第42話 その4

「オーツチくん」


 あたしが後ろから声をかけると、オーツチはビクッとして慌てて何かを隠す。それからこっちを見て、半分憎まれ口に言う。


「なんだ、紅か。何か用か」


その物言いではっきりした。やはりコイツはあたしに敵意を持っている。しかし心当たりはない。

正直、話すのはこれがはじめてなのだ。なにか知らぬ間に恨まれるようなコトをしたのだろうか。


「さっき何を隠したの」


「別にいいだろ、お前にはカンケーねーよ」


「じゃあ別の話。昨日あたしと目が合ったでしょ、何か言いたそうだったけど、何かあるの?」


「ねーよ、目なんか合ってねーよ、自信過剰かお前は? あっちいけよ」


なんなのよ、あたしここまで嫌われることした覚え無いわよ。それにさっきから偉そうな言い方、こっちがお前に敵意を持つわ。


そんな状況を見かねたのか、カトーちゃんがこっちにやって来た。


「オーツチくーん、どうしたの? なにかあったの?」


「ジュ、ジュリナさん」


オーツチはそう言うと、背筋を伸ばしてカトーちゃんに笑顔を向ける。ほほう、ずいぶんと態度が違うじゃないか、ええ。あたしには笑顔すらめんどくさいかよ、このやろう。


カトーちゃんに何を話していいか分からないという感じで、もじもじしている。好きなんだねぇ。


「あ、あの、ジュリナさん。プレゼントしたのは今日は……」


プレゼント? ああ可燃ゴミになったあれか。カトーちゃんは察したらしく、やさしく返した。


「ゴメンね、今日はしてないわ。毎日同じものするわけにはいけないでしょ」


「は、履いてないんですか。そうですか、そうですよね」


がっかりしたを通り越して、絶望したような言い方に、あたしは鳥肌が立った。コイツ、アレを毎日履けというのか。バカか。


「そうですよね、僕のセンスが悪かったから履けないんですよね、僕が悪いんです、ごめんなさい、だから……」


オーツチの目がうつろになり、だんだん妖しくなってきた。


「だからジュリナさんが毎日履けるモノを贈らないと、皆がどんなの履いているのか知ろうと、それさえ分かればしてくれるだろうと」


「オーツチ、あんたおかしいよ、カトーちゃんが毎日履かないのは、そうじゃなくて」


「うるさい!! あとは紅と尾頭だけなんだ!! お前達のパンツを見たら、全員のが分かるんだ!! そうしたら今度こそジュリナさんに履いてもらえるんだ!!」


コイツ、言ってることがムチャクチャだぞ。


オーツチはエンピツらしきものを片手に立ち上がり、あたしに向かってこう言った。


「さぁあ紅ぃぃ、お前のパンツを見せろぉぉぉぉ」

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