第二章 第五話~巨大兵器達の攻撃~

 それは突然の出来事だった。

 僕らの足元の土が盛り上がり、先端の尖った何かが高速で回転しながら姿を現す。 


「や、やべぇっ! 鉄操っ! 上に回避しろっ!」


 音破の怒鳴り声が森に響き渡る。それと同時に音破は能力を発動し、高速移動。更にその速度を保ったまま、旋笑とウンロン君を抱きかかえその場を離脱する。


「っ!」


 僕も能力を発動し、上空へと浮かび上がる。

先程街を出る前に話し合ったのだが、これからは靴に鉄板を仕込み、少量の鉄球と金属製のナイフを持ち歩くことになった。

 いきなり襲われた時に対処できるためや、金属が全くない場所でも戦える為にと案が出たのでこういう装備になったのだ。

それにしても、僕は足に仕込んだ鉄板のおかげでその場から逃れることができたけど、もしも仕込んでなかったらと思うと……ゾッとする。


「あぶねぇ! なんだアレ!?」

「わからんっ! だがでかいぞっ!」


 高速で回るものは勢いを落とさずそのまま地中から姿を現し続ける。木々を薙ぎ倒しながら現れるソレはどんどんと天へと伸びていき、その姿を露わにする。


『オオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』


 地中から30メートル程出た頃、大きく光る丸いものがこちらを見つめ、耳をつんざき、体が振動する程の雄たけびにも似た、超巨大なパイプオルガンのような重低音が鳴り響く。


「あれは……顔!?」

「んなバカなっ! どんなサイズ……っ!? 離れろっ! まだ出てくるぞっ!」

「こんなモンおれの世界にもいないぞ」


 顔のようなモノが現れたのも束の間、数メートル離れたそれとは違う2か所の地面が盛り上がり始め、それぞれの場所から太い柱のような物体が5本ずつ現れた。かと思うと、すぐ地面に倒れこんで木々を薙ぎ倒す。


「今度は何!?」

「ありゃ……もしかして指か?」

「だとしたら胴体はもっと大きくて……もっと離れたほうがいいかっ!」

「賛成……!」


 音破の案で僕らはその場から離れる。その間にも正体不明のソレは地中から這い上がり続けた。


「おいおい……なんだありゃ……?」

「で、でけぇ!」

「きょ、巨人……!」


先程いた位置から数百m移動して振り返ってみると、そこには100mをゆうに超す黒い巨人のようなモノが立っていた。

 こうして遠くから全体像を見てみると、頭部は巨大な岩砕機のドリルの形状をしており、先程よりは遅いが今も回転して、付着した土をまき散らしている。目らしきものが確認できるが僕らとは違って1つしかなく、赤く光り輝きながらギョロギョロと左右に動かしてこちらを探しているように見える。

 胴体と足は普通なのだが、腕が異常に太くでかい。フォルムは流線形とは程遠く、所々四角くでこばった形をしている。あ、あれは一体……?


「頭がドリルの巨人……? そんな生き物がこの世界にいるの?」

「いやっ! 俺は初耳だぜっ! っていうか本当に生き物なのかっ!?」

「じゃあ……機械……?」

「んなまさかっ! こんな大きさの機械なんて見たことも聞いたこともないぜっ!」


 自分で言ったものの、音破の意見ももっともだ。元居た世界で一番近いものと言えば機動戦士……。だけど目の前のこれを見てしまうと、機動戦士の方が細く見える程体格がいい。

 なんにせよ、僕のいた世界では到底再現できないような超技術兵器だということ。こんなものを作れるのは……


「グラントライフか……!」


 恐らく……いや絶対に彼の発明したものに違いない! そんな風に驚愕していると、その巨大兵器の赤い目がぎょろりとこちらに向く。


『ソコカ……』


 その巨人が発する重低音により空気が振動し、音の壁なようなものに押され、たたらを踏んでしまう。

ゆっくりとこちらに体を向き直し、一歩ずつこちらに近づいてくる。

一歩、また一歩と歩みを進め、地面を踏みしめるたびに僕らの体は一瞬宙に浮き、再び四つん這いになってしまった。


『グラントライフ様ニ近ヅク奴ハ、俺ガ許サナイ』


 巨大兵器はまるで砲丸投げの選手の投擲のように体を大きく反らせた後、その巨大な拳を振りかぶり、勢いよく突き出して来た。遠目ではゆっくりに見えるが、実際にはかなりの速度で攻撃をしてきている……って悠長な事言ってる場合じゃない! あの拳の大きさは異常だ! そこら辺の民家がすっぽりと入るようなサイズだよ!?


「や、やばいんじゃない!?」

「んな事はわかってるっ! みんな伏せてろっ!」


 音破は力一杯四股を踏みながら腰を落とし、力を右拳に収縮させる。体は真っ赤に光を放ち、能力発動態勢が整う……が、その間にも巨大な拳はこちらに迫り、拳の影で僕らの周りが暗くなる。


「ぶ、ぶつかるぅ!」

「でぇええええい!」


 巨人の拳に潰される直前、音破が自らの拳を突き出し能力を発動。衝撃波を巨人の拳にぶつけた。

その衝撃によって音破の足元は陥没し、僕らの立っている地面が一瞬波打った。


「んぎぃいいいいいい!!」


 食いしばっている歯から血が溢れ、口元からぽたぽたと落ち始める。まさか、真正面からのぶつかり合いで音破が負ける!?


「こん……ちくしょうがぁああああああ!」


 音破は腰元に置いていた左拳を突き出して巨大な拳に激突させる。すぐさま引いた右拳を再び拳にぶつけ、また左手を突き出してと交互に拳を突き出し、連続で能力を発動させて巨大兵器の攻撃を跳ね返す。


『ヌ……! 中々ヤルナ!』


 その猛攻に関心の言葉を漏らす巨大兵器。一歩後ろに交代した後、手の平を開閉しながら動作確認している。 


「くっ! 強ぇっ!」

「大丈夫音破!?」

「ああっ! 何とかなっ! だが力負けしたのは初めての経験だぜっ!」


 音破は腰を後ろに反りながら答える。それにしてもここまでの発明力を有しているとは想像以上だ。正直天才発明家だなんて大それた呼び名だと思っていたが、これはその名

に恥じない腕を持っているな……!


「どうするの!?」

「どうするもこうするもやるっきゃないだろ」

「とりあえず機械なら金属物質だろっ!? 鉄操っ! やれっ!」

「やれったって、あんなでかいのは未だに操ったことないよ!?」


 僕の覚醒時は置いといて、平常時の限界は今のところ山賊と戦った時の自動車と呼ばれるモノで、重さは推定で2トンほど。目の前にあるソレは自動車の何百倍も重量があるように見える。


『ドレ……モウ一度ダ!』


 なんてことを考えているうちに、巨大兵器は再び拳を振りかぶって僕らに攻撃を仕掛けてきた!


「とにかくやれっ! 無理でも多少は動きが鈍って攻撃が弱まるはずだっ!」

「わ、わかったよ! やってみる!」

「………………!!」


 僕はあらん限りの力を込めて巨大兵器の動きを止める事を試みてみる。それに加えて旋笑がサポートに入ってくれたみたいで、体が発光し出した。巨大兵器の周りに巨大な竜巻が生み出し、竜巻により地中深くにまで根を下ろした木々も引き抜かれ、木を巻き込んだ竜巻となって襲いかかる。


『コンナモノ……痛クモ痒クモナイ。ン? 体ガ……?』

「んぎ! んぎぎぎぎぎぎぎ……!!」


 僕は呼吸も忘れて力み続け、巨大兵器の動きを止める。ヤバイ! 結構ギリギリだ! ちょっとでも気を抜くと動き出してしまいそうだ……! 


「ナイスだ鉄操っ! ぬどりゃあああああっ!!」


 僕が動きを止めている隙に音破が拳を巨大兵器に突き出し、大気にヒビが入った。

そして轟音と共に衝撃波が生み出され直撃した。

流石の巨体でも音破の衝撃波は効いたのか、体が後ろに仰け反る。


「ああああああああああああ!!」

『ヌオオオオオオオオ!!』


 僕はそこからさらに力を入れて、巨大兵器の体を思い切り後ろに引っ張る。そして遂に巨大兵器は転倒し、背中を地につけ大の字で天を仰ぐ。 


「くっ!」

「大丈夫か鉄操!?」

「う、うん! ちょっと立ち眩みしただけ……!」


 僕は疲労と眩暈から膝をついてしまう。無呼吸で力み続けていたから背中は吊りそうになるし、目の前は霞むし、疲労困憊だ。それに相手はただ転倒させただけで、正確には倒してはいない! きっとまたすぐに立ち上がって襲いかかってくるだろう。


『オノレ……』


 姿は木々が邪魔して確認できないが、その重い声と振動でなんとなく想像できる。もうすでに立ち上がろうとしているに違いない! 急がなければ! 僕は頭を振って眩暈を紛らわし、意識をはっきりさせながら立ち上がろうとするが、足に力が入らず、よろけてしまう。


「…………!!」

「あ、ありがとう旋笑……」


 すると旋笑が僕の肩に手を回して補助してくれる。その際に僕の右手が旋笑の胸に当たったのだが、柔らかい感触などは殆どなく、ほぼ真っ平らなボディラインをしていた。やっぱりAか……


「…………??」


 旋笑の握力がどんどん強くなっている!? まさか勘づかれた!? 相変わらず凄い勘だなぁ!!


「っ!! 起きるぞっ! さっさとずらかろうっ! ウンロンっ! 掴まれっ!」

「おう」

「鉄操はそのまま旋笑を頼むぜっ!」

「了解! 行くよ旋笑!」

「!!」


 僕は旋笑の膝裏に手を回してそのまま抱きかかえる。丁度肩に手も回っているし、お姫様抱っこがしやすい体勢だったからだ。そしてそのまま足の裏の鉄板を操り上昇して移動する。それを追うような形で音破も能力を発動してその場を離脱し始めた。


『ム……逃ゲル気カ! 逃ガサンゾ!』


 それと同時に巨大兵器も起き上がって僕らを追いかけてくるが、その巨体と重量からか大した速度が出ていない。おまけに……


「おお! 旋笑! すげぇ勢いの竜巻だな!」

「…………!」


 巨大兵器の2倍はあろうかという大きさの竜巻が数個発生しており、流石の巨大兵器も飛ばされまいと踏ん張っている。凄い大きさだ……あんなサイズは見たことがない。もしかして……


「あれって覚醒サイズの竜巻?」


 普段旋笑の生み出す竜巻のサイズは20m程だが目の前にある竜巻はその10倍はあるだろう。もはや竜巻というよりちょっとしたハリケーンだ。空には薄黒い雲も生まれているし、このままいったら雷だって来そうだ。


「旋笑? なんで覚醒状態みたいな能力を発動出来ているの?」

「!! ………………」

「芸笑の覚醒条件は心からの気持ちの高ぶりだろ? お姫様抱っこでそんなんになるとはな」

「!?」

「おいおいウンロンっ! そう言ってやるなよっ! 旋笑は乙女なんだからなっ!」

「………………!!!!」

「お、落ち着いて旋笑!」


 旋笑は僕の腕の中で暴れ出す。うぅ……あんまり暴れないでよ旋笑。暴れるもんだから太ももの感触が手の平に伝わってくるし、服の間から胸元が見えちゃってるし……。一応僕も男だから色々危ない……


『クソッ! 追イツカン!』


 そんな僕らの背後から巨人の恨めしい声が聞こえてくる。やはり体格と力にステータスを振り切っているのか、敏捷性はないようだ。それだったら姿が見えなくなるまで距離を引き離して、あの巨人の妥当策を作戦を――


『頼ンダゾ! ストライカー! アイアンレイン!』


 かなり距離が開いたところで巨人が天に向かって叫ぶ。ストライカー? アイアンレイン? なんのことだ?


「ん? なんだ?」

「太鼓の音か?」


 どこか遠くの方から太鼓をたたいたようなドンドンという音が鳴り響く。それも数回ではなく、ずっとなり続けているが……


「おいおいっ! なんだありゃっ!?」

「星? ……にしては明るいな」


 音破の言葉に一同が上空を見てみると、旋笑が発生させた竜巻により生じた薄暗い雲に何か光るものが浮いている。それも一つどころではない。ざっと見て30はあるかな? と言っている間にも更に増え続けている。


「お、おいっ! なんかあれでかくなってないかっ!?」


 注意深くその光り輝くものを見てみると、確かにみるみる大きくなっているのがわかる。いや! ちょっと待って!


「ち、ちがう! でかくなってるんじゃなくてこっちに飛んできてるんだ!」


 光り輝くものはこっちに近づいてきているんだ! だとしたらあの光が意味するのは……!


「よ、避けてみんな!」

「ぬおおお!?」


 僕と音破は急いで回避行動をとった。直後、僕らが今までいた場所に一寸の誤差もなく光り輝く物体が通過していく。一瞬だがその姿を確認できたが、あれは巨大な銃弾のような形状をしていたように見えた。そして……


「「「うわぁあああああああ!?」」」


 その物体が地面に直撃し、凄まじい轟音と爆風が発生した。木々は倒れ、地面はえぐれ、爆風の熱波が僕らのところにまで上がってきて、土の泥臭い匂いと、火薬の匂いが鼻に侵入し、熱波が肌を包み込む。


「こ、これは……! 街で来た攻撃だ……!」

「みてぇだなっ! 畜生っ! なんて破壊力だっ!」

 

 下に目をやると地面はクレーターのように所々陥没していた。その直径は20mは下らないか? それが見えているだけで20個はある。いや、実際には攻撃の上書を受けて消えてしまっただけでもっとあるだろう。


「それにしてもなんて火力だ……」


 並みの攻撃じゃない。単純に音破が数人いて、尚且つ同時に空から攻撃しているかのような爆発的な攻撃力がある。そしてこの攻撃は身に覚えがある。これは街で空から援護してきてくれた攻撃に酷似している。だとしたら……


「鉄操っ! まずいぞっ! 恐らく次が来るぞっ!」

「わ、わかってる!」


 どうやら音破も僕と同じことを思っているようで、街での出来事がそのまま起こるとしたら、この後は謎の攻撃が飛んでくる。あの時は先に地面が割れ、そのあとにブオオオっという謎の音が聴こえてきた。今思えば、音を置き去りにする程の速度を有する攻撃に違いない。何か策を講じなければ!


「ウンロン君!」

「あ?」


 いつも困ったときや窮地に追いやられた時はウンロン君が打破してくれている! きっとこの状況も何とかしてくれるはず!


「何とかならない!?」

「無理だ」

「おいっ!? 即答かよっ!?」

「なんで!? ぱぱーっと何とか!」

「おれが出来んのは暗殺と穴を塞ぐことだ。あの兵器と空爆に穴なんてあんのか?」

「………………」

「……なんだそのゴミを見る目は……?」


 旋笑の乾いた目を向けられたウンロン君はショボンと俯いてしまった。正直扱いが可哀そうだと思うけど、能力の関係でウンロン君は今現在戦力にはならないか……。ウンロン君は対人だと無類の強さを誇るけど、こういった弱点があったんだなぁ……。

 だとしたら僕と旋笑、音破で何とかしないといけないのだが……


「っ! 来るぞっ! 下の地面が盛り上がってきたっ! さっきのが追い付いて来たんだっ!」

「本当だ……! それに、また太鼓みたいな音が聴こえてきた……!」

「ん……なんか来るな。殺気を孕んだモンがこっちに攻撃してくる気配だ」


 だが考えている暇なんてものもなく無情にも次なる攻撃が始まる。どうする!? このままでは完全に死ぬ! 何か手を打たないと僕らの旅はここで終わってしまう!





「……………………え……どうして……?」





 僕らはアルダポース兄妹との約束を果たさないといけないし、真王を倒さないといけないし、両親の仇を取らないといけないし、グラントライフさんにも会わないといけないし、やることが沢山あるし、こんなところで死ぬわけにもいかないんだ。



 なのになんでこんな状況になってしまったんだ?


      なんでこっちの話を無視して攻撃してくるんだ?


           少し位考える時間をくれたっていいじゃないか?


                そうだよ。少し冷静に事を考えようじゃないか……



「来たぞっ! やべぇっ!」

「…………!!」

「ちっ! 流石にやべぇな!」


 いい加減にしてくれないかな? 

僕は今考え中なんだ。なのに何でその時間をくれない? 

ちょっとぐらい良いじゃないか。

なんだか無性にイライラしてムカついて来たぞ?


 そもそもこうなった原因はなんだ?


 グラントライフさんか? いや、違う。この騒動には直接は関係ない。

 問題は彼が作った兵器だ。それと一方的に話を切ったメイドらしき人だ。

 この2つの要因がこんな事を招いたんだ。


『死ネ!』

「「「うわぁああああああ!?」」」

 

 地中から先程の巨大兵器が飛び出し、僕らに攻撃を仕掛けてくる。更には上空からの攻撃も相まって僕らは絶体絶命だ。


 ウンロン君は目を閉じて最後の瞬間を悟り、


 音破は全身から汗を流しながら何か策は無いかと辺りを見渡し、


 旋笑は恐怖のあまり僕の襟元を握り、僕の胸元に顔を埋める。


 


 誰だ? 僕らの話しを聞かずに攻撃してきたのは?


      誰だ? 僕をこんなにもイライラさせているのは?


           誰だ? 僕の仲間に手を掛けようとしているのは?


                誰だ? 旋笑にこんな怖い思いをさせているのは?



            僕の頭の中で    何かが    キレる音がした    





                   「お前達が原因か…………」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る