第13話「そのスキルの名は──」

「くそ! なんて奴らだ……!」


 逃げ去るロード達。

 あとには怒り狂ったグリフォンが残された。


 そして、村は阿鼻叫喚の有様を呈していく!!


『グルアアァァアアアアアアアアアア!!』


「きゃあああああ!!」

「ひぃ!! グリフォンが下りてきたぁぁあ!」

「助けてくれぇぇええ!」

「あ、ぶシュッ!」


 ロード達の放ったスキルの余波と、拙い戦いのせいで大暴れしたグリフォンによって家屋を破壊された村人たちが逃げまどう。

 それを、グリフォンが散々に追い回し次々に口に放り込んでいく。


「「ぎゃぁあああああ!」」


 上空を航過する際に、上半身を食いちぎられたものもいたりで村中血だらけだ。


 片割れパートナーを殺され、魔法で挑発されたグリフォンは怒り狂っているらしい。

 普段なら、一人二人平らげれば満足して飛び去って行くらしいが、今日はそうはいかないようだ。


 餌としてよりも、敵として──。

 ただただ、殺す対象として村人を襲うグリフォン!


『キュルァァァアアアアアア!!』


 ブワサァッ……!


 そうして、ひとしきり逃げ惑う村人を平らげた後、グリフォンはゆっくりと広場に舞い降りる──。


「はは……見逃すわけないか──」


 ズズン……!


 片割れを殺されたグリフォンが、その下手人たる『放浪者』のメンバーを見逃すはずがない。

 もちろんレイルもその対象だ。


 その『放浪者』の主要メンバーはとっくに逃げ去ったというのに、グリフォンは怒りで気づいていないのだ……。


 そして、二匹目のグリフォンに、レイルが騙されただけと言っても通用するわけがなかった。



「お、オーケー。話をしようぜ……」



 ズン……。


 ズン……。



 ゆっくりとレイルに向かうグリフォン。

 嘴には鮮血が……。

 の前足には肉片が……。


 そして血の匂いと獣臭と、死の香りが鼻を衝く。



『キュルァァァァアアアアアアアアアアアアアアア!!』



「ひ、ひぃ……」

 ビリビリと空気が震える。

 あのグリフォンは、はっきりとレイルを敵として見ていた。


(こ、ここまでか……)


 レイルは死を覚悟する。


 ロード達に切られ、満身創痍。

 そして、目の前には絶対に勝てないグリフォン──……。


「はは。あの行商人からドラゴンキラーとやらを買っておけばよかったな……」


 もう今となってはあとの後の祭り。

 もっとも、怪しい毒薬が利くかどうかはまた別の問題……。



『クルルゥゥゥゥウウ!』



 恐ろしい形相でレイルを睨むグリフォン。

 口からあふれる呼気が湯気を吹いており、まるで怒気が可視化されたかのよう。


 ……その顔といえば、「テメェ! よくもやってくれたな」と言わんばかりだ。


 だけど、

「──俺がやったんじゃねぇよ……」


 片割れパートナーのグリフォンを仕留めたのはロード達。

 レイルは囮に使われただけだ。そう、死んでも・・・・誰も気にしない人間・・・・・・・・・として──。


「といっても、聞いちゃくれないよな……」

(くそ……悔しいなぁ……!)


 誰か……!

 誰か助けてくれ──!!



 母さん……!

 メリッサさん!!


 ミィナ────……!


 ミィナ……!


 ミィナ!!



 走馬灯のように少しでも優しかった人々の顔が浮かぶ。

 母親、ギルド受付嬢のメリッサさん。あとは故郷の村に人たちと、ミィナの両親……。そして、ミィナ。


(これが、俺の人生か──……)


 少ない。

 圧倒的に少ない。


「なんて少ないんだ……」


   ──やっかましい! 『疫病神』

   お前みたいな生きていても役に立たない厄災はよぉ、死んで当然なんだよ──



 ロードの言葉が脳裏によぎる。


(うるさい……!)



   ──俺たちの肥やしになることを誇りにして死ねよ。

   そして、安心しな……これで皆、心安らかに暮らせるってもんさ──



(うるさいッ!!)



 だけど、

「俺には誰もいない……!」


 ミィナのほかには誰も──。

 あとは、誰もいない……。


 レイルの人生において助けを求められる人はこれっぽっちしかいない──……。



 あぁ……。

「──なんて人生だ」


 神様……。


 神様────!!



『クルァァアアアアアアアアアアアア!!!』


(──神様ぁぁああああ!!)


 そして、グリフォンがレイルに食らいつかんとしてあぎとを開くッ!


 その瞬間、脳裏に浮かんだのは神への救い。

 神……。


 神────。


 神と言えば、頭に浮かんだのは怒り狂ったあの女神……。



  『一昨日おとといきやがれ────!!!』

   ビカ────!!



「ブフッ……!」


 目を光らせ、怒髪天をつくあの女神の怒りを思い出し、こんな時だというのに失笑したレイル。

(結局……)


「ぷはは……!」


 あの女神からはスキルを貰えなかったっけ──……。


(俺のスキル──)


 『七つ道具』


 そして、

 『手料理』だっけ?




 ……人には2つのスキルが与えられる。




 生まれたときと、

 成人したとき──。


 貴賤きせんの区別なく、すべての者に平等に──────。


 ハッ!

「嘘つくなよ、女神様よぉ──俺はスキル貰ってないぜ?」



 ほら、

 見てみろよ。



 ──ポォン♪ と脳裏にステータス画面を呼び出す。


 そこに浮かぶのは、

 子供のころから親しんだ「盗賊シーフ」御用達のスキル『七つ道具』と、


 そして、



 ※ ※ ※

 

名 前:レイル・アドバンス

職 業:盗賊

スキル:七つ道具シークレットLv3

    一昨日おとといに行く(NEW!)


● レイル・アドバンスの能力値



体 力: 235

筋 力: 199

防御力: 302

魔 力:  56

敏 捷: 921

抵抗力:  36


残ステータスポイント「+2」


スロット1:開錠Lv2

スロット2:気配探知Lv1

スロット3:トラップ設置Lv1

スロット4:投擲Lv1

スロット5:登攀Lv1

スロット6:な し

スロット7:な し


● 称号「なし」


 ※ ※ ※










「え────────……」







 な、

「なんだこれ……??」




   スキル『一昨日に行く』




※ ※



「お、『一昨日に行く』────?」


 思わずステータス画面を凝視するレイル。

 しかし、何度見直しても同じ。


 ステータス画面には、しっかりと──


 ポォン♪



 ※ ※ ※

 

名 前:レイル・アドバンス

職 業:盗賊

スキル:七つ道具

    一昨日おとといに行く(NEW!)


レイル・アドバンスの能力値


体 力: 235

筋 力: 199

防御力: 302

魔 力:  56

敏 捷: 921

抵抗力:  36


残ステータスポイント「+2」(UP!)


※ 称号「なし」


 ※ ※ ※



 …………な?!


「なんだこれ?」


 スキル…………『一昨日に行く』──?!


 こ、これは──?

「なんじゃこれ!!」


 なんじゃこれ……!


「何じゃこれぇぇぇえええええ?!」



 そう、確かにステータス画面には、

 スキル『一昨日に行く』が刻まれていた。



 つまり……………。



「俺の……二つ目の────スキル?」

 ──なのか???



 そこに、レイルの脳裏に蘇る女神の激怒の瞬間。




   『テメェにくれてやるスキルなんざねぇ、

    一昨日おととい来やがれッッ!!』



 ピシャーーーーーン!!



   『誰がやるかぁぁああ!

    一昨日おととい来いッッッ、つーーーのぉぉお!』





 カッ────────!





 そうして、レイルは教会を追い出されたはず。

 そう、『一昨日来やがれッ!』と────……。


 そう……。

 そうだ。


 …………………確かにスキルの女神は・・・・・・・そう言った・・・・・





 一昨日来い────と。





「ま、マジかよ……! だから、『一昨日に行く』だって?! じょ、冗談だろ?? な、なんだよ、このスキルぉ!!」


 そういえば、あの日以来、憔悴してステータスを見るどころではなかった。

 しかも、ロード達のパーティに加わってからは忙しく動き回っていたし、ロード達の目的がレイルのスキルではなかったため披露する機会もなかった。


 だけど────!!


 だけど──!!!


 だからって、

「──なんだよこれぇぇええ!」


『クルァァァアアアアアアアアアア!!』


 叫ぶレイルにグリフォンが興奮する!

 今すぐ食い殺してやると言わんばかりに!


 そして、

 半透明のステータス画面の向こうにグリフォンのあぎとががががががが!


「うぉぉおお?! もう、ど、どうにでもなれぇぇえ!」


 このままだと確実に死ぬ。

 慣れ親しんだ「七つ道具」に事態を打開する術はない────ならば!!







  スキル発動!!


  『一昨日に行く』!!







 カッ────────!!




「うッ……!?」


 その瞬間、レイルを含む世界が真っ白な光に包まれた。

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