男性が付き従っている。


「えっと、もしかして……」


 こちらも声をかけようとするが、小走りに近づいてきた女性の勢いに押され口をつぐむ。


「そう、もしかしなくてもお昼に会ったキツネさんだよ。よろしくね」


 そうして強引にキャラクターカードを渡された。


【キツネからキャラクターカードを受け取りました】


 ―――――――――――――――――――――

 名前:キツネ・サン

 種族:ベナンダンテ

 加護:ラーズグリーズ Lv3

 クラス:闘士 1

     方士 1


 備考欄:

 ―――――――――――――――――――――


 ああ、名前がそのまんまキツネさんだ。

 これは間違いないだろう。まあ、この名前道なんだという思いはするが……。


「ちょっと待ってよ姉さん。もし人違いだったらどうするのさ」


 後ろから男性が追いついてそう話しかけてるが、大丈夫だ。

 見た目にもキツネさんの面影があるしな。さすがに金長には面影がないが、思った通りの大柄だ。


「大丈夫。間違いないよ」


 そう言って、二人にキャラクターカードを渡す。

 それを見て金長も、カードを渡してくれた。


【フジノキからキャラクターカードを受け取りました】


 ―――――――――――――――――――――

 名前:フジノキ・ベルデ

 種族:ヒューマン

 加護:ランドグリーズ Lv3

 クラス:見習い魔導士 1

     見習い神官  1

     森番     1


 備考欄:

 ―――――――――――――――――――――


 あ、こっちはまとも……。というかいつもと同じキャラネームだな。

 俺の名前も、MMO――VRではない――で使ってた名前を二つくっつけたものだ。金長、もといフジノキはすぐにがわかるだろう。


「ああ、確かにコダマだ。よろしくね」


 フジノキが差し出した手を取った。


「ほーら。大丈夫だったじゃん」


 握手を交わす俺たちを見つつ、どや顔を決めるキツネさん。


「それじゃあ早速フレンド登録を――」

「――あ、あの!」


 キツネさんの発言を遮ったのは、カネティスだった。

 二人が来た途端、俺の後ろに張り付いて隠れてたんだが、突然顔を出し大きな声を上げたのだ。

 俺も驚いたが、それ以上にキツネさんも突然の声に驚いている。


「えっと、この子は昼間言ってた、お世話になってる家の子で……」


 俺の説明に、キツネさんはふむと頷く。


「なるほど……。もしかして合流したばっかり?」

「そうですね。さっき会ってカードの交換をして、ちょっと話してたところです」

「ふむ……」


 キツネさんは目を閉じ、こめかみを指で軽くトントンたたく。


「それじゃあフレンド登録とかもまだなのかな?」

「えっと……。はい、そうですね」


 カードの交換をした後は、正座騒動だったからな。

 あ、でもこの様子だと、この二人にはさっきの醜態は見られていないのか? だとしたら不幸中の幸いなんだが……。


「よし、それじゃあコダマっちはその子にフレンド登録の方法を教えてもらって。私もこいつにその方法を教えてもらうから!」


 キツネさんはフジノキを引きずって離れていった。


(え!? でも姉さん。僕たちもう)(いーのいーの。フレンドって上から登録順に並ぶでしょ。だから……)


 離れたところで二人が話している。早速フレンド登録をしているのだろう。

 教わるならみんな一緒の方がいいと思うんだが……。

 まぁ、二人は行ってしまったし仕方ない、俺もカネティスに教わるとするか。


「それじゃあ教えてもらってもいいか?」

「はいっ」


 カネティスは、少し顔を上気させ頷いた。





 フレンド登録自体はすぐにすんだ。

 これでカネティスとは個別通信、いわゆるwisができるようになった。他にも登録者同士のグループチャットみたいなのもできるらしい。

 こちらと同じように、フレンド登録が終わったのか、キツネさんとフジノキの二人も戻ってきた。


「それじゃあ改めて、アタシはキツネ。気軽にきつねーさんとでも呼んでくれるとうれしいな。あ、後ろのは弟のフジノキね。それじゃあ早速フレンド登録を……、っとその前に」


 キツネさんが、ちょいちょいと手招きする。

 それに応じて、カネティスがおずおずと近づいていった。


「はい、これキャラクターカード。よろしくね」


 キツネさんが差し出したカードに、カネティスはゆっくりと手を伸ばし、受け取った。


「カネティスと言います。よろしくお願いします。後、さっきはありがとうございました。えっと、……きつねーさん?」


 上目遣いにお礼を言うカネティス。


「――! やだ、かわいい」


 キツネさんが、カネティスに抱きついた。


「きゃふっ」


 カネティスが驚き戸惑っている間に、キツネさんはその頭をなで回す。


「よしよし、おねーさんはカネちゃんの味方だからねー」

「姉さん、よしなって」


 フジノキが止めようとするがままならない。

 俺もあの空間に割って入るのは無理だ。

 ……まあそれに、珍しいことにカネティスも戸惑ってはいるが、嫌がってはいないようだ。大丈夫だろう。





 キツネさんが落ち着くまでに、幾ばくかの時間を要した。

 最後はフジノキがキツネさんを引っ張っていったからな。


「ごめんごめん。あんまりにも初々しいもんだからさ。それで、何の話をしてたっけ」


 キツネさんが頭をかきながら言った。


「フレンド登録をしようとしてたんだよ、姉さん」


 フジノキがため息をつきながら答える。


「そうだったね。それじゃあ早速……」


 そうして四人でフレンドコードを交換し合っていると、ふとフジノキが話しかけてきた。


「そういえばコダマって、なかなかに個性的なクラスの取り方をしてるよね。大丈夫?」

「ああ、それがね。実はさっきカネティスに言われるまで気づいてなかったんだよね」

「ははっ。相変わらずだね」


 フジノキは軽く笑う。

 そう。実はこの手の失敗、初めての事じゃないんだよな。

 転じて福となったこともあるけど、大体はそのまま失敗に終わった。

 だから転職した方がいいってのはわかるんだけど……。

 ……ふっと、脳裏にエルの笑顔が浮かぶ。

 そうだな。せっかく見栄を切ったんだ。多少は頑張らないとな。

 少なくともスタートから諦めるのはダメだろう。


「どうするかもう決めてるみたいだね」


 フジノキが苦笑している。


「まあね。わかるか?」

「そりゃあね。リアルではともかく、ネット上での付き合いはそこそこあるんだ。考えそうなことくらいわかるよ。そのままいけるところまで頑張るつもりだろ?」

「ばれたか……。だから少しの間は一人で動こうかと思ってる。足を引っ張るのもい――」

「――なーに男二人でわかり合ってるのよ」


 突然キツネさんが俺の肩に腕を回してきた。そのままぐいと引き寄せられる。や、柔らか。む、むね……。


「何やってるんだよ姉さん! コダマが困ってるだろ」

「そーお?」


 キツネさんはフジノキの言葉を意にも介さない。


「……とはいえカネちゃんに悪いから、これくらいにしておくかな」


 キツネさんが俺を解放してくれた。

 カネティスが何かをしてくれたのか? 正直ありがたいような、それでいて残念なような……。

 いや、いかんいかん。首を振り心を落ち着ける。

 そうして俺が平静を取り戻す間に、フジノキが説明をしてくれたようだ。


「ふぅん。なるほど、ね」


 キツネさんは顎に指を当てる。


「私たちはそこら辺、気にしないけどなぁ。楽しければいいし。その点はカネちゃんも一緒だと思うんだけどね。……とはいえ本人が気にしてたら本末転倒か。よしっ私は陰から見守ることにしよう。頑張るのだ、少年!」


 キツネさんがバシバシと肩をたたいてきた。

 気にしないと言ってくれるのはうれしいが、フジノキ一人ならともかくキツネさんを巻き込むのはなぁ。楽しければいいって言ってるけど、その楽しみの邪魔になるのは嫌だ。

 そしてその点はカネティスも一緒だ。保護者を用意してまで参加したゲームだ。楽しみにしてたんだろうに、無理に俺に付き合わせるのも気が引ける。


「よーし! それじゃあ中央広場にいくとしよう。そこまでだったら一緒にいてもいいでしょ?」


 ぱちりとウィンクするキツネさん。

 そうして彼女は、カネティスの手を引いて歩き出した。カネティスは最初はこちらを見て何か言いたげだったが、キツネさんが一言二言声をかけるうちに打ち解けたのか、柔らかな表情で頷いている。

 すごいなキツネさん。ああもあっという間にカネティスがなつくとは……。


「コダマ、僕たちも追いかけないと」


 二人を見送る俺の肩を、フジノキがたたく。


「あ、ああ。そうだな」

「姉さん、割とコミュニケーションの線引きがうまいんだよね。だからカネティスちゃんについては心配ないと思うよ」

「そっか、ありがとな。……これでカネティスの引っ込み思案が解消されるといいんだけどな」

「う~ん、そうきたか。……僕はカネティスちゃんもだけど、コダマのことも心配になったよ」


 フジノキは眉をひそめ、話を続ける。


「それよりもコダマ。今回はどうしてそのクラスのまま行こうって思ったんだい? コダマのことだから単になんとなくってわけじゃなくて、ちゃんとした理由があるんでしょ?」


 ああ、心配なのはそこか……。


「ああ。今回はエル、チュートリアルの子が詰まないよう調整はしてあるって言ってたからだよ。だからまあ色々試してたら道ができるかなって思ってね」


 メーカー側のAIとかそういうのを抜きにして、エルの言葉ってなんか信じられたんだよな。

 だったらまあ、色々と試してみるのも悪くはないと思うんだ。

 諦めて転職するにしても、それはその後だ。


「そっか。コダマがそう決めたんなら僕も応援するよ。でも困ったらすぐに連絡してよ? そのためのフレンド登録でもあるんだからね」


 フジノキが拳を突き出す。


「ああわかった。その時はよろしく頼むよ」


 そう答えて俺はフジノキと、こつりと拳を付き合わせた。

 せっかく誘ってくれたゲームでこんなことになったのに、こんな風に言ってくれる。ほんとこいつはいいやつだよな。


「よし、それじゃあ先に行った姉さん達を追いかけよう。また大きな声で呼ばれてもかなわないからね」


 フジノキの言葉に頷き、俺たちは二人を追いかけた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――

エルのひとりごと


さーて今回説明するのはラーズグリーズの加護だ。きつねーさんが持ってる奴だね。

これを持ってる人は、パーティーリーダー時に能力値が少しだけ上がるんだ。

上昇値はパーティ構成人数で変わるよ。

その代わりソロだったり、リーダーじゃなかったりしたら減少するから注意が必要だね。

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