四余り一のウェディング

七山

第1話 どうしてこうなった。

高校2年生になって俺は初めて隠れんぼをしている。いや、しているんじゃない。これはやらされているんだ…。



高校一年の春、訳あって俺はこの私立高校に入学することになった。

高校2年の春、親の海外転勤で仮宿に住むことになった…。訳アリの仮宿に。



桜が舞う高校二年の4月。誰もがウキウキになる時期と言ってもいいだろう。しかし今日の俺はそれ以上にウキウキ緊張状態なのだ。今日は入学式と始業式以外にもうひとつ俺には一大イベントが待っている。


そう、それは新しい家への入居日が今日なのだ!親父の海外転勤で親父は俺と二人で暮らしをしていたアパートの一室を売り、親父の後輩が管理しているという宿に先輩の頼みということで特別安く住まわせてもらう。親父は何かと顔が広いからこんな時に役立つんだよな。


その宿はなんと夜ご飯まで作ってもらえるという贅沢な宿らしい。俺は今日初めて行くが親父が言うには「落ち着く場所」らしい。親父が言うんだすごく豪華なところなんだろう。


俺は心を踊らせながら文化ホールの中に足を運ぶ。途中で先生達が立っていて新クラスの名簿を配布している。それを受け取り俺は自分の座席に座った。


座席の近くにはもうある程度人が集まっていて俺はそいつらと喋りながら始業式が始まるのをまった。それから始まっても変わらず喋り続けていた。


校長は長い話を淡々と話している。一体この話しを誰が聞いているのだろうか…。


長い長い校長の話を終えて始業式は終わった。


この日の授業は始業式だけで午前中に学校は終わる。俺は始業式が終わったと同時に帰る支度をして文化ホールを後にする予定だ。


「なんだ、もう帰んのか?」


「わりー、今日はちょいと用事あってな。早く帰らせてもらうわ」


そう言ってその場を離れた。


学校から原付で10分もかからんくらい。

ただし…もうガタがきた俺の原付はついこの間に潰れた。徒歩だと30分、少し遠いのがネックだが体力作りや思ってやるしかない……。


スマホでGoogleマップを開き目的地までの道のりをランニングで進む。俺の計算だと徒歩で30分と言うことは走れば15分に短縮できる。全力で走れば10分以内でつくかもしれない!


平坦の道だけではなくかなり急な坂もあったが何とか乗り切り俺は目的の家の前についた。そして目にしたものは想像を軽々超えるものだった。


「…ああ、すごく、確かに落ち着きはするが…」


そう、確かに落ち着く雰囲気もあって嫌いじゃない縁側もあるし家も広そうだ。だが…


「想像とはちげぇ…なぁ」


俺と親父は御袋が亡くなってから二人で暮らしてきた。お世辞にも裕福とは言えない厳しい生活を送ってきたのだ。というかオブラートに包まないのなら貧乏だ。


前住んでいたアパートはおんぼろの中のおんぼろ。


だからか俺は親父の言うことを鵜呑みにしていた。ちなみに俺の想像はでっかいマンションに住むと思ってた…。


「まあでも昔ながらの雰囲気があっていいかもな」


俺はそう思いながら足を運び玄関先のインターホンを鳴らした。


ピンポーン


「……」


「……」


ピンポーン


「……」


「……」


ピンポーン


「なああんた、うちになんかようかい」


「うわぁっ…!!!!」


声がしたのは玄関からではなく俺の後ろからだった。肩に手を置いて俺の目をじっと見つめてくる。アッシュグレーのショートカット、両耳にピアスをつけている。だぼだぼのパーカーにショーパンととても外に出る格好ではないが、思わず見とれてしまいそうになるほど綺麗な人だった。身長は170ちょいぐらいで…胸も中々だ。


正直に言うと…すごく絵になる。美人だ。


「おい、何ジロジロ見てんだ」


「…あ、すんません」


てか元々あんたが見てきたやんけ。


「んで、なんでここにいんだ?」


俺よりも身長が低いが威圧的な目で俺を睨んでくる。多分ここの管理人さんだとは思うけど若すぎんだろ。


「今日からここに住むんすけど」


「ん?え、ここに?あんたが?」


「はい、聞いてないっすか?」


「聞いてるのは千石凛せんごくりんって奴だけだな」


「……それ俺っすね」


「……」


「……」


え、なにこれ。なんでこんなに沈黙が続いてんの?なんか俺おかしいこと言ったか?いいや言ってない?え、言ってないよね??


管理人らしき女性は顎に手を当て、考える素振りを見せてからもう一度俺をじっと見始めた。そして何かわかったかのような顔をして俺の目をみた。


「確かに、士郎さんに似てるな。ん〜どうしたかなぁ…」


士郎さんとは俺の親父千石士郎の事だ。それはよく似てると言われ慣れてるからいいんだが、なぜそこまで悩むんだ。俺がここに住んじゃいけない理由があるのか?!管理人さん!


俺がそんな事を頭の中で言っている中、管理人さんは一人言をボソッとこぼす。


「名前だけじゃなくて性別も聞いとくんだったなぁ」


「…え?」


名前だけじゃなくて性別も?俺の名前は凛でよく女の子の名前と間違えられるんだ…ん?ちょっとまてよ。管理人さんがもし名前だけ聞いていたとして俺を女だと判断する。そして今俺が男ということで多分悩んでいる。嘘だろ…


「…まさかとは思うけどここは男子禁制?」


いやな冷や汗が額につく。管理人さんは悩んではいるものの表情には一切出さない。


「そのまさかだ。ここは男子禁制の宿舎だ」


思わず頭を抱えそうになる。


そして心の中で「親父イイイイイイイイイイィ!!!!!!!!!」


「名前だけ聞いたら女だと思ってな。他でもない士郎さんの頼みだったから性別とか聞かずに了承しちまった」


あまりの衝撃に俺は言葉がでなかった。衝撃もありしかもこれから俺はホームレス生活になるんじゃないかというかなり怖い思考が頭を何度も何度もよぎる。


これは…割とやばい。


これから俺はどうやって高校三年間生きてきゃいいんだ…。

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