アカノクロノ

ばてぃ〜

【ハジマリ】

prologue


……


………




荒れ果てた瓦礫の山、ここに堅牢な城があった事など誰も分からないだろう



周りは草一本生えているかも怪しい土と石の荒野、ここに花と緑が生い茂っていたなど誰も信じないだろう


僕と彼女はそんな荒野で2人、対峙している


今なお空は明るく照らされているのに、僕の背中には冷たいものが流れて身震いしそうだった。


「やっと…やっとだ!ここまで来たぞ!ここが終着点だ!覚悟しろ、魔神!!!」



眼前の美女は殺気と殺意でもって、僕にそう言い放つ



紅く長い髪を靡かせ、眼は凛とし鋭い赤目の眼光、肌は白くきめ細やか、身体も豊潤な形をかたどっている


銀と金に彩られた甲冑は彼女によく似合い、神話に出てくるヴァルキュリアを連想させた



「…其の、敗北により、この喜劇の、幕を下ろそう。」

僕は悠然と剣を構え、彼女と対峙する


彼女もまた、紅と刀身に銀色の刃渡りを持つ、やや大振りの剣を構えた



「……1つ聞きたい。」

構えを解かず、殺気と殺意はそのまま、不意に彼女は口を開いた



「お前は…今まで殺したものを覚えているか?」

その問いに対し僕は正直に答える



「記憶にある者もおれば、記憶に無き者もおる。」



「我が臣下に命じた、有象無象などは、記憶に無く、我がこの手で刃を下ろした者は、記憶にある。」

そう答えると彼女は奥歯を鳴らし、より殺気と殺意をとばししてくる



「黒髪、黒目の男の子だ!!貴様が纏っている、ローブよりも黒く、艶やかな黒を纏っていた!!」




………


………姉さん


その言葉を聞いて思わず感情を揺さぶられる


言いたい、言ってしまいたい、打ち明けてしまいたい


でも…今はまだ言えない


言ってしまうと、今まで積み重ねた事が全て崩れ去ってしまう



僕は黒いローブで身を包み、認識阻害の仮面で顔を隠している

何度も顔を合わせているにも関わらず、バレた様な素振りもない



僕はほんの少しホッとしながら、ほんの少しだけ…寂しかった…



「この世に、稀有な、黒髪黒目の者だろうとも、この世に、1人という事はない…故に、我が刃を下ろした者と、同一の者であるかは、分からぬ」



「貴様っっっ!!!」


「誤解するなよ、女、憤怒の炎を、滾らせているのは、其の方だけでは、ないのだ。」

憤怒する姉に怜悧に言い放ち、持っていた剣に魔力を込める



姉をより効果的に倒せる様に



姉をより効果的に壊せる様に



姉をより効果的に滅する様に



それを見た姉は、より構えを強化し大振りの剣に紅蓮の炎を付与した


見ているだけでそれが地獄の業火と揶揄される程の質量を有していると理解できる




「最後にもう一つだけ聞く」

目線をこちらから切る事なく、姉は再度口を開いてきた




「貴様の目的はなんだ?」

僕はこの質問に対して僕は少しだけ驚いてしまった



何度も喧伝し、人間に伝え、宣言をしつくしている筈だ


それをまさかこの場に立つ姉が知らぬ訳もなく、ましてや再度問われるとは思っていなかったのだ



少しだけ思考し、改めて思う


これは変わらない


これだけは


だからこそ、姉には改めて告げなければいけない



「…変わらぬ、我が願いは、人間族の殲滅、善も悪も、有象も無象も、老いも若きも、男も女も顧みず、全ての人間族の殲滅なり」



「…そうか」

何故かそう言った姉の顔は少し哀しそうに見えた


まるで、親しい人と違えた道を惜しむ様に…


だがその刹那、こちらに鋭い殺気と殺意を向ける


何かを吹っ切ったのだろうか?


対峙したばかりの先程とは異なり怒りはあってもそれだけではなく、もっと純粋な殺し合いを楽しむ様な雰囲気を醸し出していた




「人族の1人として、断固受け入れる事はできない!終わりだ、魔神!貴様を倒して全てを終わらせる!!」

その殺し合い対象が僕である事が恐ろしくも感じつつ、やっとここまで来たという歓喜の感情でもって応える



「其の、問いには応えた、人族最強兵器が、いくばかりのものか、其の、剣にて、応えてくれ」

僕は再度、姉を凝視しながら言い放つ


僕の剣は感情を表現するかの様に魔力を増幅させる


それは見る人が見れば、黒くおどろおどろしいと感じるだろうが僕からすれば感情の高ぶりに呼応する剣を美しく感じた




「人類族最強兵器ではなく、1人の弟の為に…アカノ=エンドロール、参る!!」



「其が、何と言おうとも、変わらぬ、此処に其が独りで赴いたのが、人族の在り方よ」





……



3分は経過しただろうか?


互いが互いの隙を窺う膠着状態は、姉の突然の踏み込みから始まった





「あああああぁぁぁーーー!!」





剣を中段に構えて激しく苛烈に距離を詰め寄ってくる



「ぬぅぅぅぅぅぅー!!」

僕も片手で剣を構えて姉の方へ駆け出していった




ガギギィィンと鈍い音が鳴り響き、互いの魔力が衝突する


行き場のない魔力の波動がうねりをあげて、全方向に拡散していく



互いの刃が交差し、紅と黒の魔力がお互いを相殺しあっていった



































これは、


僕、クロノ=エンドロールと


姉、アカノ=エンドロールの物語だ





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