第49話 その4

 このうつ伏せの姿勢で、頭の方にいるオーツチがスカートの中を見るためには、[たくしあげる]という命令をするべきたったのだが、[めくれ]という命令だったから、天井方向にあげることになった。


これでは見ることは出来ないだろう。


となると、後ろにまわってくるかと予想したが、コイツはその場から動かない。理由は分からないが、とりあえずそのつもりはないと判断した。


「紅、パンツを見せろ」


このひとつ覚えが!! なんど言ったら気が済むんだ。

もう返事もするのもイヤになったので、にらみ返す。


「紅、スカートを持て」


身体が命令に従い、スカートを持つ。


「紅、腰までたくしあげろ」


しまった、気がつきやがった。


あたしの両手がスカートをたくしあげる。

ふくらはぎ、膝後ろ、そして太ももに空気を感じはじめる……


精一杯抵抗したが、手が止まらない。


まてまてまてまてまてあたし!!


 一瞬、見られて減るもんじゃないじゃんと、諦めの言葉が浮かぶ、だが、そうじゃない、そうじゃないんだ。


 これはもう尊厳の問題なんだ、見せたくないと本人が言っているのに、力ずくで無理矢理言うこときかせようというのは、この、あたしの、尊厳を、土足で、踏みにじる行為なんだ!!


負けたくない。


「ふはははは、もう少しだ、もう少しで見えるぞぉ、見えるぞぉ」


下卑た笑いにも腹が立つ、負けるかああぁぁぁ。


「見せろぉ、見せろぉ、パンツを見せろおおぉぉ」


くっ、聴くな、あたし。


気をそらそうと横を向いてギョッとした。クラスの女子が全員、スカートをめくってこちらにパンツを見せていたのだ。


色とりどりのパンツが、めくられたスカートの中心で自己主張していた。まるで黒い花の中心にある雌しべのようだった。


シロ、クロ、ブルー、ボーダー青白、ボーダーオレンジ白、ストライプ青黒、アカ、ベージュ、ピンク、パープル、フリル白、生理用ショーツ、ふんどし、しじみ……


ん、しじみ?


なんでしじみがここにいるの? あのコは保育園にいるはずでしょ?


よくよく見たら、ビトーちゃんだった。なんだビトーちゃんか、はいてないのね、ノーパンなのね……


そう納得した瞬間、思わず声に出してしまった。


「ビトーちゃん、つるつるなのぉ!?」


その言葉に、あたしに夢中になっていたオーツチが、つられて見る。


「おわぁ!!」


宇宙人にでも会ったかのように驚いて、気がそれた。それと同時に身体が自由になった。


今だ、考えるのは後まわしだ。


あたしは身体を起こすと、一気にオーツチの目の前まで来てしゃがんだ。


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