第32話 その6
あたし達が睨みあってしばらく経ったあと、背後からタカコがおずおずと話しかける。
「あの~、会長に提案があるんですけど~」
無言で会長がタカコをじろりと見る。
「私たちに下請けさせてもらえないでしょうか~」
「下請けだと」
「私たちは早く解決したい、そちらは些末な事はしたくない……」
「やらないとは言ってない」
「すいません、訂正します。些末な事は後回しにしたい、ならばやる気のある私たちに任せてみてはどうでしょうか」
返事をせずに考える仕草をする会長に、タカコは言葉を続ける。
「ウチが建築屋なので、その、公共事業の下請けみたいにやれたらなぁと」
「責任は誰が持つんだ」
「いえいえ、私たちが勝手にやるだけなので、会長達には迷惑はかけません。すべて私たちが勝手にやることです。なんなら無事解決したあかつきには、会長に手柄を差し上げます。あたし達は普通科なので、そういうのは興味ありませんし……」
「私がそんなあさましい真似をすると」
「あ、いえいえ、お気に障ったらすいません。で、どうでしょうか」
「ふむ」
机の上をとんとんと指で叩いたあと、好きにしたまえと返事をした。
「ありがとうございます、それでですね、ひとつお願いがあるんですが」
「なにかね」
「スカートめくり関係の投書を戴けませんか、調査に必要なので」
「投書は個人情報だ、見せるわけにはいかない。第一昨日今日あったばかりの者に信用して渡せるものではない」
「もちろんです、もちろんですとも。ですからここに居る、化学部部長の青草くんに貸してください。決してそんな事は無いですが、もし情報が流出しても、青草くんの管理責任となりますから」
副会長とのにらみ合いを続けながら、内心タカコの交渉能力に舌を巻いた。あのコ、いつでも働きにいけるな。
会長は、またとんとんと机を叩いたあと、副会長と書記長に投書を渡すように指示した。
副会長は、踵を返して自分の席に戻ると、PCのキーボードを打ち始める。
その間に、書記長が関係投書を棚から取り出して、副会長の横に置いた。
PCの横にあるプリンターが動きだし、1枚の書類を吐き出す。それと投書を持って、あたしの横を通り過ぎ、究の前に立つと事務的に話し始めた。
「こちらがお望みの投書の束、そしてこっちが貸し出し確認の書類よ。これにサインしてくれる」
あたし達の顔を見たあと、究はサインした。
「ありがとうございます」
タカコとあたしは会長に、会長にだ、深々と挨拶をした。
「期限は2週間、こちらが委員会に口頭通達するまでだ。それまでになんの成果も出なかったらペナルティをうけてもらう」
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