第四章:殺人の意味(значення вбивства) 前半

 平山柚依の視界(точка зору Юзуя) 


 朝七時、スヴィトラナは私たちを連れて、車で覇遵会の基地に行った。門扉を管理する村民に「昨晩の魚が美味しくてもっと食べたいから、魚を捕りに行く。」と伝えた後、彼たちは何も聞かずに門扉を開けてくれた。タイヤ、ドラム缶、土嚢で作った外部防衛線を通った時、哨戒をやっている村民にも疑われなかった。これは私たちがもう村の英雄になったおかげだろう。

 私たちに敵意を持った絃美と呼ばれた女の子も、私たちに手を振って微笑んだ。

みんなは世界が滅ぶまであと一歩という時でも、お互いに親切に接すれば、至る所に蔓延する死亡に対しての恐れを超えられるかもしれない。

 でも、いつでも自身の利益のため、他人を傷つけて奴隷にするやつがいる。あいつらを懲らしめないとだめだ。警察と法律が無くなっても勝手に振る舞うのはいけないとあいつらに教えてあげる!


 長野の東部の市町は殆ど有名な観光地なので、人が少なくないはずだった。しかし、私たちは佐山市への途中、何体かのゾンビしか見なくて、怪しいほど静かだ。

 「この辺りの感染者はまさか覇遵会に片付けられたの?」

 「少し意外な~事故を避けるために、私はスピードを出せないまま、周囲に敵があるか詳しく確認した。でも、一時間が経った後、ゾンビの数は二桁にも至らなかった。」

 「それでもいい。僕たちの手間を省く。ヤクザたちと会う前に休みたいから。」

天笠くんはあくびをした。私は少し集中していて、彼の急な呼吸音が聞こえる。彼はきっと緊張している。

 覇遵会と仇があるのは私、天笠くんとスヴィトラナではない。彼たちをこの争いに巻き込めば、殺人の罪を負わせる可能性もある。私、最低な人間ではないか…でも、一人で何もできない。

 「柚依、もし怖がってるなら、後で偵察するだけでいい。銃を撃ったり、爆弾を使ったりすることは、私たちに任せてね。」

 あれ?私の顔にはっきり動揺の色が見える?なぜスヴィトラナは私の考えを見通した?

 「命を奪うのは簡単な仕事ではないので、人を殺すわけをよく考えないと。」

スヴィトラナがそう言ってくれたのは、私を落ち着かせる、或いは覚悟させるため?分からないけど、もう逃げられないのが分かった。友たちを守るために、やくざたちを倒さないといけない、命を捧げても!

 「高木先生は覇遵会の基地が佐山市の郊外の東にあると伝えてくれただけだ。詳しい位置は自力で探そう。」

 「でも、私たちが車で町に入れば、目を引くじゃない?佐山市の郊外は田圃ばかり、私たちを遮るところがない。」

 あの進化者の暴力団の中で、あるやつは私に負けない鋭い五感を持っている。私たちがあいつらを見つける前に、逆に襲われることもおかしくない。

 「そういうことも考えたから、先ず車を停めて、この辺りを眺められるところに行って偵察しよう。紀序くん、リュックサックから電子望遠鏡を。」

 「はい。」と天笠くんは深緑の望遠鏡を取り出し、ボタンを押して調整した。

 「急いで市中心に行かないで。地図によると、少し前には高校がある。学校の屋上から敵の姿を捜せるね。」

 「スヴィタ姉は学校の屋上に行けば、多分士気が二倍上がるだろう。一緒に屋上で昼ご飯を食べた日々が懐かしいな~」

 そして、紀序くんは小さい声で文句を添付した。「よくあれこれ命令されたけどな。」。

 スヴィトラナは停車して、私たちを率いて学校に入った。この学校にはどこにも血痕が残っているが、私がよく耳を澄ませた後、感染者がいないと判断した。

 「大丈夫、学校の中は安全だよ。」

 「先にこの学校に入り、『掃除』してくれた人がいるでしょか。紀序くん、安心してね。売店がもう何もないようだから、行かせないわ。」

 「そうか、一万円払えば、飲み物を買ってあげようと思ったけど…違うんだ!もっと気を付けてよ!もし学校には私たちと隠れん坊をやりたい教師と学生がいるかも!」

 ツッコミした後、天笠くんは望遠鏡で建物の窓から内部を見ている。

 「敵は…いません。」

 私たちは歩きながら見回した。ビルに入った後、学生机とイスと土嚢に阻まれた廊下は目に映った。しかも、こういう障害物が城壁のように三重もある。ここは多分誰かの「避難所」だろう。

 スヴィトラナは私と天笠くんを引っ張って、小さい声で話した。

 「ここには障害物があるから、生存者がいるはずだ。でも、私たちは先に声を出さないほうがいい。ここは覇遵会の基地の一つかも…他の生存者であっても、強盗みたいに通りかかった人を襲うかも。」

 天笠くんは頭を縦に振って、ベルトからリボルバーを取り出した。人間にとって、銃の威嚇力は争いが起きることを予防できる。相手が攻めて来なければ、私たちも人を傷つける必要がない。

 教室を通った時、学生机と床に散らばった教科書を見ると、悲しい気持ちが溢れてきた。学校生活はのんびりしていたわけではなかったが、少なくとも今のように懸命で生存のために戦う必要がなかった。

 「私は突然中国語の熟語を思い出した。『草木が全て敵兵に見える。』これは今の状況だね。」

 スヴィトラナは軍刀を体の前で構えて警戒しながら進んでいる。

 今の義務教育の元は、18世紀にプロイセンのフリードリヒ二世が作った政策だったと歴史の先生が言っていた。表面的な目的は人民の教育水準を高めることだが、実際は人民をに府の決定でそれぞれの職責を負わせることだ。つまり、人民を「教育」するというより、「訓練」すると言ったほうがいい。

 小学校から高校の教育までずっと私たちに集団生活をうまく送る方法を教えて、職責を果たせる社会人を「作る」。でも、今の政府には国民を団結する力がない。みんなは自力で生きて行くしかない。どうやってこの世界に適応すればいいか、訓練所はもう無くなった。

歩き続けて、私たちはもう三階に来た。スヴィトラナは私たちを止めた。

 「まず保健室に入ってみよう。何か役に立つ薬品があるかも。」

天笠くんはドアを開けた後、ピストルを構えて室内を見渡して、プロの警察かのようだ。

 「безпечния!」

天笠くんは私が分からない言葉を言った。

 「あの言葉はウクライナ語の「安全」って意味だ。部屋には敵がいないから。私は紀序くんと一緒の時、偶に簡単なウクライナ語を使うね。この子賢いから、たくさん言葉を覚えてるわ!」

 私たちは箪笥を開けて失望した。大部分の薬品と救急箱が取られていた。外傷用の薬||ポビドンヨード、エタノール、マキロンしかない。

 「何もないよりマシだ。衛生が悪い環境では軽い傷でも悪化するから。」

 スヴィトラナは外傷用の薬はゾンビと怪物の咬傷を治療できないが、一応取っておこうと思い、薬を集めてリュックサックに置いた。

 「勝手に他の人の物資を取るなんて、本当にいいのか?」

 ゾンビまみれの世界には物資が珍しいが、他人のものを取るなんて悪いと思う。

 「ここには他の生存者がいると確認できたけど、ちょっとおかしいね。」

 「紀序くんの言った通りだ。もしここにいるなら、薬を持って行く必要がないだろう?」

 「二つの可能性がある…一つ、ここに住んでる人は覇遵会のやつら、だから、彼たちが薬を売った。二つ、学生と教師が逃亡する時、薬も携えた。だから、他の生存者、つまり、僕たちが来る時、外傷用の薬しか残っていない。」

 「紀序くんの推測が合ってた可能性は高い。とにかく、屋上に行ってこの近くを観察してみよう。」


 高いビルが殆どない田舎で、五階の屋上に来ると、視野が広がる。私の高校は都市にあるので、私が憂鬱と感じて屋上に来た時、どこへ向いても一つ、一つの高いビルが刑務所の柵のように私の視野を阻んだ。

 憂鬱と感じた……?私、あの時に何か心配していたか…覚えていない…何か…頭が痛い。

 「みんな、車の音が聞こえるよ!」

 私は遠方を眺めながら、過去を追憶していたので、車の音にびっくりした。

 「気を付けて!覇遵会の人かも!」

 スヴィトラナはすぐにライフルのセーフティを外して、入り口を見つめている。車の音がだんだん近づいてくる。

 バンが学校に入り、入口の近くに停まった。四人が車から降りて来た。

 「早く身を屈めて!」

 スヴィトラナに注意されると、私たちはすぐ身を屈めて、目だけを壁の上から出した。

 「やっぱり覇遵会のやつらだ…」と天笠くんは望遠鏡で彼らを見続けながら、私に相手の様子を伝えた。

 「見たことのない二人の男がいる。背が高いのは村民を嘲笑したやつ。リーダーはあの水信の相棒である化粧が濃い姉御だ…スヴィタ姉、そういう距離でSKSライフルで全部殺せるの?」

 「いや、動かないほうがいい。先ずは彼らが何をするつもりか、確認するべきだ。」

 四人は私たちの車を見つめた。そして、歩き回ってあっちこっち何かを捜した後、話し合っているようだ。私の脈拍はどんどん速くなる。もし彼らが私たちに気付いたら戦わないと。

 四人はまた車に戻って、棍棒、太刀、ライフルを取り出した。しまった、あいつらはきっと学校に侵入者がいることに気付いたようだ。

 この時、私の仲間は躊躇わずに銃を撃った!棍棒が「ドーン」と床に落ちた。男の一人が頭から大量の血を流して倒れた。怖い、本当に怖い、なぜ人と殺し合わないとだめなのか?

 「侵入者がいる!隠れろ!」

 スヴィトラナが二発目を撃たないうちに、叫んだヤクザたちは素早く車の後へ逃げた。彼女は銃を収めた。

 先の銃声でもう私たちは位置がバレしてしまったかもしれない。スヴィトラナは合図で「屈めたまま頭を出さないで!」と示した。そして、彼女はゆっくり這って先と違う位置から敵を見ようとしている。でも、頭を上げてから三秒も経たない内に、銃声が「ドーン」と響いた。

 「よかった。弾が私ではなく壁に当たった。でも、私たちの位置はもうバレてしまったので、あいつらは必ずビルに駆け込んでくるだろう。」

 スヴィトラナはちっとも焦っていない様子だ。

 「ビルの中に戻らないと。後で私が発煙弾を使ったら、みんな私の指示を聞いて一気にドアに駆けて、了解?」

 「はい、分かった。」と私も天笠くんも頭を縦に振った。

 やっと昨日できた発煙弾の出番だ。スヴィトラナはコーラの缶にさとうや硝酸カリウムやチョークを入れて七彩の色が出る発煙弾を作った。彼女は風向きを少し測った後、天笠くんに発煙弾を渡した。

 「紀序くん、右のあそこで火をつけて。」

 彼女は一枚目の発煙弾に火をつけて、天笠くんにライターを投げた。二枚目のも燃え始まった後、緑と白い煙霧が混ざった。マスクをかけているのに、咳が止まらない…

 煙霧は間もなく屋上に溢れる。「今だ!早く走ろう!」と聞くと、私たちはできるかぎり早くビルの中に戻った。

 「スヴィトラナが作った発煙弾の効果が…こんなに強いとは思わなかった…」と私は咳をしながら話した。

 「私の父と祖父母は、ウクライナで多くのデモに参加したことがある。発煙弾を作るのは一応習うべき技でしょ。」

 不安な雰囲気が溢れている状況だが、私と天笠くんは我慢できずに笑い出した。

 「そして、僕たちはどこで防御すればいい?」

 天笠くんは話しながら、ピストルを出した。それを私に渡したいようだが、彼はマガジンをチェックしてまた銃をベルトに。

 「もし廊下の障害物の後に隠れたら、僕たちは火力で優位に立ちやすいだろう…けど、相手が何か特殊能力を持てれば…」

 「とにかく、三階に行こう。緩衝地帯が必要なんだから。柚依、敵がもうビルに入ったか耳を澄ませていてください!」

 スヴィトラナは話し終えると走り出した。私たちも素早く追った。

 「『廊下を走るな!』って規則に従わないのは、とても楽しいことだね!」

 天笠くんはたぶんスヴィトラナと長く付き合っているから、時々自分なりの寒い冗談を言い出した。

 スヴィトラナは四階の階段の隣の教室に入って、発煙弾を使い、窓を開けて煙霧を外へ。

 「これはフェイクだ。」とだけ言って彼女はまた走り続けていた。

 彼女は向こうの階段の隣の教室に行って、四つ目の発煙弾を使った。

 「柚依、敵の声を聞いた?」

 「まだビルに入ってないでしょ。」

 「Добра!三階へ行こう!柚依、もし敵の動きを察したら、ジェスチャーで伝えてね。敵は一階にいるなら一、二階なら二、いい?」

 「はい、任せて。」

私たちは三階に来て障害物の間に隠れた。スヴィトラナは指を唇に当てて、「静かに」と示した。

 私も微かな足音を聞いた…敵も私たちの銃を恐れているので、ペースは遅くなっただろう。足音から二人が来ていると判断できる。彼らは一階…二階…三階。

 スヴィトラナは私が三つの指を伸ばしたのを見た後、こっそりと頭を上げて、ライフルのトリガーを引いた。

 「パーン!」私は見なかったが、音だけで敵がヘッドショットされたのが分かった。

 「ばかやろう!俺の仲間を殺したのは女なのか!」

 仲間が殺されたのを見て、もう一人の進化者は階段から廊下への折れ曲がるところで止めて罵っている。

 天笠くんはクロスボウを構えて立って、撃とうとしたが、あのヤクザは瞬間に現れて、五丁のナイフを投げた!私は考えずに二人の袖を力強く引っ張った――ナイフが私たちの頭を掠めて飛んだ。正に「危機一髪」だった。もう少し遅れていれば…

 どん、どん、どん、どん、どん…振り返ると、五丁のナイフが廊下を飛んで壁に刺さっているのが目に入った。あいつが凄いな~投げる力だけではなく、一気に五丁のナイフも使える能力にも私は驚いた。

 「三人のガキがいるか、安心しろ、お兄ちゃんがちゃんと美少女を躾けてやろう!」

 あのヤクザの足音が…やっぱり、彼は私たちの火力を恐れている。ナイフを投げた後、すぐ壁の後ろに戻った。何とかして彼を引き出さないと。

 天笠くんは私の肩を叩いて、リボルバーを寄越した。みんなの不安定な呼吸の音を聞いている私には、みんなの命を賭けているプレッシャーが感じられる。戦っている双方の中で、一方しか生き残れない――あいつが動く音を聞くと、私はすぐ立って彼を撃った。

 いっぱいのパチンコ玉は私へ飛んできたから、急いで身を屈めた。今回はまた銃弾が敵に当たらなかった。遠くところに落ちったパチンコ玉が「カンカン」と響いた。敵は少なくとも二十個の玉を投げたようだ。どうやってできたのか?

 「本当に勇気があるね!覇遵会の人も攻めてくるのか!お兄ちゃんはゾンビを殺し飽きたので、お前らと遊んでやろう!でも、お前らを殺す前に、ちゃんと美少女を可愛がって、死ぬ前に逞しい男の味を堪能させてやるぜ!ハハハ!」

 あのヤクザは大声で下品な言葉を言った上に、気持ち悪い笑い声も出した。

 「お前が自分の逞しさを証明する前に、多分私の軍刀に八つ裂きにされるよ!」

 スヴィトラナも大声で言い返した。

 この時、私はあのヤクザがわざと大声で罵っているのには目的があることに気付いた。でも、スヴィトラナを止めなかった。

 「天笠くん…敵は大声で足音を隠しています。彼は今二階に向かっています。」

 天笠くんは頭を振って、向こうの階段に向かった。

 あのヤクザは私たちの大将と口喧嘩し続けている。彼はだんだん声を大きくして自分の行方を隠しながら、私たちを奇襲したいようだが、私には無用だ。

 「スヴィトラナ…」と私が彼女の側にしゃがんで、先の話をもう一回言った。

 彼女は私の言葉を聞いた後、期待を込めた笑顔を作った。そして、私たちを教室の中に連れて行った。

 一分ぐらい待った後、あのヤクザは三階に着いた。彼は障害物を越えたが、誰も見つけられなかった。そして、彼が教室を見に来る時、頭に矢と弾を当てられた。ヘルメットも彼の命を救えなかった。

 「こいつは私たちが一人の『レーダー』を持ってると思わなかったでしょ!可哀想なやつね。」

 私たちは死体に近づくと、彼の手に驚いた。

 「なるほど、彼は両手に七つの長い指があるので、ショットガンのように沢山のナイフと玉が投げられて、精度も高いのだ!僕たちは死ぬところだった。」

 天笠くんは深呼吸して、彼の頭から矢を抜き取った。

 「外にはお世話するべき女がいるから、位置を確認してくる。」とスヴィトラナは念を押そうと、窓に向かった。

 「あの女は車をビルの入口に移動させたから、みんな注意して!」

 この時、倒れたヤクザのベルトに付いているラジオから声が出た。

 「植田、宮脇、畜生らの姿を見つけたのかい?」

 スヴィトラナは死体に戻ってしゃがんで、ラジオに答える。

 「Вітаю!こんにちは!あなたの仲間はもう地獄に落ちたよ~いつ自分の首を捧げるつもり?」

 「もしもし、植田?もしもし、宮脇?どこにいるんだ!」

 「彼たちと連絡を取りたいなら、地獄へメッセージを送るほかにないわよ~」

 「…畜生!あたいはきっとあんたを捕まえて、手足を切ってゾンビのエサにしてやろう!」

 姉御は激怒して返信した。さすがスヴィトラナ…敵を挑発する余裕を持っている。

 「はい、待ってるわ。」とスヴィトラナはラジオを切った。

 「柚依、あの姉御の位置が見つかった?」

 「一階の入り口にいるようだ。」

 「先に攻めていけばいいと思う。」


 私たち三人は一列になって並んで、できるだけ足音を抑えたまま階段を下りた。三階……二階……二階と一階への折れ曲がったところで、スヴィトラナはまた合図で私たちを止めてしゃがませた。彼女は忍ように一階を見て、「オッケー」のサインを作った。

 姉貴は動きがなさそうだ。彼女は私たちを罠にはめたいのか?

 私たちは歩き続けた。自分の冷たい汗が首からこぼれたのを感じた。

 スヴィトラナは大股で歩いて、一階の廊下に着いた。あの姉御はすぐ攻撃してこない。凶悪な目つきで私たちをジロジロ見ている。スヴィトラナは軍刀で相手を指している。天笠くんは彼女の背後に立っている。

 矢が「ヒュル―」と敵に飛んでいく。なるほど、天笠くんはスヴィトラナの体で予備動作を遮って、敵を襲撃したんだ!

 しかし、敵はやはり進化者に違いない、簡単に攻撃を避けた。彼女は深く息を吸って、左手のライターをつけた…

 「しまった!みんな戻って!」と私は急いで二人を引っ張って階段に戻った。強い火の手が廊下を渡った。

 「彼女噴火できるのか?」と紀序くんはぞっとした様子だ。

 「彼女は酒を含んでいて、強い肺活量で酒を噴いて火をつけた!」と私はちょっと喘いだ。「前に彼女と戦ったことを思い出した!」

 「クソガキども、さっきまでは生意気だったじゃん!私の『竜の息』を拝見した後、見聞を広めたのかい?」

 「あいつと距離を保たないと。」

 スヴィトラナはピストルを出して、安全装置を外した。

 「紀序くん、柚依に装填してあげて。」

 天笠くんが装填完了のリボルバーを私に返す時、強い違和感を感じた。私たちは一体どんな世界にいるのか?少年と少女は銃を持っていて、他人を殺さなければ殺される。私、家へ帰りたい、両親と再会したい……

 待って、私の両親はもう死んでしまったでしょ…?でも、いつ死んだ?どこで死んだ?覚えていない…記憶の断片が走馬灯のように過ぎる……………

 「壁を遮蔽物として使い、敵が噴火したら戻ろう!柚依、彼女が近づくか注意してて!」

 スヴィトラナの声は私を現実に戻らせた。彼女と天笠くんはまた一階に向かった。でも、銃を撃つ前に、火に追い戻された。私たちは火傷していないが、熱い空気で炎の威力が感じられた。

 「あの姉御は銃かクロスボウに撃たれても必ず死ぬわけじゃない。でも、僕たちは炎にあたったら焼肉になっちゃうよ!」

 「私をもう一度試させてくれ。柚依、紀序くん、炎は何秒間燃えているか、数えてね。」

 私たちの大将の速さには感心せずにいられない。彼女は一瞬の反応時間だけでまた炎を避けた。あの姉貴の肺活量は本当に規格外だ。炎が廊下の半分を越えて、十秒燃え続けていた。

 「炎が十秒ぐらい続いていたが、敵が噴火した後、隠れるから、照準する時間が全然ない。」

 頭の中であの姉御と戦ったことを追憶している…そうだ!彼女の弱点は…

 「あの姉御は火の手を遠くまで伸ばしたかったら、矢のように酒を直線に遠く噴く必要があるんだ。私たちは身を低くして、彼女の懐に入るべきだ!」

 「じゃ、命を賭けよう。紀序くん、後で全力で向こうの出口まで駆けて、止まっちゃいけない。」

 「もし私が焼き肉になったらどうする?」

 「紀序くんの駿足を信じている。でも、万が一に備える…」

 スヴィトラナは予兆なく急に上着を脱いだ。

 「待って待って、どうして服を脱ぐ?」

 「頭巾として使わせるわ、他に使えるものないから。」

 スヴィトラナは今短い肌着だけ着ている。突き出した胸と締まった腰が見える。彼女のスタイルは雑誌のグラドルに勝るとも劣らない。

 天笠くんは恥ずかしすぎるせいか、スヴィトラナに服を頭巾のように捲り頭に被らされた時、ちっとも動かなかった。

 「なぜ恥ずかしがる?私の肌着姿を見るのは初めてじゃないのに。」

 「そんな誤解されやすい話をやめて…」

 服の上でもスヴィトラナの長くて深い胸の谷間が見える。東欧の血は本当に素晴らしい~羨ましい…

 「Добра!頑張って出口まで走って!」

 「一応言うけど…もし服が焼かれても怒らないで。」

 天笠くんは目を閉じて二回深呼吸した。そして、廊下に向かった――彼が駆け始めると同時に、赤い火の手が彼を追う。しまった!服が燃えてしまった!

 スヴィトラナは機会を狙い、伏せて転がってあの女ヤクザへ。「バーン、バーン」という銃声が響いた後、火が消えた。そして、女ヤクザが転んだ音を耳に入った。私は急いで階段から降りてみんなの様子を見に行く。

 姉後は太ももが撃たれた上に、スヴィトラナに回し蹴りを食らわされた。彼女はドンと壁に突き当たって、「痛いいいいいい!」と叫んだ。

 向こうの天笠くんは服の火を消している。多分大丈夫だ。

 「動かないほうがいい!刺し込むわよ!」

 姉貴は喉の前の鋭い軍刀を見ても、私たちに激しく暴言を吐いた。

 「ビッチ!畜生!あたいを殺せば、あたいの仲間はきっとあんたたちを切り裂くよ!」

 「覇遵会は無慈悲に人々を殺したのを知ってる。しかし、お前たちが振る舞える時間はもうお終い。」

 「覇遵会に勝てるのかい?ハハハ、ハハハ!」

 「やってみたらいいでしょ?私たちは長野の西南部から来たよ~いつでもお越しください。」

 「あ、そうか、思い出した!そこの小娘、僻地のくそ島村から来ただろう?前回、あんたたちを狩った時、全部殺せずあんただけ逃して残念だった。今では新しい援軍を見つけたようだ。偉い、偉い!」

 「他の人全部殺したの?」と私は声が震えたまま質問した。

 「あんた以外、長いポニーテールの小娘だけ逃げた。でも、彼女は焼かれたり切られたり、何日間か生き延びたら奇跡だ。ハハハ!」

 長いポニーテールの小娘…それ秋羽ではないか!

 「私の秋羽に…何をしたんだ!」

 私は拳を握って、女ヤクザの目の前に迫った。

 「あんたたちと同じことやったよ!戦乱の世では強い者が勝つのだ。あんたの友たちは覇遵会と戦う勇気があれば、殺される心の準備もあるはずだ!」

 スヴィトラナは彼女の腹を蹴った。

 「よく言ったわね。それなら、自分が壁の下に倒れる日もあると予想した?」

 「私たちは曇島村に隠れて、誰も傷つけなかったのに、あなたは全てを破壊した…」

 「甘すぎるじゃん?日本では大疫病が起きる前に貯めていた物資がすぐなくなるから、みんなは戦い合わないと生存できない!あんたの友達はだたの負け組ってだけだ!」

 なぜこいつは残虐に人を殺せる?なぜ躊躇ずにそんなひどい言葉を言える?こいつにとって命とは安いものなのか?

 いけない。私は繰り返す惨劇を止めなくてはいけない。

 私はリボルバーを女ヤクザのひたいを当てて、トリガーを引いた。そして、血が彼女のひたいからどくどくと流れるのを見た後、私は人を殺してしまったことを実感した……


 竹島スヴィトラナの視界(точка зору Світлани)


 前川村に戻った後、村民たちは英雄を迎えるように私たちに接してきた。 Чудово!(よかった!)私たちは充分な名声を得られるなら、村民たちを説得して一緒に覇遵会と戦える。

 でもね、他人を自分に従わせたければ、「道理で説得、利益で誘惑、刀剣で脅迫」という三つの方法がある。それは私の中国武術の師匠に教えてもらった中国語の諺だ。 現在、私たちはもう村民たちに利益を与えたから、次は説得と脅迫だ。この棋局はだんだん面白くなるわ~

 私の指導なしでも美味しく作った晩ご飯を堪能した後、「ちょっと散歩してくる」と紀序くんと柚依に伝えた。実は、私は高木先生と会いに行く。彼に渡していない薬品がまだあるから。

 「高木先生、こんばんは。ちょっと話し合いたいことがありますが、今よろしいでしょうか?」

私は診療室のドアを叩いた後で入った。高木先生は本を読んでいるところだった。

 「こんばんは。竹島さん、どうぞ座ってください。何を話したいですか?」と高木先生は本を閉じた。

 「渡していない薬品があるんですが、ちょっと見てください。」

 私はポケットから注射器を取り出した。これはもう液体が入っている。

 「でもね、ちょっと質問したいです。これペントバルビタールですよね?なぜ強力な麻酔薬がほしいですか?患者さんに手術を行うために?」

 「それは万が一に備える薬品なんだ。私は外科医じゃありませんが、救急室で三年間働いていたので、簡単な手術ならできます。」

 「でも、ペントバルビタールは効果も強すぎるし、副作用も多いので、もう麻酔薬として使っていないと記憶しています。」

 私は高木先生の目を見つめて、笑顔で彼を制圧している。

 「この薬品のもう一つ用途を知っています――安楽死。あとね、藤山病院は日本政府に安楽死を行うことを許されたレアな機構です。私は病院で患者さんの資料も見ました。先生は私たちにペントバルビタールを取りに行かせたのは、多分特別なわけがあるのでしょう。」

 「私の何を非難したいですか?村民たちを毒殺するという罪?」

 「いえ、先生は治癒する希望のない年老いた方を安楽死させたいのだと思います。」

 「何を言っているか全然分かりません。ペントバルビタールの用途は沢山あり、睡眠薬として使われたこともあります。あなたプロじゃないので、もちろん薬物について分かりません。」

 「そうね。先生はリストに書いてある鎮静薬と麻酔薬はまだ二種類あります。しかし、私が分からないのは、なぜそんなに危ない薬がほしいのか、ということです。わざわざ私たちを安楽死を行う病院へ取りに行かせるなんて…他の代替薬を見つけられないのですか?」

 高木先生は目を逸らした。ただ十八才の少女に薬剤学が分かるなんて、彼はきっと思っていなかったはずだ。これは両親が薬品実験をしたおかげだ。あの時、彼たちは重病で癒せない患者をペントバルビタールで安楽死させたこともある。

 「よく知っていますね。それなら、なぜ薬品を私に渡したいんですか?」と高木先生は深く嘆いた。

 「苦しくて病気に勝てない患者を解脱させるのは倫理違反だとは思わない。しかも、私たちがいる環境は、まるで医者も薬も乏しい戦場のようだから、命を救うかあきらめさせるか、ちゃんと選択しないといけない。」

 「竹島さん、本当にそう思いますか?若者らしくない言葉を言ったのは、多くの人が死ぬところを見てもう感覚が麻痺したせいですか?」

 高木先生は頭を横に揺らして、悲しそうな顔で私に聞いた。

 もし幼い頃から長く入院している上に、世話してくれた母親が過労で病気になり、死ぬ間際に遺伝病のある自分に「すみません、健康の体を与えなかった」と呟いた言葉を聞いた経験があれば、命に対しての考えは冷酷になって当たり前だ――が、私は先生にそう答えなかった。私の病気に苛まれた幼い頃は、短い言葉で説明できるものではない。

 なぜお母様はすまないと思ったか?それはチェルノブイリ事故に遭って、遺伝子が変異したお父様のせいのはずだ…

 「先生、人を救いたいなら、やり方は沢山あります。安楽死の薬品でも役に立てると思います。これを渡して秘密を守ってあげてもいいですが、条件があります。」

 「言ってください。」

 「先ず、この村の人たちは覇遵会と戦うことが可能なのか、特に関村長と泉さんの考えを知りたいです。」

 「個人的な推測、推測だけを言いますね。関村長は覇遵会と裏取引がありますが。泉さんと彼の仲間は明らかに覇遵会が嫌いです。他の多くの村民は…ヤクザたちと衝突したくないはずです。」

 「なるほど、じゃ、村民たちは覇遵会の成員たちがどこに住んでいるか、知っていますか?」

 「関村長以外、みんな知らないはずだ。」

 高木先生はメガネを押し上げて、私に問い返した。

 「そういうことを聞くのは、覇遵会の物資を奪いたいからですか?」

 彼はわざと話す速さを落として厳粛な態度を示した。

 「神出鬼没のヤクザたちは奪った物資をどこに置いたか、勢力圏がどこまでか知りたいです。でも、恐らくあいつらのものを強奪できませんよ。」

 「それとも、あいつらの仲間に入りたいですか?」

 「先ず、私はヤクザたちの仲間なんかになる気はありません。あと、私は進化者じゃないので、あいつらに受け入れられるわけがないでしょ?」

 「本当に進化者じゃないんですか?」と高木先生は私におかしい質問をした。

 「竹島さんの脈拍も体温も血圧も普通の人より低いので、平山さんに似ています。貴女も抜群の運動能力を持っています。もうウイルスに感染したのでしょう?」

 「見た通り、私はゾンビと怪物に咬まれた傷がありません。進化ウイルスは空気で伝染できません。そして、私は発熱、吐血、頭の混乱など症状もありません。」

 「進化ウイルスは変異しやすい…血液検査がなければ、貴女たちが感染者ではないと断言できません。」

 「それについて、逃亡した時、もう政府の医療人員に検査されて問題はなかったです。」

 私が話した八割は事実だが、言ってすぐに、先生にとって疑わしい部分があると気付いた。

 「それなら、竹島さんは一度自衛隊に保護されたが、離散してしまいましたか?」

 「はい、私たちは怪物に襲撃されたので、難民団が分かれてしまいました。」

 先生はちょっと質問を止めた。私たちはあるわけで自衛隊を離れた。或いは安全ゾーンから抜け出した――「それは進化者だから」と先生が疑ってもおかしいくない。

 「私は幼少時体が弱かったですから、思春期に入っても後遺症があります。でも、きっとウイルスには感染していません。」

 「そうですか?体に気をつけて、他の疾病にかからないように。今では風邪も致死率が高いです。」

 大疫病が爆発した後、自分は普通の人間ではないと分かった。例え訓練された軍人と警察でも、剣で感染者と戦うのは難しい。しかし、私はすぐ感染者たちの習性を理解できる。今、レアな怪物や非常に強壮な怪物以外、私を傷つけられるやつは少ない。

 これは父と中国の師匠が私に武術を教えてくれたおかげだけではなく、両親が作ってくれた薬物も役に立った――私の壊れた細胞を直して遺伝病を治癒した。今、私の力も速度も秀でていて、トップの運動選手と比べても負けないほどだ。でも、血圧と体温が低い症状はずっとそのまま。

 「じゃ、もしもっと覇遵会の事を知りたいなら、関村長に聞いたほうがいいでしょう?」

 私は話を本題に戻した。

 「聞くのは問題ありませんが、関村長に特に何か教えてもらうのは難しい。」

 「先生、大まかにあいつらがどこにいるのか?村長に聞いてもよろしいでしょうか?私たちは長野の西南で生き残っている柚依の親類を頼りにしにいきたいですが、途中で覇遵会に遭い、携えた物資を奪われることをとても心配しています。」

 「そうなんですか、じゃ、聞いておきますね。いつ出発しますか?」

 「ありがとうございます。また三、四日間泊まった後、出発する予定です。」

 私の話は真実と虚偽が混ぜて、先生を騙すことに成功した。そして、私たちはゆっくり休んで、もっと詳しい情報を待てばいい。

「デリケートな質問があれば、公共空間で聞かないほうがいい。」

診察室を出ると、あの憎たらしい短髪の女の子は嫌らしいことを言った。

「私を盗み聴きしたの?盗み聴きしたのに気兼ねなく言うなんて、教養がないんじゃない?」

 「金髪女、あたしと喧嘩する前に、あたしの情報を聞いてみる?」

 「情報を売ってるのか?」

 「この情報は貴女にとって価値があるかも。」

 彼女は顔を私に近づけて、小さい声で話し始めた。

 「覇遵会の基地はどこか、あたし知ってるよ~地図も持ってる。」

 私は彼女と目を合わせて、嘘かどうか確認しようとした。

 「話し合いたいなら、場所を変えようね?」と彼女は動じずに私に伝えた。


 私たちは病院を離れて、誰もいない家に入り、リビングルームで話し合い始めた。

 「高木先生が推測した通り、関村長は覇遵会と裏引取がある――彼は薬品を取るために、ヤクザたちと繋がってから、こっそり協定した。」

 「そう聞いたの?」

 「偶然に盗み聴いたこと、しかも、村長の家で他のものも見つかった。」

 絃美は携帯のアルバムを開いて、何枚かの写真を見せた。

 「これ、長野県の地図だ。赤いマルがある部分は覇遵会の基地なんだ。」

 絃美はこんなに詳しい資料を持っているので、逆に怪しい。彼女は私の目的を推測して、私を覇遵会と戦わせたいのか?私に覇遵会から逃げさせたいのか?

 「ヤクザたちと喧嘩したことがある?」と私はストレートに聞いた。

 「あるスーパーで食べ物を奪い合った時、あいつらはあたしの父を殺した。絶対にあいつらや彼たちと協力する関村長を許せない…」

 絃美はまたもう一つ写真を見せた。「見て、私は村長の家で、同じ物資リストを二枚発見した。彼はバックアップをしただけじゃなく、一枚は覇遵会に渡すつもりのリストだ。あたしたちにどのぐらいのみかじめ料を取ればいいか知らせるため。」

 「あなたにその地図を見せるのは、ヤクザたちから逃げる方法を教えるだけじゃなく…機会があれば、あいつらの物資を奪ってもいいよ~」

 絃美の話が本当だったら、復讐したいのは当然だ。しかし、復讐ということを知り合ったばかりの人に頼むことは信じられない。この子は私に敵意を持っていたのに。いいか、彼女は成り行き任せで私に強敵と戦闘させたいようだが、確かに試してみないのは惜しい。

 「金髪女、感染者で満ちた病院から薬品を取ることができるなら、きっと覇遵会を懲らしめられる。貴女と高木先生と話したことなら、私には薬剤学が分からない。以上だ。」

 「ブルートゥースで私の携帯に写真を送ってくれる?」

 携帯の通信技術はだんだん進化した後、ブルートゥースが使われた頻度も少なくなっていく。

でも、日本のネットにアクセスしにくくなって以来、この技術はいいものだと認識した。

 「いいよ。金髪女。あたしも基地の位置を説明してあげる…信じてね。あたしは長野県民だ。」

 思ってもみなかった助けを得た。元々の計画は、村にはあの暴力団の正体が分かる人がいるか、調査した後離れる予定だった。

 私たちは曇島村に行く前に、覇遵会にサプライズを贈られるようだ。

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