第20話「アイルビーバック(レイル編)」

 辺境の町、グローリス。


 レイルの故郷から一番近い町で、彼が拠点として活動していた街だ。

 そして、女神を怒らせてしまい、その過程でスキル『一昨日に行く』を授かり、

 そのうえで、あのロード達と握手をした街でもある────。



 がやがやがや……。

 ざわざわざわ……。



「ちょっと離れてただけなのに、なんか懐かしく感じるな」


 人目を避けるために目深にローブをかぶったレイルは、ガラガラと安い車輪の音を響かせながら街を行く。

 開拓村に比べればここは大都会だ。


 幸いにも、街に変化はなかった。

 グリフォンが出たとはいえ、それは北部辺境の話であってこの街にまでは、まだ被害はなかったらしい。


「さて、まずは寝床かな」


 以前借りていた安宿は『放浪者』に加入したのを機に引き払っていた。


 安さだけが取り柄の狭い宿だ。

 せっかく臨時収入もあったし、グリフォンの素材もある。


 少しくらい贅沢をしても罰は当たらないだろう。


 なにより、

「こんな大荷物、目だってしょうがないしな」


 荷車に山と積まれたグリフォンの素材。

 一応布をかぶせているとはいえ、生モノもあったりで布に血がにじんでいる……。ちょっとグロイ。


 街の人の視線もジロジロと感じるし、今はさっさと宿に行くべきだろう。

 ここで目立ってしまえば、ロード達に一泡吹かせてやれない。


 ギルドに行くにしても、まずは準備をしないとな。


 このまま馬鹿正直にロード達を弾劾したとしても勝てるとは思えない。


 正規ルートで訴えても、聞き入れられるはずがないだろう。

 王家や、冒険者ギルドのすべてがロード達の味方とも思えないが、まずは敵を見極めないと足元をすくわれるのはレイルになる。


 所詮は、Dランクの鼻つまみ者冒険者と、

 華々しい実績をもつSランク冒険者パーティとでは、発言の重みが違うのだから仕方がない。


 たとえレイルが、「ロード達に囮にされた」と訴えたところでロード達に口裏を合わせて「雇ったDランクのシーフが逃亡し、悪評をばらまこうとしている」と言われてしまえばそれで終わりだ。

 ロード達にはそれを裏付けるだけの実績があり、レイルにはそれがない。



 ……悔しいけど、これが事実だ。



 世の中正しいことが必ずしもまかり通る・・・・・ようにはできてない。

 それをレイルは嫌というほど知っていた。


 だから、今さら世の中の正攻法になど頼らないし、頼れない。

 いずれは頼るとしても、それは今ではないし、準備不足──。


 「正しさ」とは、それを裏付ける力がなければ意味をなさないのだ。


 国の司法とて同じ。

 司法は、軍事と警察機構が機能しているから意味を成すのであって、軍事も警察も跳ね返せる力を持った個人や組織には効果がないのは自明の理だろう。


「────だけどな、ロード。俺だって黙って引き下がりはしないぞ……」


 何も知らない。

 何も関係ない。

 何も理解していない、お前に「疫病神」と蔑まれる筋合いはないッッ!!



「……借りは必ず返す──だから、待ってろよ」



 敵は強大。

 実力には歴然とした差がある。


 だが、忘れるな…………。


 レイルには特殊なスキルがある。



「ステータスオープン」


 

 ──ポォン♪



 ※ ※ ※

 

名 前:レイル・アドバンス

職 業:盗賊

スキル:七つ道具

    一昨日おとといに行く



 ※ ※ ※



「──見せてやるよ、ロード。万年Dランク……『盗賊シーフ』の戦い方ってやつをよ」


 いくつものプランを考えながらレイルは勝手知ったる街をゆく。

 その足は、迷うそぶりも見せずに町の奥へ奥へと向かって行った。



 ※ ※

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