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 パキパキッ、バキッ......そんな音が、私が足を1歩、1歩と踏み出すのとほぼ同時に鳴って、しかも響いて......ほわんほわんとエコーがかかる音にちょっと不安になって辺りを見回してみれば、ボロボロの床に真っ暗な廊下の先。


 時折、遠くの方から、ガタンッ!!と音が鳴る度に、無意識的に私の体は飛び上がっちゃいます。......だって、怖いんだもん......!



「うぅ......他に人がいないのが、余計に怖い......ふえぇ......」



 滲む涙は、きっと私の視界を歪ませて見えなくさせてくれてるのね......なんて考え事をしているのは、余裕があるからではなく現実逃避したいからです。


 きれいさっぱり忘れちゃってる住所、家の外見、特徴......そして、優しい旦那の事。


 顔も、名前も電話番号も何もかも忘れちゃっているのは、何でなのだろう。そう、今になって怖さからか不安になってきます......



「うぅ......」



 そんな不安から、思わず立ちすくんで、



「......もうだめ、動けない......」



 その場にしゃがみこんでしまった私の足。......昔から、私はこういう怖い所に来たり、不安になったりしたらすぐにしゃがんで膝を抱えてうずくまってしまう癖があるのです。


 ピリリ、穴があったり板同士の間が空いてしまったりでぴゅうぴゅうと吹き込む真冬のすきま風が、私の足を掠めて痛めてゆきます。......痛い、ふえぇ......


 割れたガラスが床に落ちているのにも構わずに、私の足は無意識の内に隙間風の当たらない所に私を移動させてくれました。......多分、反射的にそうしてしまったのでしょうけど......



 ガタン!!



「わきゃっ!!」



 ドッ......そんな鈍い音と共に、私は思わず尻もちをついてしまいました。


 空いた両手を思い切り着いてしまって痛いけど、何とか無事でしたぁ......床にガラスや木材の破片が散らばっていたけれど、怪我しなかった......運が良かったのかなぁ......



 ゴトッ、バキャッ!!ピキピキ、ピキ......



「......なにぃ、誰かいるの......?ぇっ......」



 ......後ろ、すぐ後ろから人の気配がします......!しかもこっちに来てる......


 パキパキッ、バキッと、床のガラス片を歩き割りながらこちらに来る音が、まるでおぞましい野獣の唸り声のように私には聞こえます。うぅ、ふえぇ......



「ぅあ、か、隠れないとっ......!」



 その場で膝を抱えて泣きたくなる衝動と抜けそうになる腰に何とか耐えて、私は、



「っ!」



 すぐ近くにあった大きな箪笥たんすの中に飛び込んで隠れました......



 パキッ、ピキッ、ピキッ......



「......うへ、やっぱりここすげぇわ。さすが幽霊屋敷って感じ......!」


「それな!アイツの言う通りだぁ。中に入ってからなんっか寒ぃし、ゾクゾクするぜぇ......!」



 男の人、それも2人......?


 それを箪笥の中で感じ取った私は、自分の浅はかな考えに膝ではなく頭を抱えることになったのです......


 ......だって、ただでさえ廃屋に人が居るだけでも"幽霊"だとか何とか騒がれて人が集まってきそうなものなのに、ましてや"幽霊が出る"と元から噂の廃屋となれば......人が来ないわけもないし、もしかしたら口コミでもっと人が来るようになるかもしれない。


 しかも、貴重品とかならまだしも、懐中電灯すら持っていないような人が............あれ、私......懐中電灯、持って入ってきたよね......?



「............?............!?」



 そこまで考えて、私は極めて悪い意味ではっとしました。


 ......もしかして、懐中電灯落っことしてきちゃった......?


 そう、箪笥の中で絶望していた時、後から来た2人の男の人の会話が......うわんうわんと音が響く、声が非常に聞き取り辛いはずの廃屋の中で話す2人の会話が、私の耳にまるで後から綺麗に加工された音声のように、クリアに聞こえました。



「にしても、マジ運良かったわぁ」


「入口んとこにちっせぇけどLED懐中電灯が落ちてるなんてな!これで万が一ライトが壊れたりした時にも大丈夫だ!」


「え......?っ!!」



 入口の所に、小さいLED懐中電灯が落ちていた......?


 箪笥の中で固まる私は、思わず声を上げてしまっていました。けれども、男の人達には気づかれなかったみたいで、本当に、息が詰まるようでした......


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