VSゴブリンライダー

 翌日、俺たちは村を出て魔族が巣食うという山の中へと足を踏み入れることにした。ゴルギオンの周囲と似たようなもので、土地は荒れ、木々もどこか元気がない。人が二人並んであるけるか歩けないかの狭い山道は灰色の山肌に囲まれて歩いているだけで少し憂鬱になる。


「この先にいるのはゴブリンやゴブリンライダーだけなのか?」

「いや、これは私の勘だから見た訳じゃないけど、違うと思う。話を聞く限りゴブリンたちは結構村のものを持って帰ってるみたいなんだけど、野良のゴブリンはあんまりそういうことはしないからねー。それにゴブリンライダーなんて種族も、一人でに発生するとは思えないし」


 アリカは自らの分析を語る。


「つまり、裏にゴブリンたちを指揮している上級魔族がいると?」

「まあそういうことになるね」


 魔物と言うと千差万別で、そこにはワイバーンやマンドレイクのような単体で生きているものも含まれる。ウルフのような動物系の魔物は群れを作るが、あくまで自分の種類だけでのことだ。


 そんな中、種を超えて群れを作る魔物たちを俺たちは何となく“魔族”と呼んでいる。“魔族”の上位種は竜人であるドレイクやデーモン、オーガなどが多く、そこに戦力としてトロールやサイクロプスといったガタイがいい魔族が加わり、末端がゴブリンやオークなどの繁殖力が強いものたちとなる。もちろん大部分のゴブリンはゴブリンだけで群れを作るが、そういうゴブリンたちはただ略奪して繁殖することしかしない。


「ただ、その親玉が何なのかは分からないのよねー」


 アリカはのんびりとそう言う。メリアやセレンは「魔族の親玉はどんなものがいるの?」「アリカさんは魔族と戦ったことはありますか?」などとアリカに尋ねている。俺は索敵に集中する振りをして会話に加わっていないが、密かに前のことを思い出していた。


 俺の剣でデーモンを切り裂いた時の断末魔。

 その断末魔が呪いのように頭にこびりついて離れなくなった夜。

 そして、デーモンの息子たちに襲われて殺された村人たち。

 ここ最近、皆に隠れてこっそり体を動かしていると左手の傷が治っているのは分かるのだが、今でもこの時のことを夢に見てうなされることがある。


「待て」


 そんなことを考えていると、不意に前方から敵の気配を感じたので俺は三人を手で制する。俺の声にこれまでの和やかな雰囲気は一変し、皆緊迫した表情に変わる。


 細い山道を塞ぐように前方には木の柵が築かれ、その後ろにはゴブリンたちがしかめっ面で立っている。もし立っているのが人間ならばこれは関所に見えたことだろう。

 ここから見えるゴブリンたちの数は数体だが、普通のゴブリンは関所など作らない。つまりこの後ろにはもっと知能が高い何かがいるということである。


「アリカ、一発大きいのを頼む。そしてそのままここを駆け抜けよう」

「大丈夫でしょうか? それだと敵地に突っ込むことになってしまいますが」


 セレンが心配そうに言う。


「だが、敵が先に俺たちに気づけば万全の態勢を向こうが整えることになる。ここは強引に突破した方が逆に安全だ」

「なるほど」


 セレンが頷く。


「じゃ、ささっと吹き飛ばそうかな。『ヘル・ファイア』」


 そう言ってアリカは前に鉱毒を焼き尽くすのに使った炎属性魔法を発動する。アリカの手元から噴き出した炎は瞬く間に目の前の木の柵やゴブリンたちを焼き尽くした。


「よし、行くぞ!」


 俺は先頭に立って細い山道を走っていく。すると、間もなくして上空からゴブリンライダーたちが五騎ほど襲ってくるのが見えた。しかも男爵軍と戦った時に比べて進歩しているのか、ゴブリンたちは手に手に弓を持っている。

 地上が狭い以上空中から襲い掛かる方が有利とでも思ったのだろうか。ゴブリンたちは俺たちを見るなり矢を射てくる。


「『ホーリー・シールド』」


 すかさずセレンが防御魔法を展開し、矢を弾く。


「『ファイアー・ストーム』!」


 さらにアリカも炎魔法で追撃を行う。炎の渦が上空で発声し、ゴブリンたちを襲う。が、グリフォンに乗ったゴブリンたちは器用に上空を舞うとアリカの魔法をあっさりと回避した。


「なかなかやるねぇ」

「アリカ、今手抜きしただろ」


 ファイアー・ストームはアリカの魔法の中では比較的威力も魔力消費も少ない。


「とはいえまさか避けられるとはね。じゃ、後は任せた」


 アリカの魔法を回避したゴブリンたちはそのままこちらへ向かって降下してくる。こちらが魔法でゴブリンの攻撃を防ぎ、反撃することが出来る以上空を飛んでいるメリットはあまりない。近づけばグリフォンの鋭い爪や牙でも俺たちを攻撃することが出来る。


「メリア、後ろは任せた」

「分かったわ!」


 メリアは叫ぶと後ろを向いて降りてきたグリフォンを迎え撃つ。俺の前にも次々とグリフォンが襲い掛かってくる。


「接近戦なら勝てると思ったこと、後悔させてやる」


 所詮グリフォンは図体が大きいだけで、動きがそこまで素早い訳でもない。降りてさえくれば敵ではなかった。

 俺はグリフォンの攻撃を避けると懐に入り、腹に向かって剣を突き出す。


「グギャアアアアアアアアアアアアアアア!」


 俺の渾身の突きを受けたグリフォンは悲鳴を上げてその場に落ちる。その衝撃で背中に乗っていたゴブリンもよろめく。すかさずそれを剣で切り裂いた。


 次のゴブリンは正攻法では勝てないと思ったのか、グリフォンで俺を襲わせながら弓を引く。俺は今度はグリフォンの眼を狙って剣を突き出す。辛うじてグリフォンは避けたものの、グリフォンは体勢を崩し、ゴブリンの矢はあらぬ方向に飛んでいく。そこをすかさず追撃し、俺の剣はグリフォンの翼に命中した。


 再び悲鳴を上げてグリフォンは落下する。それを見てさらにもう一体が俺に襲い掛かるが、今度は剣を投げつける。思いもよらない攻撃に驚いたグリフォンは首を捻って攻撃を避けるが、剣はそのまま背に乗っていたゴブリンの頭に命中した。


 グギャアア、と汚い悲鳴を上げてゴブリンが落下すると、グリフォンは我先にと逃げ去っていく。残りの二騎もメリアとアリカによって撃墜され、瞬く間にゴブリンライダーは全滅した。

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