第22話 M 

 放課後

 二人で帰宅中

「もう、ホント信じられない。何であんなにこっち見てくんの?バカじゃないの。」

 俺は幼馴染から怒られていた。さっきの甘い“ば~か”じゃない。

 早口の本気の“バカ”という言葉だ。怒ってくるのが伝わってくる。


 あれ?凛も眼が合うと顔を赤らめて結構いい感じな雰囲気だったじゃん。もしかして俺の気のせい?やばい。ハズイ奴じゃん。これだから陰キャは空気が読めなくて嫌になっちゃうわ。


 …これも黒歴史認定だ。最近、一日一黒歴史ってなっている。受験が終わる頃には黒歴史が三桁になっている気がする。


「いや、それはその…。そうだ!お前が俺との会話でテストの点を胡麻化していないかを確認するためにテスト用紙をチラ見していただけでだな。」

 何とか誤魔化そうとするも、

「その割にはテストじゃなくて私の顔を見つめていたじゃん。おかげで休み時間に滅茶苦茶からかわれたんだから。」


「う、すまん。」


 それを言われると弱い。俺とつるむことで悪口になるのが嫌だから一緒に登校するのをやめたのに。


 反省しないとな。このままじゃ、口だけの男とか言われちまいそう。ああいうのって浮気とかするような奴が言われているイメージなのになぁ。


「ま、別にいいけど。」


 俺の反省した顔を見たからか、満足そうな顔をして凛が前を向く。


「で、けんたろーはどこにするの?」

「おれは地元の医学科を目指そうと思う。」

「な~んだ。そっか。じゃあ、どっか行っちゃうわけじゃないんだね。」

「ああ。」


 ようやく、言っていなかったことを幼馴染に言えて胸のつっかえがとれた。幼馴染は全然驚かなかった。もしかしたら、察しのいい幼馴染にはばれていたのかもな。


 そのまま凛はその話題への興味をなくしたように上機嫌に先生の物まねをしたりして俺を笑わせてくれた。



 *


 七月の上旬。期末テストの順位もかえってきた。結局、俺は四〇位だった。


 ・・・


 凄いだろ?現役で東大京大に合わせて二〇~三〇人。医学科に一〇人くらい行く学校でこれだぞ。


 ・・・


 中途半端な順位だねとかいうんじゃない!泣いちゃうよ。

 凛にも言われたんだからな。


「なんか、医学科目指すのなんてやめろとも言えないし、かと言って実力テストならともかく定期テストで四〇位って今から頑張って国公立の医学科行けるのかと言われると微妙な順位だね。」


 本当に微妙な顔で凛には言われた。何だったら、“うわぁ~。“って言葉も漏れていた。


 千里さんからも、

「前の順位は一四〇とかだったよね。頑張ったね。ただ、もっと頑張らないとね。」


 って遠回しに自分の順位を否定された。遠回しに言われるのがボディーブローのように響く。

 いや、俺も凛の家庭教師役だし、千里さんの気持ちはわかる。

 家庭教師としては絶対受からせたいと思って厳しく言っちゃうんだよね。うん。分かっている。でもね。ご褒美が欲しい。


 可愛い年上お姉さんから

「頑張ったね、この調子で一緒にがんばろ。」


 なんて手を握りながら上目遣いで言ってくれた方が大変やる気になる。自分の可愛さを使った戦略をたててくれればWin-Winなのに。

 いや、だめか。あの人何故か自分のことそこまで可愛いって思っていないし。

 

 ただ、自分でも定期テストは二〇位以内が目標だと思っている。

 定期テストは、極論、教科書を全て覚えていけばある程度の点数が取れてしまう。範囲だって、実力テストだとか、模試ほど広くはない。


 だから、努力のできる女子の方が定期テストはいいのだ。逆に才能型の男子が高3になってからそういった女子に追いつくこともままある。

(俺が言ったんじゃないよ?尊敬する禿げた担任が言っていたんだからね?)


 そして、今までの勉強の積み重ねのためにすぐには結果が出にくい模試についても、学年順位において目標はある。


 全国共通テストの模試の方は三〇位以内。記述模試は六五位以内を狙っている。これは、共通テストの方は基本しかでなくて、記述模試の方はある程度の応用がいるから、この順位にした。

 まずは、基本。次に応用。これ大事。

 

 キスとかもいきなりディープとかしないだろ?ということで、まずは基本が大事なのだ。…まあ、彼女いない歴=年齢の俺にはキスのこととか、分からないんですけどね。浅いキスでいいからしてみたいよね。そこまで考えて千里さんの顔が目に浮かんだ。

 くっ。悪霊退散。邪念消滅。天使歓迎。


 いかん、天使を歓迎してしまっている。


 ごっほん。


 とにかく、そうすれば、千里さんが言うC判定も出せるはずだ。

 模試は八月だし頑張らないといけない。


 *

「それでは、凛ちゃんも連れて長野県に勉強合宿に行きます。」


 七月上旬。定期テストの順位も報告して千里さんに頑張るように言われた後、勉強合宿の提案をされた。


「えっと、いつですか?あと、今から予約だと安いコテージとかは満杯なんじゃ。」

「それは心配しないで大丈夫だよ。それに凛ちゃんと凛ちゃんの親とけんたろー君の親にはもう許可を取ったからあとは健太郎君次第なんだけど、どうかな?」


 上目遣いで心配そうに聞いてくる千里さんはズルかった。こんなのまともな男子は断ることができない。


「分かりました。楽しみにしていますね。」

「よかったぁ。」

 形のいい胸に手を当てながら千里さんは安心したようにつぶやく。


「あ、だけど勉強に集中するために行くんだからね。遊ばせたりしないよ。」

 その後慌てて俺を窘めにくる。

「千里さんと一緒なら勉強でも楽しみですよ。」


 最近、この年上の女の子をからかうことが楽しい。

 からかい口調で言うから千里さんは俺の言葉を冗談だと思っているけど、実は全部本音だ。それは千里さんには内緒だけど。


「もう、けんたろー君はまたそんなこと言って私をからかう。」

 こんなにからかってもまだ顔を赤らめる千里さんは可愛すぎる。


 その後は、恥ずかしさの分だけいつもより厳しいお勉強タイムだった。からかった分だけ厳しくなるのはいつものことだった。

 …分かっているのにからかってしまう俺は、一周回ってマゾ(M)かもしれない。


 

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