第14話 その2

 午後の授業を終え、化学予備室で待ち合わせると、3人ではっちゃんの家に、いや、喫茶店に向かう。


 少し遠回りになるが、あたし達の家と学校のだいたい中間くらいのところに、お店があった。


喫茶 NIJYU


 クラシカルな外見の、落ち着いた感じの喫茶店だ。お年寄り向きかな。はっちゃんには悪いが、あたしはファミレスの方が好みだな。


 はっちゃんを先頭に究とあたしが入る。

 へえ、外見のわりには中は明るい感じ。カウンター席が5人分とボックス席が3つ。それが細長い店内に並んでいた。


「いらっしゃい、舞のお友達で、コーヒーに興味あるんだってね。ゆっくりしていってね」


 はっちゃんのお父さんかな。マスターらしい人が、愛想よく迎えてくれた。


 あたし達はボックス席にテーブルを挟んで座り、すこし迷ったあと、はっちゃんはあたしの隣に座る。


 究は店内をじろじろと見回し、はっちゃんはそんな究を見続けている。お互いに他のものが目に入らない感じだ。

 ゆっくりしたいが、このままでは事がすすまない。もうとっとと本来の目的である、ナポリタンとコーヒーを頼もう。


 あたしはその旨をはっちゃんに言うと、席を立ちマスターに頼みにいき、そのまま奥に引っ込んでいった。


「究、あまりじろじろ見ないの。無遠慮だよ」


「情報を出来るだけ入れておかないと、正しい結論が出ない」


はいはいはいはいそうですか


 変わらないなぁ、こいつは。よく言えば真面目なんだが、まわりに気をつかえないところで、損をしている。



 そうこうしているうちに、美味しそうな匂いが漂ってきた。

 奥に引っ込んでいた はっちゃんが、私服に着替えてエプロン姿で出てくる。


かわいい


こんな妹が欲しいな


しじみは別腹で


 トレーに乗せられて、ナポリタンが2つやってきた。


「鉄板焼タイプか。薄い玉子焼きが敷かれて、その上に赤いナポリタン。具はピーマン、タマネギ、ウィンナー、そして細かく切ったベーコン」


 究がいろんな角度で見回しながら、観察をはじめる。


「……赤い。この赤さは、ケチャップだけでは出ないな。……パプリカパウダーか」


「あたりですぅ」


 そこまで分かるか。いやいやいやいや、そこまではあたしにだって分かるわ。


 まだ観察を続けている究をほっといて、あたしはいただきますをすると、フォークを手にし、ナポリタンに刺して、くるくると回す。

 うず巻が赤い塊になり、ひと口大の大きさなるのを確認して、口の中に運んだ。


「美味し~い~」


なになになになになにぬねの


こんな美味しいナポリタン、はじめてー


これはタカコ達にも紹介せねば。


 たぶん、あたしの顔は幸せいっぱいという感じなんだろうなと、自分で思った。

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