第24話 天女の沐浴

 しばらく泳いでいた彼女達だったが、川の水は冷たく、長時間浸かっていることは難しいようで、十五分ぐらいで河原に上がってきた。


 俺たちも同様に上がってくる……美瑠と真理姉さんはもう水着を見られることは平気みたいだが、美玖は若干恥ずかしそうに、美瑠の後に隠れている。

 それを察知したのか、美瑠が彼女をフォローする。


「えっと、さっきも言ったように美玖の水着姿、小説の挿絵の参考にするから、撮影して来ますね……ツッチー来てくれる?」


 美瑠のその言葉に、浜本先輩と河口が、キッと俺をにらむ。


「ちょっとちょっと、どうしてツッチーがミクちゃんの撮影に参加するんだ?」


 浜本先輩の口調には、非難が込められている。


「いや、俺も分かりませんけど……」


「それは、ツッチーがお金を払って美玖と契約してるからですよ」


 美瑠の不用意な一言に、男性社員二人は一瞬固まった後、目を見合わせて爆笑した。


「それって、『パパ活』じゃねーか!」


「おまわりさん、あいつです!」


 その言葉に、俺と美玖は固まり、真理姉さんも、なぜか美瑠まで笑っている。


「違いますって。さっき言ったじゃないですか、『小説のイラスト描いてもらっている』って!」


「それが、なんで水着姿撮影することになるんだ?」


「いや、それは俺も分からないですけど……」


 そこに、笑いすぎて目に涙をためた美瑠が説明に入る。


「ごめんなさい、私の言い方が悪かったです……単純に、ヒロインの『天女』が水浴びするシーンがあるから、美玖をヒロインに見立てて参考になる写真を撮ろうっていうだけです。で、実際に撮影するのは私で、ポーズとかを指示するのがツッチーです」


「そういうことか……いや、けどやっぱりヤバい気がするけどな……」


「そうそう、職権乱用だろう?」 


 二人のブーイングは止まらない。


「まあまあ、そんなに長い時間じゃないんでしょう? ここは私が居てあげるから」


「えっ……じゃあ、真理姉さんの水着姿、もっと撮影していい?」


「それはダメ……でも、後でみるると一緒に撮影だったらいいよ」


 真理姉さんがそう言うと、美瑠は慌てた。


「ええっ! 私ですか……まあ、いいですけど。その代わり、美玖の撮影の邪魔、しないでくださいね」


 美女二人の発言に、浜本先輩と河口は両手を挙げて喜んでいる……これは真理姉さんに感謝だな。あと、美瑠にも。


 浅瀬の方に目を向けると、さっきまではしゃいでいた子供達も、水の冷たさにあまり長くは居られなかったようで、誰もいなくなっていた。

 そこまで行って、美玖が膝まで水に浸かる。


 ……いや、イメージは腰まで浸かるだったんだ。ここでは浅すぎる。

 ……と思ったが、座り込んでもらうと、それっぽく見えるような気がしたのでそう指示する。


 座り方も、トンビ座りとか、横座りとか、体育座りとか。

 そのどれもが、超絶美少女である美玖の、ちょっと恥ずかしそうな表情、水に濡れた黒髪、そして細身の綺麗なスタイルも相まって、キラキラと輝いて見える。


 天女のイラストは、単純に、腰まで水に浸かった半裸の姿を後、または横から描いてもらうつもりだった。

 しかし、プロットでは


「天女が河原で、半裸で水浴びをしている。そして俺は、それを護衛している」


 という一行だけしかなかったので、座ってもらっている姿でも問題ないのだ……いや、こんないろいろなポーズが見られるとは、やっぱり実際に体験してみないとわからないものだな、と感じた。


「……ほら、美玖。表情硬いよ……小説のこのシーンでは、天女は、彼女を慕う人間の男性に守られているんだから……もっと安心した表情をしないと!」


 美瑠から無茶ぶりが飛ぶ。

 ちなみに、撮影している美瑠もビキニ姿のままだ。


 美瑠の指示に対し、美玖はチラリと俺の方を見ると、一瞬恥ずかしそうな表情を浮かべたが、すぐにリラックスしたように微笑みを浮かべ、そして川の水で体を清めるように洗い始めた。


 俺には、その幻想的な様子が、本物の天女が沐浴をしているように感じられて……思わず見とれ、ずっと視線を動かすことができなかった――。

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