第18話 その6

「なんだとおぉぉぉ」


はっちゃんパパの激怒メーターが、一気に振り切った。


「舞、お前は学校でそんな目にあっているのか」


「ち、違うのぉ その時はぁたまたまでぇ」


「そ、そうです。その男子はあたしが、ちゃんと懲らしめました」


「だからあげは、物事は正確にだ。下ろされたスカートと下着を直して泣いているところを、僕のコーヒーを飲ませて落ち着かせた、だろう」


もう黙れ、お前はっ!!


 しかしもう遅かった。はっちゃんパパは鬼の形相のとなり、代金はいいからすぐ帰ってくれと言われてしまった。

 とりつく島もない。ここは素直に帰るしかなかった。

 元凶の究は、もっと話をしたいと食い下がろうとしたが、引きずるように連れ出し帰途についた。


「あげは、なぜ帰らなければならないんだ」


「あんたねぇ、いい加減にしなさいよ。究が余計なことを言うから、はっちゃんパパが怒ったんでしょうが」


「余計なことなど言ってない。余計とは、事実でない事を余分に言う事だ」


 このバカが。間違いを認めないではなく、気づかないから始末におえない。この間の嫌な予感の正体はこれだったか。


「なあ、今からでも戻って話を聞けないかな」


「行くなら一人で行ってね、もう究とは行かないから」


「そんな。なんでだよ」


「それが分からないからよ!!」


 家に着くまで、一緒に行ってくれと頼まれ続けたが無視した。おやすみとだけ言って家の中に入る。反省しろ、バカ究。


「お帰りなさい、ってどうしたの。なにかあったの」


「べつに。なんでもない」


 不機嫌なのが顔に出てるのはわかる。ごめんお母さん、あとで謝るから八つ当たりさせて。


 2階にある自分の部屋に入ると、部屋着に着替えてベッドにダイブした。


 はっちゃんに悪いことしたなぁ、メールしてみようか。でも今怒られているかもしれないしなぁ、とにかく謝らないと。


ゴメンねはっちゃん、究がバカで。


ゴメンねはっちゃん、あんなのに会わせちゃって。


 心配して部屋の前から声をかけるお母さんになんでもないと言うと、


「今日ね、しじみ達と外で食べてきたの。それでしじみがあげはに、プレゼントだって買ってきたのがあるから、あとで見てあげてね」


 何かを部屋の前に置いた音と階段を降りていく足音を聴きながら、枕に顔を埋めていた。


だめだ、なんにも考えられない。

もう寝てしまおう。


灯りを消して、あたしはそのまま目を閉じる。


明日は良いことが起きますように、と願いながら布団の中に潜り込んだ。


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