第一章‧要塞の中に(В Твердині) 前半



 天笠紀序の視界(точка зору Норіцуня)


 「僕はまた同じ夢を見たか……あの日の記憶は、変わらずはっきりしている。」

陽射しが窓から差し込んでいる。今はもう朝八時、しかし、僕は毎日起きたくない。起きてこの世界に直面したくない。

 僕は再び目を閉じると、誰かが僕を呼んだ。

 「紀序くん、起きる時間だ。今日は哨戒任務があるわ!」

 僕はため息をついた。前、学校にいた時は、勉強しなくても、宿題をやらなくても、成績が悪くなるだけで、生きられないことはなかった。しかし、今の仕事は違う。

 僕はリビングに来た。あの警察を斬首した少女は朝ご飯を食べながら、ノートを見る。僕にとって、時の狭間は既に模糊しているから、僕たちが怖い目に遭ったことを回想したら、現在の平和は幻のようだと感じる。

 「スヴィタ姉、Доброго ранку(ウクライナ語のおはよう)、今日の朝ご飯は前と同じ、トーストしかないの?」

 「Доброго ранку,仕方ないわ。物資が乏しくて、今は一週間に二回くらいしか卵を食べれない、他の肉があるわけないね。」

 僕は一口にトーストを食べた。少し硬い、たぶん冷蔵庫に置いた時間が長すぎた。

成長期の青少年はこの環境に足りる栄養をとるのは難しい。しかし、スヴィタ姉は金髪の色艶がちっとも褪せていない上に、グラマーなスタイルもよく保っている。

 「どうした?何を言いたい?」

 「あ、今日はどこに哨戒に行くつもり?」

 僕はさっさと質問して、スヴィタ姉に自分が彼女を観察しているのを気付かれることを避けた。前は何回も叱られた。

 「外への連絡道路に行くわ。何日か前、民兵隊はあそこでゾンビを倒した。」スヴィタ姉はちょっとお茶を飲んで、「ゾンビたちが揃う前に、殺してやるべきだ。怪物だけは長距離から人跡を探して追ってくると思う。他のゾンビはちょっと知力を残すだけで、よくうろついたほうが活人を見つけやすいと単純に思っている。」

 「僕たちが半年以上逃亡した経験によって、ゾンビは獲物を見つけた仲間の後に付いていくとはいえ、自主に仲間を呼ばないとしってる。」

 「仲間を呼び出すのは怪物がやったこと。しかし、あるゾンビ群体の個体連結は私たちが考えるよりつよそうだ。」

 「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」という諺の通り、スヴィター姉にとって、ゾンビと怪物の行為を観察して、記録した後で分析するのは興味深いことだ。時折、彼女の表情は映画に出てくる狂気の科学者の如き。

 スヴィタ姉はこの世界に適応できるように頑張って居ると思うが、何か変、何か怖いと感じてしまった。彼女と付き合ってからはもう二年ぐらい、呼び捨てて呼び合うこともできるけど、彼女の本性は知りづらい。

 僕はなんとなく急須の蓋を開けた。こんな茶葉で淹れたお茶なんて、本当に贅沢だな。

 「スヴィタ姉、これらの茶葉は…」

 「あら、それは物資ハンターから買ったもの。静岡県の茶葉がおいしいから、その急須とお茶碗にふさわしい。」

 机にある陶磁茶器は、「水上の蓮」をトピックにして造られて、細工の彫刻で金漆をかけたもの。1セットの価格は五万円もする。スヴィタ姉はある陶磁の博物館でこの茶器セットを見た時、彼女の目がキラキラして、「こんなに高雅なものは博物館に置いていても見学者が来ない。」と言った後、職員室へガラス窓の鍵を探しに行って、そして、茶器を自分のものにした。

 スヴィタ姉が美人だけど、時々、我がまま過ぎると思っている。

 「巡邏が終わった後、もっとものを買いに行くわ。」

 「物資ハンターは、僕たちにサプライスをもたらすけど、しょっちゅうゾンビらのところに駆け込むのは狂ってるね。」

 「この世界には、いつでも冒険心を持つ人が必要だ。」スヴィタ姉は僕に皿を渡して、「皿を洗った後、クロスボウを持ってきて、もうすぐ巡邏の時間だ。」

 「大疫病」が発生した後、もう一年三ヶ月が経った。全日本は未だに混乱中、政府が建設した安全ゾーンは前の市町村の五分の一の範囲だけだ。全日本は六割以上の人口がウイルスに感染して、活人は途方もなく減っていた。僕たちのような生存者は、金網柵、煉瓦壁、バリケードなど防御施設の後に隠れていて、他のことができない。

 政府は安全ゾーンを繋いで、みんなの物資が交換できることに努めているとはいえ、安全ゾーン以外に住んでいる生存者は、孤島で生活するみたいに援助がもらえない。

 みんなを驚かせたことは、ウイルスに感染した人数の増加に従って、感染者がゾンビと怪物になるだけではなく、第三種の姿も現れてきたことだ。

 それは「異能者」という。「進化者」とも呼ばれる。

 進化者の体はウイルスに慣れているようだ。彼たちは理性を保って、しかし、常人を超えるいろんな能力、たとえば、強化した五感、速度、力、スタミナ、回復力、知力などを持っている。重要なのは、彼たちの体が高効率にエネルギーを利用できるので、少量の食物と水を摂るだけで生きられることだ。

 というわけで、世界に恐慌を招くこのウイルスは、「進化ウイルス」と命名されて、「Evo-Virus」という略称もある。感染者たちは、「悪性感染者」であるゾンビと怪物;「良性感染者」である進化者に分類された。

 僕はよくあれらの進化者の事跡を聞いた。ある話は大げさで、まるで源義経と弁慶が生き返っても進化者に瞬時に打ち倒されたようだ。

 「あれらの話を本気にしないで」とスヴィタ姉が言った。「この秩序が失った社会にいる人々は、救世主が来ることを望んでるゆえに、どんな強者の話もみんなに流伝した後は、もとより十倍大きくなるの。」

 一部の進化者たちは、政府が管理できない区域で協力して自分の秩序を作っていた。安全ゾーンの進化者は、政府の特殊作戦群に編成されて、人民の生存のために、様々な任務を行う。

 ある角度から見れば、進化ウイルスは人類に対して酷い厄災を招いたとはいえ、人類の心に異様な希望を引き出した。


 僕はスヴィタ姉と街を歩いて、涼しい風が顔に当たる。都市に住んでいて、教科書に没頭していた時、僕はいつも田舎、或いは観光地域に移住して進学のプレシャーから逃げたかった。

 今、僕の願望が実現した。しかし、遊ぶ気持ちの欠片もない。

 僕はスヴィタ姉と千辛万苦を重ね、やっと山梨県の河霜湖安全ゾーンにたどり着いた。この安全ゾーンは観光名所だったから、大疫病が発生する前、いつでも世界各地から来た観光客が見えていた。ここのメリットは山と水に囲まれて、魚類を入手できる三つの湖があることだ。人口密集の都市から遠いけど、観光名所として大量の物資を貯めていた売店がある。更に、安全ゾーンには水力発電所にたくさんの先進的なソーラーパネルを加えたら、他のところから電力を輸送しなくてもかまわない。

 河霜湖町の人口は二万五千人だけだったが、あちらこちらの難民が殺到した後、目下四万人ぐらいが住んでいる。アパートも温泉旅館もホテルも難民の収容所になって、政府も多くのテントとトタン屋根の家を造った。

 「仕事が終わったら、今晩温泉に行くよ。」

 「Добра、今月の温泉券はまだ使っていないよね。」

 スヴィタ姉の話によると、彼女は幼少時代から両親に温泉へ連れて行かれていた。彼女が泊まった温泉旅館の数は、最少でも五十軒だった。彼女は特に温泉が好きだ。

 「あれらの旅館は本当に思いやりがあるね。みなさんに温泉券を配布して、一ヶ月は八回温泉に入れる。」

 「難民たちに楽しみをあげないと、みんながどんどん発狂することになる。」とスヴィタ姉が現実的なことを言った。「でも、もし三年後、或いは五年後、みんなきっといつか我慢できなくなる。」

 「何を我慢できないの?」

 「真相、みんなは真相がほしくて、進化ウイルスの起源、あと流行の原因を知りたい。」

 「そうだね。今まで少なくとも十種類のウイルス起源の噂を聞いた。」と僕が指で一つ一つ数えて、「アメリカの生物兵器、製薬会社の実験、遺伝子組み換えの動植物、秘密宗教の陰謀、神様からの天罰…進化ウイルスは異星人がもたらすものとまで言ってた人もいるし。」

 「噂に真相が紛れ込んだかも。でも、ウイルスはアメリカの生物兵器であると言ってた人が、あそこで花木を切り整えるおじさんじゃないと誰も断言できないわね。」


 「これは貴方たちの武器、レミントン猟銃と十発の銃弾がある。」武器管理者に務めている加藤一尉は、僕たちに銃器を与える時、再び説明するのを忘れない。「防衛の準則を覚えておけ、もし五体以上のゾンビに遭ったら、射撃せずに安全ゾーンに撤退し;もし怪物が出たら、奴を一撃で斃す自信がない限り、戦うな!」

 「 一尉、私たちはもう防衛の準則を暗記できます。」スヴィタ姉は「またね」という表情をして、「この半年間、みんなで共闘して、もうたくさん怪物とゾンビを殺しました。一尉は私の能力がわかるでしょう。」

 「もし巡邏に行くのが君たちじゃなかったら、私はもっとがみがみ言っているよ!少年と少女たちに作戦を実行させるなんて!人員不足だとしても上官たちは同意するわけにはいかん!」

 加藤一尉は顔をしかめた。

 「一尉、政府はこのような環境で民兵隊を編成して、みんなに作戦スキルを強制的に習得させるって正しいことと考えています。ゾンビが来襲する時、僕は叫んで山に隠れたくないですから。」

 「天笠君、貴方は子供なのに、そんなに大人っぽい言葉を使うなんて。ハァ、私もお父さんだから、貴方たちを危険に晒したくないんだ。」

 「とにかく、政府から給料をもらえる。私にとって、耕作と魚釣りのほうはつまらないかもね。」とスヴィタ姉が言った後、僕と一尉は笑った。


 巡邏に行く途中、ある売り声が僕たちを引き付けた。「こんにちは、みなさん。今日、物資ハンターである私たちはもう一度多くの雑貨を持ってきた。これらは東京の郊外で見つけたカップラーメン、お菓子、缶詰食品、調味料だ。もし娯楽用品がほしいなら、私たちも音楽と映画DVDとゲームを売るよ!」

 「橋本兄貴は本当に商売上手だね。いつもゾンビがうようよするところでどんなものを手に入れればいいかわかる。」

 「彼はもうみんなから少なくないお金と食券を稼いだだろう。」と僕はスヴィタ姉に聞く。

 「正直に言えば、彼の商品はお手頃価格とも言える。レアな物の値段をつり上げたこともあるけど。」

 橋本兄貴は「鷹の目の橋本」とも呼ばれる。そういうあだ名を持っている原因は、彼がウイルスに感染した後、5.0の視力を持ったことによるのだ。しかも、彼は夜でも微かな光があれば目標が見える。橋本兄貴は特殊作戦群で優秀な実績を積んだので、政府は彼に銃器を与えて、暇な時志願者たちを連れて物資を集めることを許した。

 「こんにちは、竹島お嬢さんと天笠くん、今日は何か買わない?見て、ここはイタリアから輸入した貽貝缶、北海道のホタテ缶……」

 「いいえ、すみません、私たちは巡邏に行くところ。後で買うわ。」スヴィタ姉は手を振り、彼の商品紹介を中断した。

 この時、あるゲームが僕の目を引いた。それは〈アンデッドランド〉、名作であるホラーアクションゲームだ!特典でも付いている!

 「橋本兄貴、このゲームはどこで発見したもの?」

 「あ、ある中古ゲームの店で発見したよ。」橋本さんはタバコに火をつけて、「三年前、私は仕事で脱力した時、いつも家に戻ってこのゲームをやった。ゲームの世界で包丁とか斧とかハンマーなどを使って、好きなだけゾンビを殺して、ストレスをすっかり解消した。」

 ここまで聞いて、疑問を感じてしまった。僕たちがいる世界は、ゲームと映画より恐ろしいのに、〈アンデッドランド〉をする必要があるの?

 「だから、橋本さんは、今の環境で外のゾンビを殺し尽くせないから、誰かこのゲームを買って腹いせにすると思う。でしょう?」

 「はは、竹島お嬢さんは本当に賢いぞ!天笠君、この美人のお姉ちゃんのそばにそんなに長くいるなら、よく学んでよ!」

 「別に、似ている経験があるから。」

 スヴィタ姉は突然少し憂鬱な顔をしたが、すぐ気を取り直した。

 「このゲームはいくら?」

 「米券一枚、肉類券二枚、或いは野菜券二枚。」

 詳しく換算したら、このゲームは安くないと判った。「食券」は、政府が安全ゾーンで行う食物の配給制度。一枚の米券=一キロの米、一枚の肉類券=五十キログラムの肉類、野菜券=百キログラムの野菜というものだ。「大疫病」が発生する前、大きく進歩した農作物の遺伝子組み換えの技術のおかげで、安全ゾーンの耕地は少ないけど、食料が払底するに至ることがない。

 政府は定期的に食券を配布するが、住民たちは頑張って働かないと、十分な生活用品がもらえない。物資の生産と貯蔵のために、人々は政府に農耕、伐採、魚釣り、牧畜など産業に務めさせられる。武器を持って自分の土地を守り、資源を運送する義務もある。

 過去の社会エリートである弁護士やら銀行員やら大学教授やらも、今では肉体労働で衣食を得ているのだ。

 「現金で買ってもいい?」

 「ははは、この時期は、お金より食べ物が重要だよ。現金なら、少なくとも一万円で。」

 僕は橋本兄貴と値下げ交渉をする時、スヴィタ姉が話の腰を折り、「紀序くん、巡邏にいかないと、買い物は後の話だわ。」

 残念だな~久しぶりに買い物の楽しみを思い出したのに~


 「前方二キロまで偵察完了した。暫く敵の影も形もない!」と若い女民兵が望遠鏡で偵察した後、僕とスヴィタ姉に伝えた。

 「承知した。巡邏をすぐ始める。」

 河霜湖町は四つの外への通路が公路に連接して、通路で金網柵、トタンの壁、鉄門で組み立てた二重防衛施設がある。政府は厳しく人員管制を行い、住民が安全ゾーンを離れることは難しい。もし安全ゾーンから出かけたければ、詳しく自分の予定と目的を説明しておいて、許可をもらわないとだめだ。各安全ゾーンも人口移動に対して厳格な制限があるので、住民は遷徙の自由がないことだ。

 安全のために、僕たちは自由を諦める。でも、どちらが重要かという問題を論じる人は極めて少ない。

 金網柵の外でかなり道を歩いた後、周りが想像できないほど静かだと感じた。半年前、僕たちはここに辿りついたばかりの時、みんなが命賭けで戦って五千人の犠牲の代償も支払いながら、やっと人口集中の首都圏から押し寄せたゾンビと怪物を撃退した。

 「もしある日、僕たちは山梨県の敵を全部地獄に送ったら、神奈川と東京も一挙に奪還することができる。」

 「全日本の人民が大勢死亡や変異したことを忘れないで、私たちが都市を奪還したいなら、死傷者がきっと増え続く。もし人口が希薄であれば、広い土地を取り戻しても意味あるの?」とスヴィタ姉は僕の考えに反論した。

 「あ~そう言えば、恐らくこの国は復興しがたい……」

僕は未来の日本がどのようになるかとじっくり考えている時、急にスヴィタ姉に止められた。

 「遠くないところには何かある。声聞いた?」

 「聞いた。何人かの足音を。ゾンビか怪物か?」

 「戦闘準備をしろ!」

 スヴィタ姉が命令すると、僕はすぐクロスボーを装填した。彼女も猟銃を担いで、一歩、一歩声の出る方向に進んでいる。

 足音が近くなって、僕はクロスボーを握って、指をトリガーに置き、緊張しながら周囲を見回している。

 ある少女は忽然と右手の方向の森を抜けて来る。彼女を追いかけるのは二体の「刃鎌」、奴らの手には鎌のように細くて長い爪が付き、上腕二頭筋が異常に発達して、成人の頭部の約三倍ほどの大きさだ。もし奴らに引っかかれたなら、骨が見えるほどの傷が付くだろう。

 「刃鎌」は少女の後頭部を攻撃したが、彼女は木を利用してさっと避けた。飛び散った木皮と枝を見ると、ドキドキしてしまう。もう一体の刃鎌は獅子のように飛びかかり、少女は危機一髪のところ避けた。でも、服は胸の部分が裂けた。

 僕はクロスボーを撃とうとしている。しかし、スヴィタ姉は僕を制止して、「ちょっと待ってくれ!」と言った。


 竹島スヴィトラナの視界(точка зору Світлани)


 「だから、橋本さんは、今の環境で外のゾンビを殺し尽くせないから、誰かこのゲームを買って腹いせにすると思う。でしょう?」

 「はは、竹島お嬢さんは本当に賢いぞ!天笠君、この美人のお姉ちゃんのそばにそんなに長くいるなら、よく学んでよ!」

 「別に、似ている経験があるから。」私は謙虚なふりをして答えたけど、内心は隠れた思い出のせいで穏やかではない。

 そうね、過去の私は、とても長い時間虚弱で病気がちの女の子として生きていた。あの時、私はアクションとロールプレイのゲームに夢中で、自分が武術が上手で勇猛果敢な英雄という幻想を抱いていた。しかし、今の私は終焉の試練の真っ只中にいる。完璧な力を求めれば、命の限がないということ、いつか人々に知らせてあげる。

 「紀序くん、巡邏に行かないと、買い物は後の話だわ。」

 私は今日の巡邏でたくさん運動できることを望んでいる。


 「前方二キロまで偵察完了した。暫く敵の影も形もない!」

 「承知した。巡邏をすぐ始める。」私たちは女民兵のお知らせ聞いた後、金網柵から出た。

 安全ゾーンで厳格に人員管制を行っているので、私は監禁されたとよく感じる。子供の頃病院で囚われたことに比べたら、ここの活動範囲は広いとはいえ、その前に暫時に持っていた自由を懐かしがっている。

 たとえ自由の道が既に無数のゾンビと怪物に阻まれてもそう思う。

 紀序くんは巡邏する時、いつも用心して遠方を観察している。大体において、彼は良い仲間と言える。彼の運動能力はちょっと悪いけど、優秀な記憶力を持っている。戦闘の事といい、ウイルスの事といい、彼は私が教えた知識を全部覚えておいた。

残念なことは、この子の心が彼のかわいい顔のように未熟なことだ。彼はまだこの世界に対して多すぎる希望を持っている。

 「もしある日、僕たちは山梨県の敵を全部地獄に送ったら、神奈川と東京も一挙に奪還することができる。」

 「全日本の人民が大勢死亡や変異したことを忘れないで、私たちが都市を奪還したいなら、死傷者がきっと増え続く。もし人口が希薄であれば、広い土地を取り戻して意味があると言える?」

 「あ~そう言えば、恐らくこの国は復興しがたい……」

事実は、日本だけではなく、諸多の国は終わりのない夜に陥って、夜明けが来る時を知らず、夜明けがどんな様子かも知らない。

 どっしりと響く足音は葉と草むらの摩擦の音に相まって、私の考えを断ち切った。怪物はこの当たりに来るようだ。

 「ここからそう遠くないところに何かいるわ。聞こえない?」

 「聞こえる。何人かの足音を。ゾンビか怪物か?」

 「戦闘準備をしろ!」

 私と紀序くんは武器を持って、慎重に声の出る方向に進んでいる。

急遽現れて来た少女と二体の刃鎌は私を驚かせなかった。刃鎌は動きが速い怪物だけど、あの少女は奴らの攻撃を次から次へと回避している。

 一回の回避は運がよい、二回なら偶然だけじゃない。

 「ちょっと待ってくれ!」と私はクロスボーを撃とうとしている紀序くんを止めた。あの少女の腕前を見たいから。

 少女は腰から軍用ナイフを抜いた。怪物はまた彼女の顔を攻撃すると、彼女は背を屈めて避けてから、刃鎌の腕と手のひらに連続切る。彼女は反応が早いけど、ナイフの使い方が拙い。

 もう一体の刃鎌は少女の背部を引っかいた。少女は身を回して交わし、転びそうだったが、傷つけられなかった。

 たとえ彼女は武術の訓練を受けたことがあっても、初心者ぐらいの程度だけだから、刃鎌に対抗できるなんてありえない。彼女の能力を探ろうと決めた。

私は一撃で怪物の右胸に当てて、心臓の部分を外した。これで怪物に重傷を負わせたが、斃れることはない。「撃て!」と私が命令して、紀序くんは他の怪物の頭部を攻撃したけど、矢が頬を射抜いただけだった。激怒した怪物は私たちの方向に駆けて来ている。

 少女はこの機会を逸せずに勇敢に刃鎌の懐中に突進した。怪物は手を振ったが、自分の爪が少女を触る前に心臓を刺された。怪物が倒れた後、少女は奴が起きないように、頭をもう一刀刺した。

 そして、私はトリガーを引いた。二体目の刃鎌は私たちまで5メートル以内の位置でヘッドショットされた。何かちょっと残念だと感じた。さっき軍刀で奴と戦ったらよかったのに。

 私たちは少女の前に走っていった。この子の服はいくつか怪物に破れられたとこがあるけど、軽傷しかついていない。「大丈夫ですか?どこか傷ついたんですか?」と私は少女の手を掴んだ。彼女は私と年齢が近くて、白い肌と丸い目をしている。外見は心優しくて気立てのよい美少女だ。

 「生存者の方ですか?」

 「はい、私たちは近くの安全ゾーンに住んでいます。」近距離で彼女を観察すると、激しい戦闘が終わったばかりなのに、彼女の呼吸も脈搏が速くなっていないと気付いた。彼女はもうウイルスに感染して、普通の人間じゃないはずだ。

 「スヴィタ姉、僕たちはこの女性を安全ゾーンに連れていって、治療を受けさせたほうがいい。」と紀序くんが話した時、わざと視線をそらした。たぶん思春期の若い男に対して、服が破れた美少女は刺激が強すぎるよね。

 「私は竹島スヴィトラナと言います。その子は天笠紀序です。私たちは安全ゾーンの民兵隊の人員、偶々巡邏中でした。」

 「平山柚依というものです。私は長野県から逃げてここに来ました。お願いします!あそこの生存者を助けてください!」

 「何かあったか、ゆっくりでいいので話してください。とにかく、まずは安全ゾーンに戻りましょう。」私は紀序くんと平山柚依という少女を起こした。

この時、彼女は私をじろじろ見て、何か考えるのようだと発見した。


 「少女の生存者を発見した!彼女は軽傷があるが、ゾンビ、或いは怪物に咬まれてないようだ!」

 金網柵に戻ったとたんに、私は大声で民兵に通報した。これは手続きの基準だ。

 「了解しました。今すぐ支援の車両を呼びます!」

 「あの……私は検疫を受け隔離される必要がありますか?私はウイルスに感染した可能性が高いけれど、危険性はないと思います。」

 「なぜ自分の感染した可能性が高いと思いますか?」

 「私には本当に危険性がない、信じてください……」平山は動揺せず私を見て、  「貴女もわかるでしょう。私たちは普通の人間と違います。」

 何言ってるの?その「私たち」は私と彼女なの?

 ありえない話、どこから見透かした?

 「はは、スヴィタ姉は確かに特別です。彼女はウクライナと日本のハーフですか ら、容姿といい、戦闘能力といい、人並みじゃないです。」

 「あら、平山さんも美少女だよ?私をそんなに褒めることをやめな。」

 「人並みじゃない容姿と戦闘能力を持つ……ですか?」

 「私は幼い頃、コッサク格闘技(гопак)と中国武術を習ったことがありますけど。正直に言えば、平山さんが刃鎌に対抗した手段は素晴らしかったです。」

 「いいえ、お二人の助けがなければ、たぶんひどいけがをしました。ありがとうございました。」平山はもう一度私に目を向けて、「後は、お二人の手伝いがほしいかもしれません。」


 私たちは平山を救急車に送り、ベッドに寝させた後、彼女の手も足も縛った。

 「すみませんが、これはすべきことです。被検者の危険性を確認する前に、行動の自由を制限しないといけません。」

 「心配しないでください。この町の医者たちはみんな優しくて、検診も二日しかかかりません。」と紀序くんは平山の心を慰めてみた。

 「もし私は感染者であると判定されれば、隔離されますか?」

 「それは状況による。もし平山さんが『良性感染者』、つまり、ウイルスを制御できる進化者であれば、平山さんは監視されながら、特殊作戦群に編入されます。それでもある程度の自由がもらえて、犯人のように囚われたりすることはないですわ。」実は、私は政府の進化者管理の制度にあまり賛成しない、官員はあれが不可欠な対策としつこく主張するけど。

 「私は保護をうけたい、或いは特殊作戦群なんかに参加したいために、ここに来たんじゃありません。」平山は真面目な口調でそう言って、「私は生存者たちからの重要なメッセージを安全ゾーンの人々に伝えたいですから!」

 「ある進化者たちは暴力団みたいな団体を組んで、激しく他の生存者を攻撃しました……」ここまで聞いて、私も紀序くんも驚き顔を作る。

「彼たちは新潟から長野まで縦横して、物資を奪って人々を平伏せました。私たちは自衛隊や民兵の支援が要りますから、お願いします。」

 「彼らの人数は何人ぐらいですか?」

 「三百人ぐらい……さらに、人数が増え続けます。彼らは普通の敵じゃなくて、時折怪物以上の残酷で非情です。」

 紀序くんは驚きに嫌悪が相まって、深刻な顔になるが、私はすぐ冷静さを取り戻した。太平の時代でさえ偶に残虐な殺人事件があるから、今の人間は自分の歪んだ欲望を抑える理由がなくなって、そういうことが発生してもおかしくない。

 「僕たちは確かに手伝いたいけれど、安全ゾーンの住民の出入りは政府に管制されているので、もし自衛隊や民兵が出撃したいなら、指揮官、或いは安全ゾーンの首長から許可をもらわなければなりません。」

 「私たちの指揮官は能登三佐です。もし重要な情報があれば、尉官たちに三佐に伝えるように頼んでもいいですわ。」と私が平山に建議した。

 「お願いします!今、一刻も無駄にできなくて、仲間がまだ私が援軍を要請することを待っています。尉官たちに伝えてください!」

 「はい、承知しました。しかし、河霜湖安全ゾーンは何名の援軍が送れるか、わからないです。今なお、関東地域の安全ゾーンは滞りない道路ネットワークを完成できません。」

 平山は少しの間沈黙になってーー「後でどんな検診を受けるべきですか?」と聞きます。

 「血液検査、体温と脈拍の測定など、普通の健康診断に似ているが、検診が終わった後、72時間で隔離が要ります。」

 「ここのみんなは、そういう検診を受けたことあるんですか?」

 「はい、僕もスヴィタ姉もウイルスに感染しなかった。でも、町にも他の進化者がいますよ。心配しないでください、たとえ感染者であっても一人ぼっちで寂しいと感ることはありません。」

 平山は初めて笑顔を作る。どういうわけか、親近感を覚える。


 私たちは平山を病院に送って、加藤一尉にあるだけ全部の事を報告した。そして、午後から通常の鍛錬をする。

 「紀序くん、中心線を守れ!」私は軽快な足さばきで突進して、紀序くんの腹に三発の寸打を与えた。彼は痛みで屈んだ。

 紀序くんは私から一年ぐらいの訓練を受けた後、格闘の技と忍耐力の進歩の跡は明らかに見られる。彼は長期的に武術を習う私には及ばないが、民兵隊の中では中の上ほどだ。

 「正面から私と接近戦するべきではない。私は力量も速度もあなたに勝るから、かわしたほうがいいじゃない。」

 紀序くんは私ともう一度闘う。今回、彼は防禦の姿勢を取って、両手で蛇のように私に纏おうとしている。しかし、力の対決の結果は、私が紀序くんの手を受け流してまた彼を倒した。

 「スヴィタ姉の寸打は速すぎるから、防禦できないんだ。」

 「覚えておきなさい、私より強いモンスターが大勢いる。たとえあなたが銃器で奴らを打ち倒しても速い反応と動きが必要だよ!」

 「そういえば、スヴィタ姉、今朝の戦闘は何か変だと思わない?」

 紀序くんの観察力は悪くなさそうだ。彼が言いたいことを聞こうと決めた。

 「平山さんは怪物と闘っていた時、どう見ても武術のベテランじゃなかった。でも、彼女はいつも刃鎌の攻撃を避けて、まるで相手の技を予測したようだ。」

「Так、だって、彼女は進化者で五感強化という能力を持っている可能性が高い。」

 「五感強化?」

 「立って、私を何発かの拳で攻撃して。」

 「はい、わかった。」紀序くんは前手で私の顔を、後手で私の腹を打ったが、私に二発のストレートパンチをブロックされた。

 「私が防禦できるわけは、あなたの拳が速くないの。紀序くんが攻めたいとこを判断して、経験によってブロックした。その上、私もあなたがストレートパンチを使うとわかった。」

 「でも、平山さんはたぶん刃鎌がどのような技を使ったのか先見できないだろう。」

 「そうね、彼女はいい動体視力で敵の攻撃手段を見極めた後、直感で回避した。包囲されても後ろからの攻撃がかわせるなら、たいがい聴力、または風圧に対する感覚のおかげだ。中国武術の詠春拳にも、自らの目を塞いで聴力と触覚を強化する二人の訓練法があるわ。」

 「そうだね。刃鎌は爪を振る時、いつも風圧がかかるね。さすが多くの中国武術がわかるスヴィタ姉だ!」

 「だが、彼女は鋭い五感を持つけど、ふさわしい戦技がない。」私は紀序くんの肩を軽く叩いて、「そういうわけで、私たちは常に自分を鍛えるべきだ。」

 「わかった。また二十回の組手をやりましょう!」と紀序くんは三歩下がって構えを取る。

  

 「運動後、温泉に浸かるのはまじで幸せよね~」進化ウイルスは日本のいろいろないいことを奪ったけど、少なくとも温泉は無くさなかった。

 私は風呂で自分の雪白の肢体を伸ばしている。今はまだ早いので、浴場は私と幾人かの少女しかいない。彼女たちは中学生に見える。あ、違う、この世界にはもう中学生という肩書はない。

 思考に最適なのは気がもっとも楽な時だ。そうすると、新見解が出るかもしれない。

 「あの平山は、なぜ私をじろじろ見るの?私の目立つ容顔を気にしたか、違う……彼女はあることに気がついたのだ。」

 それ以外、もう一つ肝要なことがある。

 「進化者たちが団結したら……銃器さえ取れば、百人ぐらいで安全ゾーンの守備隊を大破できる。金網柵とバリケードでは彼らを阻めない。」

この世界で生きてゆきたければ、禍の兆候を見たら、起こらないように防がないと。

 「見て見て、あそこのお姉ちゃんのスタイルはすごいな~」

 「そうね、羨ましいな。」

 そんな声が私の耳に届いた。自分の胸と腰を見て誇りに思う。逃亡の頃、自分に合う替えの下着は見つけにくいけど。私は水着を下着の代わりにして売店で試着した時、何体かのゾンビに襲われて咬まれるところだったことを覚えている。

 でも、私は他人にスタイルを羨まれるなんて思ったことないね。私は小学と中学の時、ずっとクラスメイトに無視された……

 時々、私は過去の世界には懐かしいことが多くないと感じる。


 翌日、私は朝早く病院へ平山のお見舞いに行って、彼女が言ったことを気にするから。しかし、紀序くんを同行させなくて、彼にある言葉を聞かせなかったほうがいい。

 病院に入ると、消毒剤の臭いが私の幼い頃の記憶を思い起こさせてしまった。私は一人で深夜の病院の廊下にいた。その時、周囲はとても静かで、背筋が寒くなるほどだった。私は両親がくれたぬいぐるみを抱いて、待ちに待っていた。日が昇った後、パパとママは早く私を病院から連れて離れることを望んでいた。しかし、私は毎日私は毎日失望につぐ失望に苛まれて、両親が白い鳥篭から私を救えないとわかってきた。だって、私は生まれつき壊れた子、内臓と胃腸の病が私を苦しめていた。

 私は頭を左右に振り、メモリーズを捨てようとした。無数の命が消え去る時、私は生きていることだけで、誇り持つに値する。

 「こんにちは、私は平山柚依さんを見舞いに来た。彼女の検診はもう終わったの?」と私は柴田先生に問い掛けた。彼女は平山の体の具合を分析する役だ。

 「検診はもう終わった。確かに彼女がウイルスに感染していた。ただし、彼女のウイルスはとても安定的で、変異しつづける様子がなく、血液中のウイルス量も高くない。それは不思議だ。」

 進化ウイルスの特性は、個人の体質いかんで、千差万別に変異することだ。しかも、変異の速度はHIVウイルスに勝るとも劣らない。

 生物学的な考えでは、ウイルスの性質が変わる原因は、生存期間が延長し伝播の機会が増えるためだ。しかし、進化ウイルスは人体との妙な連動がある。自分だけではなく、ウイルスは宿主の細胞も改変して、まるで宿主を進化させるようだ。だが、進化の失敗の例は、成功より甚だしく多い。

 ウイルスの感染者の中で、ただ5%~10%の人が「進化者」になれる。それらの人の病状は「良性」と分類されたが、絶対に安全だと言えない。政府の記録により、体内のウイルスが暴走して理性を失った後、敵味方の区別も付かずに皆殺した進化者は五十何人かいた。

 この少女はレアな病人と言えるーー彼女は既にウイルスと調和した素晴らしいキャリアだ。

 「竹島さん、この少女は今危険性がないとはいえ、彼女と話す時、気をつけてください。隔離時間が終わっていない。」と柴田先生がわざと念を押した。

 「承知した。必ず注意する。」

 私のウクライナ人の父は生物学者であるので、同世代の人々に比べて、もっと伝染病の知識を持っている。医者に言われたことはいらない。

 私は隔離用の個室に入った。平山さんは本を読んでいるところだ。

 「平山さん、検査はどうでしたか?大丈夫ですか?」

 「ご心配くださりありがとうございます。自分の体より、長野にいる仲間たちを憂いています。尉官たちは私の話を聞いた後、まだどんな措置を取ればいいかと考えている……」

 「よろしければ、それらの団体を結ぶ進化者たちについて話してくれませんか…もっと詳細に。」私はイスを運んでベッドの側に座る。

 「実は、私は彼らと闘ったことがあります。私たちが身を隠す曇島村は彼らに侵入されたが、降参を拒絶しました。」平山さんの語気は嘆きと後悔が混ざる感じがした。「自衛のために三人を殺した。手を出したのは私じゃないですけど。」

 ゾンビや怪物を斃すことと、凶悪な人間を殺すこととは、いずれも生存のゆえだとしても、人心に与える影響は全然違う。ゾンビと怪物はもう理智的に人類と通じ合えない。進化者なら、まだ人類の意識を保っているから、普通の人々は命の危険にあっても彼らを躊躇なく殺すことができない。

 現代社会の秩序を維持できるわけは、ただ厳正な法律運用のみならず、教育も不可欠だ。私たちは小さい頃から、「勝手に他人に悪いことをするな」と教えられてきた。「大疫病」が発生した後、みんなは社会の秩序が壊滅してゆくと知っているが、固めた価値観を簡単に捨てるわけではない。

 「ちょっと待ってください。曇島村は長野県のどこですか?」

「曇島村は松本市の西南にあって、周辺は山と森です。」

 「あれらの敵はとても危なかったんですか?どんな能力を持ってますか?」

 「ちょっと考えさせて……」平山さんは目を閉じて思い返している。

 「彼らは運動能力が強い上に、感官も有力だし。ある若い女性は容易に跳ねると7メートルを超した。ある少年は耳に任せるだけでそれぞれ家にいる人数がわかって、あとリーダーの一人は酒を噴いて着火して、遠距離で敵を焼くのが得意です。」

 「そう聞くと、彼らは人並みじゃありませんね。どうやって打ち倒したんですか?」

 「私たちの仲間でも、特別な能力を持つ人がいますから。例えば、私は同時に複数の敵の動きが見られる。スローモーションで再生するって感じです。」平山さんは疑いが解けない顔をして、「自分はウイルスに感染したと知っているけど、どうしてか、どこでかわからないです。ゾンビに咬まれたこと一度もありません。」

 平山さんは嘘をつきそうではない。でも、進化ウイルスは空気で伝播しえない。今まであらゆる情報から見れば、感染者の血が身についても、傷と粘膜との直接接触がなければ、感染率もかなり低いのだ。

 「なさそうね……私は大疫病が爆発して五ヶ月の後で、徐々に能力が覚醒してきた。」平山さんは自分の頭を抱えて、「私は何か重要なこと……忘れちゃいました。よくそんな感じ……」

 「リラックスしてね、この一年というもの、多くの怖いことが迫りました。もし私たちは一々覚えていたら、頭が狂っている結果になるのよ。」私はポケットからチョコレートを取り出して平山さんに渡した。「ちょっと休憩してから続きを聞かせてください」と言った。

 「ありがとう、常に自分に落ち着かなきゃって言ってましたけど、けど……」

 平山さんはチョコレートを食べた後、血糖値が上がるので、情緒も安定するようだ。

 「久しぶりの甘いもの~格別な幸せを感じるよね。」

 目の前の少女は気楽な顔が現しているうちに、私は彼女の特殊能力を問い質す。

 「平山さんは複数の敵に迫られる時、視力で相手の動きを判断しますか?」

 「いえ、私は耳も聡いです。竹島さんがはいているズボン、カギとミニ懐中電灯があります。右のポケットに。でしょう?」

 私はポッケトのものを出した。彼女の言った通り、何本かのカギとリングに掛けたミニ懐中電灯だ。

 「もし平山さんは金属の摩擦音を聞いたなら、カギと小銭ではないとどうして分かったのですか?」

 「直感で当てるだけです。先ずは、お金はこの世界で、もうあまり価値がないものになった。わけもなく小銭を持つと思いません。第二、避難の際にとって、懐中電灯は重要な用具だから、使う人が多いです。」

 「平山さん、とても尊敬します。才知こそ私たちはこの世界で生き残れるもっとも大切な武器ですね。」

 「すみません、別に見せびらかす気はありません……」私に褒められた平山さんは恥ずかしそうに見える。「仲間の中で、私より推理能力が強い人もいますし。」と彼女が一言を添えた。

 この少女の聴力も視力も異常に鋭敏だわね。私は安全ゾーンでくだらない生活を長く過ごした後、ようやく面白い情報を手に入れた。

 そして、彼女はほかの生存者のことを伝え続ける。

 「私たちのリーダは久保健三郎と言います。探偵社で働いていた元探偵です。私たちがたくさん危機を脱したのは、彼と六人の同僚の賢さのおかげです。」

 なるほど、平山さんに推理の方法を教えてくれた人は、たぶんその探偵さんだ。

 「平山さん、曇島村の生存者は何人なのですか?」

 「三百二十二人です。私たちは都市から抜けて、田舎に滞在して防衛してます。あそこには、薬品とか服とか取りにくいけど、食べ物なら足ります。」

 高い致死性の伝染病が流行する時、なるべく人口集中地区を離れたほうがいい、これは医学常識だ。黒死病が中世のヨーロッパに広まっていた時、人々も都市から逃亡した。でもね、あの時代の田舎は、大都市と他の地域に物資を輸入しなくても自給自足できる。現代では地域的分業があるので、たとえ田舎に住んでも、他所に必需品をもらなければ生活しがたい。

 今の大災難を生き抜くため、もっとも脳力を費やすことは、ゾンビや怪物と戦うというより、住む所を探すことと生存資源の集めることだ。

 「まさか、あの暴力団は、平山さんたちが持っている食物を取りたがっていますか?」

 「はい、私たちは穀物と野菜を彼らに捧げることを要求された。でも、食物は価値あり、他の生存者とも物資をやり取りできるから、わけもなくヤクザたちにあげてはいけないのです。」

 平山さんはまだチョコレートを食べて深く嘆いて、「この国はどこでも死人と怪物がいっぱいいるようになった。もし活人たちも略奪し殺しあうなら、人間こそ地獄だと思います。」

 「私たちは自ら地獄に堕ちることを願ってませんが、戦い続けるよりほかないです。」

 「竹島さんはかなり勇敢ですね。実は……竹島さんは他の人と違って、私の同類だと知っていますよ。」

 「あら、ウイルスに感染していないから、平山さんの同類であるわけがないでしょう?特殊な能力持ってませんよ。」

 「竹島さんも進化者で、私を助ける…私の仲間たちを助けることもできると信じます。」

 どうして私を進化者としているの?まさか四年前に、お父さんが私の病気を治癒するために注射した薬物に関係がある?しかし、あれは進化ウイルスじゃなくて、彼女が私の体は普通の人と違うと知っていることもありえない。

 「人に希望を与える存在となりたくないけど、ほしいことを聞くぐらいはできますよ。」と私はしばらく自分の疑いをさて置く。

 「尉官たちに私たちを支援するように説得してください。でなければ……」

平山さんは私を引き寄せて、私の耳に囁いている。

 「私は安全ゾーンで拘束されるつもりはありません。彼たちが助けてくれないなら、絶対に自分で何として武器を手に入れて、仲間を守りきますから。」

この見た目が弱い少女は、そんなに強い意志を持っているか。彼女の目を見ていると、哀傷と危惧が彼女から私の心に流れ込んでくる。でも、彼女には醜悪で汚い世界に負けない決意を感じられる。

 「強盗に手を打たなければ、彼らは遅かれ早かれ大勢に寄り集まって安全ゾーンに侵略します。」と私も声を小さくする。

 「ですが、ここの軍人と政治家が何か長期的な計画を制定したと思い違わないで。ただ関東と中部地域の安全ゾーンの連結だけで、彼たちはもう頭が痛過ぎます。今は人員不足だけじゃなく、適切な指揮者もいません。」

 「十人の兵士と足りる銃器で何百人の命を救えますよ。私たちは敵の殲滅を求めなくて、自分を守りたいだけ……」

 平山にお願いされる私は安全ゾーンの支配者たちを説きつけてあげたいけど、彼たちはたぶんリスクを冒すことができない。私は他の方法を考えるよりほかない。

 「もし平山さんに武器を入手させるなら、どうのような報酬がもらえますか?」

 平山さんは目を大きく開いて、感激の表情を浮かべる。


 「柴田先生、ちょっと確認したいことがあるけど、今いい?」

 私は平山さんと話した後、診療室へ柴田先生に会いに来た。いつもの通り、彼女は煉瓦みたいな重い医学の本を読みながら、医療用ソフトで進化ウイルスの変化を計算している。

 「正直に言えば、私は暇を持って余しているのです。この病院には患者が少ないし、進化ウイルスの研究も二三日で終わることじゃないからな。」

 「はい、お邪魔する。」と私はイスに座った。

 「平山の体は明らかな傷跡、敵に咬まれた傷跡ってないでしょう?」

 「竹島も同じことを疑っているね。」。柴田先生は自分の顔を触り、少しまゆをひそめる

 「私の知る限り、このウイルスは空気に晒すと即座に死ぬ。伝染力が強いとは言えない。」

 柴田先生は美人であり、彼女の目鼻立ちは同世代の人より大人っぽい。このわずか24歳の女医は学業を終えていないのに、傷病者を助けに行った。でも、彼女は実戦で経験を重ねて、今まで何十人かの人命を救った。

 「彼女は敵を斬る時、たくさんの血を浴びて感染する可能性は?」

 「竹島は『たくさんの血を浴びた』って要点に触れた。この安全ゾーンには、悪性感染者と戦ったことある住民がいっぱいいる。多かれ少なかれ、彼たちはウイルスの含んだ血を付けられた。しかし、その経路で感染した者は二十人以下。」

 柴田先生はキーボードを打って、気持ち悪い写真何枚かを見せる。

 「以前、我らは死亡したゾンビを取って解剖して、奴らの口内に大きい糜爛部があることを発見した。そういうわけで、ゾンビが人を咬むと、ウイルスだらけの血を人体に侵入させる。」

 「ある病原体は肌の糜爛を主徴とするみたいに、進化ウイルスは伝染力が強くないゆえに、そういう方法で自分の伝播を加速する。そういう伝染方法は、宿主が攻撃を受けて死ぬリスクが伴うが、ウイルスは主導権が握れる。」

 柴田先生はすらすら詳しく説明した。私は彼女の顔つきで父が伝えた事を思い出した。

 「娘よ、我々は人類として病原体を嫌うのは当然だが、一々研究した後で、奴らも生物で、生存のためにやれるだけやることがわかった。人類は地球で生きたいなら、 堂々に奴らの挑戦を受けるべきだ。」初めてそういう話を聞いた時、彼は仕事に熱中し過ぎると思っただけだ。

 しかし、「大疫病」に経歴してから、私はそう考え始めたーーたとえウイルスは邪悪な存在でも、人類ほど意識的、系統的にある生物種を絶滅することはしない。もし私たちは進化ウイルスの秘密を打ち明けられるなら、きっと世界を変えて無数の衆生に新境地を開かせる。

 「そう言えば、平山さんの感染経路は、やはりゾンビの咬傷が一番だと考えるでしょう?」

 「はい、記録から見れば、回復能力がすごい進化者は少なくない。平山さんの咬傷はもううまく癒えるかもしれない。」

 柴田先生はちょっと思考してから、真面目な顔で「あの子の体にいるウイルスは安定的だが、彼女の感染経路は確認できない。以上の二つ事は関係があると推測するか。証拠がないんだ。」

 「大丈夫よ、どんな病原体の分析でも時間がかかる。みんなが頼れる人は先生しかいないわ。」


 柴田先生は優秀だといっても、若くて経験に乏しい、専攻も伝染病学じゃないので、彼女だけで進化ウイルスの色んな謎を解けない。

 「Bat’ko, dobriy deń. Wczora ja vryatuvaka odnu diwczynu, jaka je『evolyucionerom』.Oskil’ky wona je unikal’nym pacijentom, ja choczu rozpowisty vam odnu cikawu informaciju.」(お父さん、こんにちは。最近、私は安全ゾーンの近いところで進化者である少女を救えた。彼女は特別な患者だから、興味深い情報を伝えたい……)

 私は今日聞いたことをメールに詳しく入力している。他人に内容を盗み読まれるのを予防するために、私はポーランド語のラテン文字でウクライナ語を綴っている。私とお父さんを除いて全日本には幾人か読めるだけだ。

 私の両親は間断なく伝染病と遺伝病を治癒する薬物を研究していた。両親の実験がなければ、恐らく私は何年か前に病院で死んでいた。しかし、お母さんは代わりに命を犠牲にした……

 お父さんはどこに隠れて新薬物を開発しているの?私の情報を読んだらきっと嬉しくなると思う。だって、彼の野望はウイルスのワクチンを開発するに限らず、ウイルスと感染者が平和共存できる方法も追求したいから。

 しかし、私はそんな事を望むとは限らない。

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