天使の乱心篇
第45話 ラスボスと悪魔は身近なところにいる
千里さんからラインをもらった翌朝、俺は、気分が沈んでいた。
…凛に告白されて、調子にのっていたのかな?
俺、どんだけ嫌われているんだろう?だって、人を嫌ったこともないであろう千里さんにあんなに嫌われるって、人に嫌われるエキスパートかな?
はぁぁぁぁぁ。
そこまで考えて長いため息を吐く。
振られるところまでは想定していたけど、まさか、家庭教師をやめるほど嫌われるとは…。陰キャの告白がキモい?そうですか、そうですか。そうですよねぇ。
正直、学校とか行きたくない。家にこもって、ギャルゲーしたい。黒髪ロングの清楚系美少女を一日中、攻略していたい。
その行動がキモいって?
メンタルのHPも0なんで、そんなこと言わないで。マジで死んじゃうから。
「けんたろー、朝よー!今日から学校でしょ?起きなさい!」
母さんよ、残念だったな。俺は、30時間前からずっと、起きているぞ!
息子は好きな人に振られ、嫌われ、ショックで一晩中寝ていないからな。
「起きているよ!」
俺は不機嫌な声で母さんの呼びかけにこたえる。
「そう言えば、千里さん、家庭教師をやめるんだって!あんた、千里さんに何かしたの?」
母さんは、俺の不機嫌声もどこ吹く風で、息子にクリティカルヒットを与えてくる。
「し、してないよ!」
「もしかして、うっかりほれちゃって告白したとか?」
…なんで、息子のことを、母は知っているんでしょうか。ほっといてくれる優しさがほしい。
「まぁ、あんたにそんな勇気はないか。じゃあ、あんたのエロ本の趣味に引いちゃったのかねぇ。今時、分かりやすい巨乳好きだもんね。あんた」
うちの母さんは、息子を殺しにきているの?ラスボスなの!?
「うっせーな!そんなんじゃないって!」
「まぁ、怒鳴っちゃって。図星だったのかしら?あんたもかわいいとこ、あるわねぇ。安心しなさい。次に来てくれる家庭教師は、千里さんよりも美人らしいから、落ち込まなくても大丈夫よ。」
千鶴さんだろ?知っているよ。ただ、俺は千里さんが好きなんだ。
いくら、千鶴さんが綺麗でも、千里さんの代わりにはならない。
俺にとっては、どんな芸能人よりも千里さんの方が遥かに愛おしくて可愛い人なんだ!
…と言っても、振られた俺が言ったら、ただのストーカーだよなぁ。この気持ちに見切りをつけないとなぁ。
「分かっているよ」
気持ちを吐き出すように言って、ダイニングへと向かうのだった。
*
振られたのだから、諦めなければならないのは分かっていたけれど、千里さんのことを考えると胸が締め付けられるように苦しい。 未だに、千里さんの優しい笑顔を思い浮かべるだけで、胸がドキドキする。恥ずかしがる表情を思い浮かべると、抱きしめたくなる。我ながら気持ち悪いけど、それが事実だ。不埒な欲望と純粋な好意が洪水のように止めどなくあふれてくる。千里さんのことを考えるだけで全身がカーっと熱くなる。
どうやってきちんとした初恋を終わらせるか。俺は未だに初恋の終わり方、失恋の仕方が分からなかった。
恋を忘れられる日はくるのだろうか?
そう思えば思うほど、凛のことを心配している自分もいた。振る方と振られる方を、今まで恋もしたことがなかった俺が同時にすることになるとは。
そのおかげで凛の気持ちが痛いほどわかってしまう。
人間万事塞翁が馬、ってやつなのか。母さんの言葉が胸に響く。やはり、母は息子のことを何でも知っているのだった。
*
ピ~ンポーン
千里さんと凛に思いを馳せながら母さんが作ってくれた朝食を食べていると、いつも通りの間延びしたインターホンの音がする。
「はいは~い。」
母さんが玄関へと向かう。
「あら~。…」
何やら玄関で話し始める。
「けんたろー!来なさい」
何故か俺を母さんが呼んでくる。まさか、凛が迎えに来てくれたのかな?少しだけ緊張しながら、俺は、話し声のする玄関へ向かう。
「ご機嫌麗しゅうございます。健太郎さん。お久しぶりです。覚えていらっしゃいますか?合宿でお世話になった千鶴でございます。」
知らない人がいた。
いや、顔は見たことがあるんだ。綺麗な肌に、はっきりとした目鼻立ちにコバルトブルーの瞳。間違いなく千鶴さんだった。
でも、話し方が…
「どうしたんですか?いつもの千鶴さんじゃない…」
「あら、覚えてくださっていたのですね。お話があってきましたのよ。それでは、お母さま、健太郎君と話させてもらってもよろしいでしょうか?そちらでたーっぷりとお話しましょうね。」
その後、口パクで母さんに気づかれないように俺に話しかける。
『それ以上下手なことを言ったら、殺すよ、童貞君。』
あっ、この自分勝手な感じはどうやら、本物の千鶴さんだな。
「こちらこそ、愚息をよろしくお願いします。ほら、居間に案内しなさい、健太郎。」
「お母さま、よろしければ、健太郎君の勉強部屋で話させてください。彼の勉強環境も見てみたいですので。」
目元に笑みを蓄えながら千鶴さんが俺をにらむ。絶対、俺の部屋をいじってくるだろ。やだ、俺の部屋なんて案内したくない!
「ええ、大丈夫ですよ、ではお願いします。」
母さんが何でもないことのように許可を出す。
あの~、僕の部屋に案内するのに、僕に裁量権はないんでしょうか?
ラスボス×悪魔に俺は、絶望を感じるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます