Last Eden Waltz

判家悠久

Episode 1. storm

 この赤道直下。旧南極大陸にして現ハードサンライズに侵攻するに当り、俺達御影教会コミュニティに居住国アメリシア帝国から召集令状が舞い降りた。

 俺達の面子は、普段はロサンゼルスで特技を活かしての災害救助に向かうのだが、市民権を持ってるにしてもあからさまに軍役に付けなんてどうかしてる。もっとも召集令状に応じなければ、御影教会コミュニティが根こそぎ前線に追いやれるが、上妻湊司祭が悩み抜いて裁断だった。曰く必ず生きて帰って来なさい。分かってるてば、この与えられたギフトは敵とは言え必要以上に生命を奪いはしないさ。

 目敏くも黒田ファレル師団長と視線が合った。


「沖野ファビアーノ曹長、そんな仏頂面していたら、お前から死ぬぞ」


 黒田ファレルの普段から掴みのネタは俺から決まって始まる。何時もなら噛みついての丁々発止で場を和ませるが今日は違う。さっきのアメリシア帝国第8艦隊の司令全体会見で、俺達の仰々しくもロッサ・ブルータス騎士団と名付けられた第四世代揚陸艦指宿を最先頭にニューブエノスアイレス口のハードサンライズへと乗り込めの檄が飛んだからだ。意図は分かる、世界の覇権は旧南極大陸に未だ鎮座する筈の遺跡群妙訳名Last Eden Waltzたるハイパーデバイスの奪取の成否に掛かっている。

 死海文書全文が何処まで開示されているか分からないが、過去地球の大変動をコントロールして来たLast Eden Waltzは地球改造を成し得た遥か古の高度な文明の産物だ。これを掌中にすれば、ハードサンライズを実行支配しているロジアス連邦と白鯨封建共産国を出し抜き、21世紀に起こったポールシフト前の状態に戻せる。そんなロマネスクの一片なんて、今となっては人の往来も辿れず元の国家の名前さえ思い出せずいるのに、懐古主義者は倫理だけが先走っては本当有難迷惑だ。

 その21世紀のポールシフトは只管謎に包まれる。それは2054年6月21日の監察衛星の警告から周到準備されるも神託かの1ヶ月だった。この地球に中惑星通過と共に破片散乱し落下した呼称スカンジナビアの夜で世界はどうしても崩壊した。それはただのインパクトならず、その中惑星破片群の襲来で、地球はゆっくりなものの南極大陸が赤道に押し上げられポールシフトを遂げてしまった。その事実は空が燻るスカンジナビアの夜が明けた1ヶ月後に、漸く星座の座標確認から判明しては、人類のほぼを疲弊させては、滅亡間際の世界人口12億人で漸く止まった。上妻司祭曰く。ノアの箱舟のチケットが無くても信心さえあればこうも生き残れるのは御心です。そこで俺達は皆そろってクロスを握るのは哀悼と新たな希望を見つける為の手掛かりだった。

 それが2112年7月7日の今日の明らかな紛争の幕開けになるとは。御影教会コミュニティはこの瞬間も昼夜問わず祈りの向き合ってるだろが、21世紀迄の繁栄を強く語るUSAを総じたアメリシア帝国のベール向こうの頑なレコンキスタの前には、粛清されても尚の市民運動も何も通じはしない。


 黒田師団長の話は淡々と続く。事前のブリーフィングで切に聞いていたが無鉄砲過ぎる。勅命の下ったアメリシア帝国第8艦隊の旗艦複合空母2隻と無軌道潜水艦8隻と万能巡洋艦17隻による中遠距離射撃のバックアップはあるものの、第四世代揚陸艦7隻全艦をハードサンライズに乗り上げ後退り決して許さずなんて、今も常盤アリソン特任教授女史を憤慨させている。日本帝国軍でも忌避した事を、あいつノベルアーツ将軍はにで、結局指宿に乗り込んでそのまま随伴してしまった。

 そして、黒田師団長が一息おいて繰り出す。


「この22nd Century Reconquistaの成功の如何は、たった二人に掛かっている。だが、沖野ファビアーノ曹長、浪川ノエル軍曹、何があっても死ぬな。こんな無茶な作戦で俺はお前達を決して失いたくない。それは皆もそう思ってる。そうだろう、ギフトの発露を使いこなせず何度となく死の間際迄を救出してるんだ、俺達のお世話が水泡と帰すのは、御影教会コミュニティの存続に関わる由々しき問題だ」


 堪らず指宿大食堂で爆笑が相飛ぶ。ここは俺が先か。


「ノエルと一緒にしないで下さいよ。こいつ銀行強盗粗暴犯の銃弾数間違えて、あわや心臓撃ち抜かれてますよね」

「ファビアーノも、そこはアクシデントでしょう。あのビビリの巨漢が銃弾をきっちり頭の中でカウントしてないからであって、はあもう。それを言うならファビアーノもでしょう。遠足で行ったグランドキャニオンで鹿に追いかけられては、慌てて跳躍しては谷底に真っ逆さまでしょう。全く皆の念動防壁53枚無かったら、天国も門に辿り着けなかったところでしょう」

「まあお二人さん、今となって笑い話もそこ迄にしてくれ。最後に言っておくが、300尺を超えてのギフトは絶対禁忌だ。これを破ると誰かが死ぬ定めにある。紛争とは言えどうか守ってくれ」


 皆がクロスを握り祈りに祈っている。ただ俺は言えなかった。黒田師団長と俺とノエルの特別面談では、今日はノーリミットだ、どうあっても死ぬななんて。ただ隣のノエルの両目より涙が滴り落ちては俺の右袖を引く。ノエルは感応力のギフトの前に感受性が豊かだから、皆はそんな事をとっくに知ってるとのサインだ。俺達が生きる為にどうしても何れもの誰かが死ぬ。でもノエルがいればきっと上手く運ぶ筈だ。


(おお、それ思春期以来に聞いたかな)


 忽ち座が途方もない爆笑に包まれる。


「ちょっと待てノエル、俺だけじゃなく、全部アナウンスしてたのかよ、ふざけるなよ」

「勿論でしょう。何で死んだか分からないと、どの不摂生か見当も付かないでしょう」


 はなっから先が思いやられる。いやとうにもだったよ、ノエルはさ。

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