第31話 柄にもないことをする人は…

 合宿三日目

「ところでさぁ、何で、童貞君は童貞君なの?」

 年上の女の子とちょっぴり仲良くなった翌日、会って早々その仲良くなったはずの女の子は、暴言を吐いてきた。

「何を言ってやがりますかねぇ。ビッチさんやい。」


 うん、人の性格ってそう簡単には変わらないよね。かのマザーテ〇サも言っていた。


『言葉に気をつけなさい、それはいつか性格になるから』って。

 千鶴さん、言葉からもビッチ臭がするもんね。

 やっぱり、偉人の言葉って真実なんだね。言葉遣い大事。


「いや、あんなに可愛い幼馴染と合宿に来るくらいに仲がいいのにどうしてかと思って。」


「・・・」


 千鶴さんは俺の心境を知ってかしらずか、幼馴染の話にうつる。

 あれから、凛とは話すことができていない。話をふったり、挨拶をしたら、応えてはくれるものの、事務的に手短に済まされてしまう。


「あ、さては凛ちゃんと喧嘩したままなんだな。少年よ。」


 俺が黙り込んだのを見て、ニヤニヤと気色の悪い笑みを浮かべる、意外にも察しのいい美人(自称)。


「ここに恋愛マスターがいますよ、少年。相談しなくていいんですか〜?」

 裏声で言ってくるウザい千鶴さん。


「自分で恋愛マスターとか言っちゃう、ただのビッチさんが何を言っているんですか?恋愛マスター(笑)」


「コブラツイスト」


 鼻で笑ったら、千鶴さんは某プロレス技を決めてきた。背中には、たわわな感触がする。が、そんなもん、楽しんでられない。息が出来ないまま、しばらくすると、霧に覆われた川と、美人さんたちが手招きしているのが見える。あっ、初恋の川崎先生もいる!


「って、ほんとに死ぬわ。」


「おお!いいツッコミだね。そのツッコミができればわしに教えられることはない。長い修行ご苦労じゃったぞ。」


「ツッコミ修行だったんかい!」


「そのツッコミは面白くないよ。出直しだね。」


「いやいや、ツッコミ修行とか、どうでもいいんですよ!」


「…本当に君はそう思うのかい。」

 低い声音と真剣な表情で、千鶴さんが問いかける。


 ゴクリ


 千鶴さんが発する、空気に気圧され唾を飲む。


「ツッコミに必要なものは、ボケの人に対する愛情と思いやり。君に足りていないものはそれじゃないのかい?」


「た、確かに。」

 思いやりがあれば凛を怒らすこともなかったかもしれない。ボケをしている人を傷つけないツッコミが、俺の目指す場所だったのだろうか?肯定ツッコミの松蔭○さんが目指すべき人か。


「よし、ということで修行を始めるぞ。まずは、”なんでやねん”千本ノック。色々な"なんでやねん"をするんじゃ!これにより、ツッコミの強弱を身につけるのじゃ。まずは、普通のツッコミ」

 師匠気取りで、千鶴さんの言葉遣いがいつの間にか変わる。


「なんでやねん!」


「人殺しから逃げている時の、なんでやねん」


「なんでやねん(ボソッ)」


「ちがーーーう!そこは、『人殺しから逃げている時にツッコミなんてせーへんわ!』、やろが!一本目からやり直しや!」


「いやいやいやいや、危うく騙されかけたけどやっぱり、おかしいでしょ。ってか、あんた、よくよく考えたら、初日含めて、コミュ障の俺より空気読めていないじゃないですか!」


 初日は、凛が怒る原因を作ったくせに、盛大に笑って、更に凛を怒らせた。

 そもそも、夏のことを話してしまったのは、元はといえば、この人が俺をハメてあの夏のことを言わせたせいだ。(もちろん、一番悪いのはそれに釣られて言ってしまった俺だけど)


「ふむ、師匠へそれだけ言う根性があれば大丈夫やな。」


 会話がかみ合わん。もういいや!

 このノリに合わせて、とっとと、会話を終わらせて一人で考えよう。


「師匠、ありがとうございました。もう教わることはないので、この辺で失礼します。」


「はあ?何を師匠とか言って、ふざけてんの?凛ちゃん本気で怒っているんでしょ?もっとまじめに仲直りの方法を考えなさい。」


 殴りたい女の子ベスト一は、千鶴さんで決まりやな。


「ビッチ(ボソッ)」


「なんか言った?」


「いいえ、なんでも。」

 鈍感系主人公め!(ブーメラン)


「まあ、恋愛マスターうんぬんはともかくとして、実際問題、女の子である私の方が、凛ちゃんの機嫌を取る方法がわかるんじゃない?」


「はぁ。確かにそうかもしれませんね。」

 俺は、ため息をつきながらも千鶴さんの言葉を肯定する。仲直りの仕方がわからないのは本当だ。"大切なもの"の見当は全くついていない。そのヒントが得られるかもしれない。


「でしょ?」


「だが、しかし!それはあんたが女の子だった場合だ。千鶴さんに女の子的な要素あります?」


「何を~?私は女の子の魅力がマックスだから、毎日のように告白されては振って告白されては振って、その辛い日々の中、ついには”百合の乙女”の称号までもらった凄い女の子なんだぞ。」


「内容が百合じゃなきゃな!単に告白断り過ぎて、ホモセクシャルと思われているだけじゃねーか!」


「で、まずは、ものでつろう。」


 千鶴さんは俺のツッコミを無視する。


「ものでつるなんてよくないですよ。」

 凛には誠実でいたい。


「ふんっ。これだから童貞はきれいごとだけ言う。そんなんだから、身体も綺麗なチェリーボーイのままなんだよ。」


「いいんですよ。ビッチよりは!」


「女なんて、金さえ積みゃー、結婚できるんだよ。ほら、お医者さんの息子とか社長の息子とかモテるっしょ?」


 俺の言葉を無視して微妙に否定しずらいことを言ってくる千鶴さん。


「ってことは、ビッチである千鶴さんもブランド物のバッグとかもらって付き合ったこととかあるんですか?」


「はあ?何言ってんの?!ブランド物でつるような男にろくな奴なんていねーから、そんな奴がいたら、『Fuc● 』って言って金●潰してやるわ。」


「じゃあ、この会話何だったんだよ⁉」


 ビッチすら釣れない方法とは?


「えっと、…童貞君を使った戯れ?」


 はあ、もういいや。人に頼ろうとしたのが間違いなんだ。一人で考えよう。


「ああ、噓、噓!ホントは誠意が大事だと思う。特に凛ちゃんと健太郎君の関係みたいにある程度信頼関係があるなら。」


 そう言って、千鶴さんはある方法を俺に託した。俺はそれがまともな方法だったのでそれを使うことにした。


 というか、もしかしてだが、本気の方法を言うのが気恥ずかしくて、迂遠な言い回しをしていただけ?


 もしそうだとしたら、可愛いというより、"お可愛いこと"って感じだぞ。俺よりも子どもっぽいじゃねーか。

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