あなたは誰?

あなたは誰?

外は猛吹雪。

俺たちは登山家。

険しい山を登るのが大好きだ。


よく趣味で仲間と山に登っている。

小人数だが、男の俺たちに、女の子が一人混ざっていた小人数のグループだ。


今日は特に予報では晴れると言っていたが、さすがは自然だけあって、この日は吹雪いた。



「おい、大丈夫か?」


「これはやばいな」



「とりあえず、避難小屋まで頑張れ」


「絶対、はぐれるなよ」

「はぁい。」


外は真っ白で体がかじかむ。


視界も何も、全く先が見えない。

霧の中にいる感覚だ。


行く道を外れれば死ぬ


「大丈夫か?」


「おう、ついて来ているから大丈夫だ」

「私も大丈夫」


「良かった。俺も大丈夫だ」


俺たちは声を頼りに逸れていないか確かめ合った。


登山をするなら必ず避難小屋の確認は必須だ。



やっとついた。


俺たちは、小さな小屋で、縮こまって温まった。


捲きに火をくべる。

火が体を温め、そして一部屋しかない暗い小屋を照らしてくれた。

小さいとはいっても、7~8畳ぐらいはあるだろうか。


俺たちはそこで楽しく語り合って夜を明かすことにした。

今が何時なのかは知らないが、とりあえず、吹雪が収まって外が晴れていたら朝だ。



「じゃあさ、怖い話でもするか」



メンバーの一人がお決まりのような事を言いだす。


「えぇ~、怖い、こんな日だし止めようよ」


そんな会話だったのに、怖い話は始まっていた。



俺たち登山を趣味でやっている奴らにも、色々と怪奇現象のうわさはある。

こんな暗い時間に山奥にいるんだ。そういった現象が起こったとしても、おかしくは無いと言えばそうとも思える。


なんせ避難小屋はその見た目最中、結構出そうな見た目だ。

まぁ、信じてなどはいないが、話が始まるとなぜか耳を立ててしまう。


この手の話しの不思議なところだ。

で、登山家たちの間では絶対に入ってはいけない小屋があるのだとか。

それは俺たちにも伝わるほど、有名なホラー話だ。




「でね、」



「もうー、止めてよ。そんなの知ってるよ。

有名でしょ。その話は」



「だよな。じゃあ、とっておきの奴。

最後に絶対ビビんなよ。

はなしてる俺も鳥肌立つやつだけど」



俺たちはその前置きに息を飲んで聞いた。


「ある登山家のグループがいたんだよ。

彼らは4人で山を登ったんだけど、それは下山した時のこと。

彼らの持ってきていたコンパスが壊れて、道に迷ってしまったらしいんだ。


それで、来た道を引き返すつもりで下って行ったんだけど、歩けど、歩けど、地上に着かず、日が落ちてきそうになった。

で、このままでは、体力も消耗するし、遭難しても大変だからと、どこかでキャンプをするつもりだったところに、小屋があったんだ。


それがあの有名な例の小屋。

畜蕪木ちくぶぎ小屋だ」



「でた。登山好きの間で有名な心霊話~」


「いや、これは別に怖がらせようとして掛けたわけじゃないぞ。

でもこの話がもとで、その小屋が登山家の間でも有名になったんだとか」


「へぇ~そうなんだ。

じゃあ原点なんだね」



「そうなるな」



「なんか俺たちの状況と似てるって言えば似てるな」



「ほんとだな」


「ちょっと、やめてよぉ!」


彼女の反応を楽しみながら、俺たちは会話を弾ませていた。



「で、丁度小屋も俺たちが今いるところと同じような感じで、7~8畳くらいの一室だった。


4人は上がって夜を明かそうとしたんだけど、山の夜は特に冷えたみたい。

あんまりにも冷えて寒いから、彼らは温まろうと、部屋の四隅に一人ずつ立って、体を動かして夜の寒さをしのごうとしたんだ。


その方法が、まず最初に、四隅の一人が右隣の角へ真直ぐ走って、角で立つ人の所まで行く。

そしたらその人にタッチして、次はタッチされた、その角の人が、また時計回りに次の四隅の角に立つ人の所まで走る。

後はこれの繰り返し。四隅の角に着いたら、立ってる人にタッチしてまた時計回りに、次の角に立ってる人の所までタッチされた人が行く。

これをずっと繰り返したんだって。


こうして、部屋の中をぐるぐるぐるぐる回って、夜が明けた彼らは、そのまま小屋を出て帰って行ったってお話」



「は?」


「で?」


 二人はオチが聞けず呆気に取られていた。


「えっ?


 何その反応?君ら怖くないの?」



「いや、今のの何が怖いんだよ」



「そうだよ~。ちゃんと帰って行ってるし。

 全然無事だったじゃん。

 何も起こってないし」


「お前そういう、怖い話しようとして、実は全然怖い話じゃないですって、笑い取ろうとするの止めろよな」


「本当に~。 雰囲気だだ潰れじゃん」


俺たち二人は笑った。


「はっ?

 何言ってんの?


 怖いじゃん」



「どこがだよ」


だけど語っていた彼一人だけは違った。


「じゃあ、実際やってみよう。そうすればわかる。

 お前ら、ほんとに知らないぞ」



まるで待ってました。と言わんばかりに。

俺たちは彼の誘導の元、一人ずつ四隅に立って同じように走ってみた。



まずは言い出した親友からスタートして、順番に時計周りに回る。

角に着いたら、待機していた人にタッチして待っていた人が次の角を目指す。


ただそれだけじゃん。

そして俺も順番道理、次の四隅の角を目指そうとしたけど、……

ここで終わった。



「あれ?いない」



「そう言いう事。気づいた?」



俺たちは鳥肌が立った。



回れるとおもっていたのに、回れないのだ。


だって誰も居ないから。


四隅に一人づつ立って、最初の一人が隣の角へ移動する。

移動した人が角に来たら次は自分が右隣りの角に移動する。


そうすると四番目に走る人は、一番最初にスタートした人の角を目指して走ることになるのだが、一番最初に動いた人は、2番目の角で待機している状態になる。だからスタート時点の角には誰もいないのだ。



つまり、これだと、4人目が走り出した時点で、最初の位置には人が立っていないので、タッチして送り出す人がおらず、終了してしまう。

ぐるぐると回していく事ができないのだ。




「そう。だから、おかしいんだよ。

 もし彼らが四人で四隅に立っていたのだとすると、朝までぐるぐる回り続ける事なんて出来ないんだよ。

 でも、彼らは朝までこれを続けられた。


 な。怖いだろ。

 つまり、彼らのほかに誰かがそこに居なければ不可能なんだよ。これ」



俺たちは体が固まった。

鳥肌モノではなかった。


  もし想像できないなら、紙に書いてみるか、

  人がいれば家でもやってみてほしい。

  ただ、やった後、ぐるぐる回れると思っていると、本当に鳥肌が立つ。




「つまり知らない誰かがいたん…」



「もう嫌ぁ!止めて!」



「おい、お前、さすがにもう止めろ。それ以上言うな。

それ冗談抜きでやばいって」



そいつは笑いながら、そうだろうと言ったが、本人もやっぱり怖かったみたいで、


「楽しい話しよっか」


と言ってきて、恋愛話や失敗談の話しに切り替わり、俺たちは夜を明かした。



外は快晴になっていて、そのまま無事俺たちは下山した。




とんだ、災難だったが、

風呂に入って、昨日の事を思い出しながらゆっくり漬かっていた。





―――――――――――――――…………、




ちょっとまて、おかしくないか?



違和感に気づいた。


俺は飛び上がって、俺たちが行っていた場所を調べた。

恐ろしい事だ。



そして学校に着くと俺は2人を集めた。



「なぁ、昨日俺たちヤバい事になってたんだけど、お前ら今まで何ともなかったか?」



「え?何急に、どうしたの~?」

「本当だよ。

なんだ? もしかして一昨日の俺の心霊話が怖すぎて、仕返しか」



「いや、違うよ。

本当にやばいって」



「何がヤバいの?」


「一昨日は本当に、俺たち3人だけだったよな?」


「いつもそうだろう。

他に誰がいるんだよ」


二人は可笑おかしな話を切り出され、不思議そうに首をひねっていた。



「俺たち怪談話して、四隅に立った時の事覚えてるか?」


「え? 

何、もしかして、あれってやったらヤバイやつだったの?」


「いや、違うよ。俺たち確かめる為に、四隅に確かに1人ずつ立ったよな」


「あ。そうだよ」


「で、ちゃんとみんな配置に着いたの確認して、走り出したよな?」


「あぁ、だから何?」


「俺たち3人しかいないはずなのに、どうして四隅に立てるんだ?」


彼らは黙った。


「俺らと一緒に回っていた奴は……誰なんだよ」



二人は目を見開いていた。





















































































































































































































後で調べて分かった事なのだが、俺たちが泊まった小屋の名は『畜蕪木小屋』だった。



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