第49話 文化祭の恋愛イベントは大抵盛り上がる

これだーー!!


 俺は、朝のホームルームで雄叫びを上げていた。






「最後の文化祭が一ヶ月後に差し迫っている。それに際してやりたいことがないかを募集してみる。何かないか?」




 禿げの担任がホームルームで、そんなことを口にしたのだ。


 進学校のくせに、三年生になっても文化祭をやるという本来ならば憎むべき愚行に俺は喜びを隠しきれず、ぐふふといった笑いを出していた。


 周りに人がいようが構うものか。これを笑わずして、どれを笑うというのか。


 どのくらい俺が笑っているかというと、隣のクラスメイトが、俺の笑みを見た後に、口に手を当てておえーっって声を出している。


 あれ?俺の笑みそんなに気持ち悪い?


 …だが、そんなことはどうでもいい。




 確かに文化祭などというものは軽蔑すべきものだ。


 特に、文化祭にかこつけて、女とデートする奴などは東京湾に投げ捨てられればいいと思う。


 文化祭というのはくだらない俗世の人間関係に魂を売った、下等生物のものだと思う。


 少なくとも、一年前ならFuc●!死●!リア充は一片残さず灰となれ!


 と家で一人で叫んでいた。




 しかし、今回に関してはナイス文化祭!と言いたい。


 俺にとっては数少ない、千里さんと会うための機会となる。


 うちの高校の文化祭は、チケットがないと入れない文化祭である。女子校でもないのに結構な制限である。最初は誰でも入れるものだったのだが、ここ最近になって、チケット制になってしまったのである。 チケット制になってしまった、理由は単純だ。文化祭の評判が良すぎて、生徒の家族ですら入れない人がでてしまったからである。




 実際、その人気を示すようにうちの文化祭の入場チケットはネットオークションにおいて高値で売れる。(といっても、六〇〇〇円ほどであるが)


 あまりにも生徒の中にチケットを売る人が多いものだから、学校側は生徒にチケットを発行する際に、チケットを誰に渡すのかの確認もするようになった。




 この人気には、もちろんのことだが理由がある。とにかく皆の出し物のクオリティーが高く、評判がいいのだ。




 例えば、去年だと、夜に三年生の総代がプロジェクションマッピングを使って、学校をお城風にして、当時の学校のマドンナに告白したなんていうイベントがあった。


 告白は、無事成功したらしい。(ボッチなので義務付けされた仕事が終わったら速攻で帰ったので凛からの伝聞情報)


 ちなみにだが、彼の受験は失敗したらしい。




(ふんっ。色恋沙汰なんかにかまけているから失敗するんだよ!ざまぁ)




 とか思ったいい思い出がある。




 重要なのは、俺らの高校の文化祭が人気であり入るのには生徒の紹介が必要というレアリティが高い状況であることだ。


 それに、千里さんは、うちの学校出身ではないから、噂だけ聞いていて、実際にきたことがない可能性も高い。




 餌でつる。


 最も忌み嫌う行為だけどもはや手段を選んでいられない。


 とりあえず、俺は、千里さんと話がしたいのだ。


 別に嫌われるなら、それでいい。


 …ホントは良くないけど納得はできる。


 自分が悪かったんだなって思える。


 でも今の状況はダメだ。


 何も話せていない。感謝はやっぱり、直接伝えたい。


 そのためにも、今年の文化祭当日は暇を取れるようにしなければならない。


 文化祭なんてどうでもいいものだと思っていたけれど、これを利用することを思いついたのだから仕方がない。




 文化祭当日に千里さんと話をするためにも、雑用を押し付けてくるような奴がいたら、闘わなければならない。いつもなら、クラスの意向に逆らうのも面倒なので、言われたことを従者のごとく丁寧にやるのだが、今回ばかりはNOと言わなければならない。




 絶対に敗けれらない闘いが今、始まるのである。




 …と思っていたら、


「ということで、五組の文化祭はロミジェリとする。ロミオ役は二村健太郎、ジュリエット役は三好凛、…ということだ。皆、受験勉強で忙しいと思うが頑張ってくれ。文化祭の最優秀クラスになると、先生は評価が少し上がる。ちゃんとやるんだぞ。俺のボーナスがかかっているんだからな」




 禿げの担任がいつも以上に語気を強めてクラスを引き締める。


 皆もその配役に納得しているような表情をしている。




 あれ?いつの間にか色々なことが決まっている?


 俺、主役?


 クラス全員で俺をいじめにきている?


 それに、何故か俺と凛をニヤニヤ見ているし…。




 ホームルームが終わった後、


 凛と仲いい女の子(中井さんだったかな?)が近づいてきて、


 「男が頑張って引っ張るんだよ!ファイト」


 って言ってきた。もしかして、凛の恋心クラスの皆にばれている説がない?




 そう思って凛の方を横目で見ると、凛は嬉しそうなニコニコした表情をしていた。


 やっぱり、俺と一緒に恋人役をできるからかな?


 その考えに思い至ると赤面してドキドキしてしまう。


 自分のことを好きな美少女のことを考えると、少しだけ優越感に浸ってしまう気持ちがある。こんなに可愛い女の子が自分のことを好きだって言ってくれたんだって思ってしまう。


 千里さんが好きなのにも関わらず、凄く嬉しくなってしまうんだ。





 恋心は難しい。


 いつだって恋は落ちるものなんだ。


 勝手に終わってはくれない。


 恋に落ちる、、、のは、簡単なのに、終わりは一筋も見えない。


 恋は一種の呪いだ。解呪できるのは、運命という名の神様だけ。


 俺は、千里さんに恋い焦がれる自分と凛をまた、重ねてみてしまっていた。




 凛の思いと俺の思いは別なものなんだからこれはよくないよなぁ。


 そう思いながら、受験も頑張らなければならないのに主役となってしまった文化祭のことからそっと目を逸らすのであった。


 そもそも、恋について語れるほど恋はしていないので自分でも名言っぽい戯言を言っていることは自覚していた。

俺は、恥ずかしさとやるせなさを取り払うように、やりかけだった千鶴さんがくれた問題集へと意識を集中させた。


 

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