第7 風、引きました








「昨夜未明、暁市の一角のマンションで女性が倒れているのが発見されました。






倒れていた女性は、近くの緊急病院へと運ばれましたが、数時間後に息を引き取りました。




警察の調べによりますと、鋭利な刃物などの外傷はなく、遺体は今も続く、感染症の疑いでは無いかとの事で、後日解剖が施されるとの発表です。異例の死因は現在も見解は付いておらず、政府は注意を促しています。








続いてのニュースです。




一昨日の人体発火事件につきまして、研究部より、昨日、結果が発表されました。




内容には、殺人ウィルスとの関連性を定めており、研究を進めるが、いまだ、謎のウィルスは解明できていないとの事です。






ただ、これまでの経緯を見直すと、 人が突然変貌する、理性を無くす、 突然体が燃えて灰になる、干からびた状態で発見される等、謎めいた事柄が多く、当初では不可思議殺人として扱われてきましたが、近年の研究によって、これらはウィルスの仕業であると判明してきています」












「高井どうですか?」








「そうですね。今この世の中、どう立て直すかで必死なところがどこも正直でしょう。




早くこのウイルスに対応したワクチンができればいいのですがね」








「今後も増え続ける感染者の被害状況にも、これから警戒しなければなりませんね」






「そうですね。経済はガタガタ。倒産する会社も後を見ませんからね。




あと一番怖いのは変貌する方がいると言う事でしょう。




どうも政府の見解は腑に落ちないと言いますか。




私はこれがウイルスの仕業の様には思えないのですよね。




もしこれが仮にウイルスの仕業だとしたら、このように不規則な症状が多発しますかね?」








「と、言いますと、これはウィルスではないのではないかという事ですか?」








「いや、『ウィルスだ』とは断定出来ないのではないかと。




皆バラバラに症状が違い、殺人であったかのような干からびた死体も見つかってる訳でしょう?




干からびているからと言っても、数か月で水分を含んだまましぼむ、何てことあり得ますかね?




結果、その人体からは血が全くなかったと言うのであれば、まるでこれは、別の殺人のような気もしなくはないんですよね」








「別のですか……




別のとは一体?




では、多発する発火事件も一連グループの犯行の仕業だと?」






「いや、だから不思議なんだよ。




もし、仮に殺人だとしてもだよ、これだけの被害を出し続ける無差別殺人なんてのは果たして、人に見つからず、こうも何年も続けられるものとも思えないんですよ」






「では、やはり殺人ではなくウィルスなのでは?」








「だから、そう言わざるを負えない状況ではないんでしょうかね。




と言うのが私の見解です」








「分かりました。ありがとうございます。






CMの後は、白井頭町の特産物についてリポートです。」






















「へぇっくちん」








「具合どうだー?」








「うーん、……、 しんどいよぉ~」








「まぁ、そうだろうな、ゆっくり寝てろ」






ユウカは自分のベッドで寝込んでいるエリィーの額に、濡れタオルを置く。








「コホッ、コホン」








ピピピピッ、ピピピピッ――――。








体温計の音が鳴る。








「38度3分。








お前大丈夫かよ」








「ハァー、ハァー、」








「大丈夫なわけないか








とりあえず、学校行ってる来るから寝てろよ」








ユウカは心配そうにエリィーを見つめると、部屋を後にした。










今、世界敵に流行っている、蔓延性の殺人ウィルス。




と、今は報道されているが。




まさかエリィーがそのウィルスにかかっていなければいいのだけれど、とユウカは心配していた。








とにかく今日は早く帰るか。そう心に決めて、学校の門をくぐる












放課後








「なぁ、ユウカこの後、ショップ行こうぜ




また新しいの出たんだって」








「あー、悪い。




今日は俺ダメなんだわ」








「ダメってなんだよ?




何かあるのか?」








「あぁ、ちょっと用事がな」








「そっか、じゃあ仕方ないよな




じゃあ、桂川でも誘うか」






親友の学は残念そうにしたかと思うと、すぐさま別の生徒の方へ声をかけに行っていた。








「なぁ、桂川―」








悪い、学。




埋め合わせはまた今度。




両の手を合わせ、ユウカは教室を出ていった。








「あれ、ユウカ君、もう帰っちゃうの?」






星が声をかけて来る。






「そうなんだよ。今日はちょっと用事があって、早く帰らないといけないから」






「そうなんだ。気を付けてね。」






なんてまぶしいくて、優しい笑顔なんだろう。






思いもよらない会話に、ユウカは照れたが、一目散に家へ向かった。








急いでドアを開ける。






「ただいま。 




大丈夫か?! 」










リビングのドアを開けると、




ソファーの柄の部分で座りながらだらしなくお菓子を食べるエリィーがいた。








「ん~? 」










「お前何やってるんだ」






ユウカは目の前の状況に唖然としていた。








「うん」








「うん。って、お前、風は? 」








「なんか、もう何ともない」






「何ともないって、そんなことないだろう?




朝に38度超えてたじゃないか。






体調とか大丈夫か? 気分、悪いんじゃないのか?」








「ん~、なんだ、大げさだな。




大丈夫に決まっている。




私の体はお前らより丈夫なんだ」








エリィーは高笑いをかましていた








さっきまで風を引いていた奴のセリフかとユウカは思っていた。










「まぁ、大丈夫なら良かったが、一応病み上がりなんだ。




今日はゆっくりしてろよ」








「え~、やだ」








「やだ、じゃねぇよぉ」








「うえぇ~。だって暇なんだよ」








「知るか。お前テレビ見ながら、おかし食ってるじゃないか。




とりあえず、御飯の支度するから、安静にしてろよ」










「ふぁーい」








ユウカは手慣れた手際で料理を作っていく。






今日はエリィーが食べやすいように、柔らかめのメニューが並ぶ。






「あっちっ。






エリィー、御飯出来たぞ~」








「わぁ~いぃぃ」






思いっきり走り寄ってくる。








「お前本当に何ともないのか? 」








「うむ。




見てくれ、この過敏な動きを」






シュッシュっとボクシングをして元気さを見せてくる。






「わぁったよ。




とりあえず食べるか」








「おぉ、今日はまた、お粥だな。




これは、なんだ。私の為か? 」






エリィーが挑発してくる。






「あぁそうだよ。これは雑炊って食べ物だ。




似てるかもしれないが、お粥とはまた違う。 」






「ほぉお、そうなのか。




見た目はまるっきりお粥だがな」






エリィーは雑炊を口にした。






「熱いぞ」








「う、うまい。




これが雑炊と言うものなのか、




お粥は何かシンプルと言うか、水っぽい味がしていたが。




こやつはまた、色んな味がするな」








「それは悪かったな。




いろいろ煮込んであるからな。それと、鍋の元を使ってだしを取ってあるから、旨味がますんだ。




これが雑炊ってやつだ」








「ユウカ、お前は本当に料理が上手いな」








「俺はなんも上手くないよ。




ただ、出来上がってるものを入れてるだけだ」






「またまた。謙遜しよって。




お前はいっつもそうだからな。




少しは認めたらどうだ。」






エリィーはスプーンの先端部分を何度もユウカに突き刺す






謙遜もなにも、ユウカは本当の事を言っていただけだ。




何も認める事など無かった。






「よぉぉぉしっ! 




今度はゲームでもするか」








風が治ったからか、体が軽くなったからか、エリィーはやけにはしゃいでいた。








「もう、お前は今日は寝てろ」








「だけど、ユウカ。




もう何ともないのだ。




寝ていると、余計に疲れてしまう。




それに、今日は一日中寝てたんだぞ。






もう寝れるかい」










「お前、休みの日は一日中寝てる時もあるだろが」








「それとこれとは話が別じゃ」






エリィーは元気そうにゲームの方へと走って行った。








しょうがないとユウカはひとまず元気な姿に安心し、日々の日常へと戻った。






とりあえず、疲れ切っていたユウカは一風呂浴びる事にした。




唯一一人に慣れて、心を落ち着かせられる時間である。








「ユウカ~」










「何だ?」










「私も入っていいか~?」










「アホかぁ」








「なんじゃ照れてるのか? 」








「病み上がりだから止めとけっちゅうのお」






「えぇ~、だって気持ち悪いもん




なんでそんなに照れるんだ?




ただお風呂に一緒に入るだけじゃないか」








「風が移る。




入るんだったら、俺が上がった後に入れ」










「えぇ~、寂しいよぉ」






「黙れ」








……。








「ふんだ。ケチ」








エリィーはほっぺを膨らませて帰っていった。










折角、ゆったりと入っていたのに、再び安息の時間を奪われる訳にはいかない。










「と言いつつ、ドーン」








扉が思いっきり空き、エリィーが入ってきた。








「お前、バカか」






ユウカに思いっきりユウカに当たりながら、同じ浴槽へ入水する










「キャハハハ」






楽しそうなエリィーの姿を見て、胸をなでおろす。










「おい、こらお前どこ触ってんだ」








「おぬし……








小さいのぅ」








からかう視線が有価に向けられる。








「だから、嫌なんだよ。




早く出ていけ」










「そんなに照れるな」








「笑いながら突くな」


























「ふぅ~、いい風呂だったな」








「はぁ、せっかく日々の疲れから解放されようと思ったのに」








「ありがとうな。ユウカ」










「急になんだよ」






いきなりのありがとうに顔をしかめる。






「うむ。お前の優しさをまじまじと感じ取れてしまってな。




お前はいい奴だ」








「はいはい。




そう思ってもらって、さんきゅーな」






ユウカはあやすようにエリィーの頭を優しくなでた






「よしお風呂も入ったしゲームでもするか」








「寝ろよ」






ゆっくりと体を休めていたエリィーの元気は尽きる事を知らなかった。










「電気消すぞ」








「いやだぁ!」








問答無用で部屋は真っ暗になった。










「ユウカのケチ」






ユウカは完全に熟睡していた。










翌朝
















「おはよう」








ユウカが目を覚ますと、エリィーはまだ寝ていた。










「こほっ、こほっん」






咳が聞こえてくる






ユウカは急いで寝ているエリィーの元へ駆け寄った。








エリィーはぐったりしていた。








「おい、エリィー!




大丈夫か」










「うぅぅ~、




ユウカか、すまない。




どうやら、また、体が言う事を聞かぬみたいだ」








「いう事をきかぬみたいって、お前、






ちょっと待ってろ」








険しい表情で駆けだすと、手に体温計を持って戻ってきた。








「ちょっと上げるぞ」








ユウカはエリィの額に体温計を当てた。








画面は真っ赤な色に光った。




これは、体温計が38度以上の熱を検知したときの色だ。






エリィーは40度の熱をだしていた。








「お前。




40度って、何やってんだ」








「分からん。何もやってはいないのだか。




ただ、寝て起きたらこうなっていた」






ユウカは昨日の事を思いだす。






「昨日はしゃぎ過ぎだ。




だからあれほど言ったんだ




40度は高熱過ぎるな」






ユウカは時計を見る。






時刻は朝の5時






「10時まで頑張れるか?」








はぁはぁと苦しそうな息がエリィーから漏れる。








「うむ。余裕だ。




私をだれだと思っておる」










「それだけ口が利けたら安心だ」








ユウカは内心焦っている。




40度の高熱等、すぐさま病院にいってみてもらいたい。






ただでさえ今、殺人ウイルスが蔓延していると言うのに、病院にも連れていけない為、何か一大事な事にならなければいいがと、焦りを募らせていた。






「何か冷たいモノでも飲むか?」








「いや、要らぬ。




すこし安静にしている。




すまないが体が動かすのがしんどいし、何も欲しくは無いのだ」






相変わらずはぁはぁと、吐息が上がる。






まるで今にも発火しそうなぐらい体が赤い。






ユウカは洗面器に氷水を入れてエリィーの額に冷たいタオルを置いた。






「どうだ、少しはましか?」






「う~ん。




わからない。ただ、体が燃えるようにあつい




布団をどけてくれないか」








ユウカはどうしていいのかわからなかった。






両親に電話する事も真っ先に考えた。




だが、電話することはできなかった。






両親は共働きだ。




朝の早い時間に、




もし俺の小さかった頃、40度の熱が出たら、どうする?などと、助言を得ようものなら、必ず家族は何かあったんだと飛んでくるだろう。






それに、7時を超えれば両親は仕事に就くため、電話もつながらない。




着信の履歴があれば真っ先に何かを感づかれる。






だから相談は難しかった。






もし、突然家に来られて、知らない小さな女の子が寝ていたら、ユウカはきっと犯罪者だ、と家族の信用を失う。




それよりも、そんな事でエリィーが警察や、他の機関に捕まる様な事だけはなんとしても避けたいと思った。




だからユウカは頼ることをあきらめた。






しかし、こうしていたって何もできない。






ただ、もどかしさと時間だけが過ぎ時刻は7時を回った。








ユウカは学校に電話をし、欠席の旨を伝えた。






これは、ユウカ達、今年の三年生である彼らにとってこの行為は、大学に進学できるかできないかと言う未来をかけるほどの事である。




だが、ユウカは迷うことなく、欠席することを伝えていた。










「エリィー。




俺、今日学校休んだから、なんかあったらすぐに呼べ。




あと、10時になったら出かけてくるから、ゆっくり休んでろよ」








エリィーはしんどそうに呼吸をするだけだった。






ユウカはそっと扉を閉めた。








テレビをつけると殺人ウイルスの被害の話しでいっぱいだ。




今日もまた感染者の数が表示される。




止まることを知らない数字。






エリィーがもし、このウイルスにかかっていたら。




テレビのせいかそんなことを考えてしまう。








自然発火。




ウイルスにかかったと思われる者は、全身が炎に包まれ燃え尽きると、ニュースでよくやっている。




その時の遺体は跡形もなく消え、骨すらも灰になってしまっている。




そこまでの熱ならば、相当に高い温度で燃えている事になる。






亡くなった人を埋葬する時は火葬をする。




摂氏800~1200度で焼かれて骨だけになる。




その火力だけでも相当に高温だ。




だが、骨すらも灰にしてしまう温度となるとそれ以上の発熱が発生していることになる。




しかし人体からそれほどまでに高温の熱を発する事は可能なのだろうか?








エリィーの温度が40度と言う高温だったので、ユウカは身体発火してしまう事を心配していた。






ニュースでもこのウイルスにかかると、発熱と平熱を繰り返す症状がみられる、と言っていた為、ユウカは、この殺人ウイルスを疑っていた。








丁度9時を超えた頃。




ユウカは、自分が濃厚接触者になっていたら大変だと思いながら、マスクをして家を出た。




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