鉱夫たち

 アリカが来てから数日後、あれからこれまでのことが嘘のようにギルドの動きが活発になり、気が付くとゴルギオンに二十人ほどの鉱夫たちが手配されることになっていた。この対応の早さは一体何があったんだ、と思ったがどうもデュークが失脚したらしい。ということはもしかしたらデュークが俺に嫌がらせをして対応が遅かったということだろうか。もはや興味もないが、ギルドマスターが交代した方が利用者や職員にとってはいいだろう。


 村の近くを見回りしていると、これまでただのさびれた村だったゴルギオンに荷車を何台も引いているいかつい男たちの一団がやってくるのが見える。


「よう、お前がここのギルドマスターのグリンドか? 俺は鉱夫長のギルムだ。これからよろしく頼むぜ」


 そう名乗ったのはのったのは先頭に立つ一際いかついドワーフの男だ。人間より身長こそ低いが体は頑丈な筋肉で覆われ、今も荷物がこんもりと載った台車を一人で軽々と引いている。口調も、いかにも荒々しい山の男といった感じだ。

 後ろに続く人間の男たちも頑丈な体躯の者たちばかりだったが、ギルムほどではなかった。


「こちらこそよろしく頼む。今なら一番乗りだから掘り放題だし、まだ見つかっていない鉱脈もあるかもしれない」

「そうか、それなら来た甲斐があったぜ」

「では宿に案内しよう」


 ギルムたちが来るまでの間、俺たちは村にある空き家を補修して鉱夫たちが泊まれるようにしていた。俺たちは冒険者やギルド職員で建築のプロはいなかったが、それでもどうにか泊まれるようにはなったと思う。

 直したばかりの家が並ぶところに彼らを案内すると俺は少し不安になる。


「悪いな、こんなボロ家ばかりで」

「何を言ってるんだ。これまで俺たちがやってきた未開の鉱山なんてひどいところばかりだった。時には自分たちで掘っ建て小屋を建てたこともある。それに比べれば雨風がしのげる家があるだけ十分だぜ」

「そういうものなのか」


 確かに、すでに賑わっている鉱山であれば周囲に栄えている街があるだろうが、新しい鉱脈を見つけようとすれば必然的に栄えていないところばかり回ることになる。それでも鉱脈探しを続けているのは素直にすごいと思った。


「よし、今日は宴にしよう」


 俺がギルドに定めた空き家は元々家にあったキッチンを利用して急造の酒場が併設されていた。誰が料理しているのかと言えば一緒についてきたミラを始めとするギルド職員たちである。

 本来彼ら彼女らはギルドの仕事をするはずだったが、この村にいる冒険者は俺たち三人だけでギルドの仕事はない。そのため本来はギルドメインで酒場は付属施設のはずだったのに、すっかり酒場の仕事がメインになってしまっていた。


 もっとも、村人たちは村の外の料理や酒が楽しめると言って、酒場はむしろギルドよりも好評であった。最初はアルムのギルドから持ってきた資金や食料で営業していたが、利益が出るようになったため最近は村で食材を買いながら営業している。職員たちも少しずつ村の料理を覚えて、そちらも出せるようになっていた。


 そんな酒場にギルムたち一行を案内すると、すでにミラたちが料理の準備を終えていた。パンやビールは他の街の物と変わらないが、この周辺でよく採れる鶏肉を独自のぴり辛タレで味付けた煮物や、山兎のステーキ、山菜と猪肉の炒め物などは元から村にあった料理である。他にも村でとれる食材と村の外の調理法を組み合わせた料理が所せましと並んでいた。


「おお、こんなに盛大にもてなしてもらえるとは思わなかったぜ!」

「すごい!」

「こんなに歓迎されたのは初めてだ!」

「うまそうだ!」


 ギルムたちも口々に歓声を上げる。せっかく喜んでくれているし、他にギルドの仕事がないから料理ばかりしていたということは黙っておこう。


「ただいまー、あ、すごいいいにおい」

「料理を見たら急にお腹がすきました」


 そこに魔物狩りに出ていたメリアとセレンも戻ってくる。さらに宴の準備を見ていた村人たちも集まり始め、狭い酒場はあっという間にぎゅうぎゅう詰めになってしまった。


「ではここゴルギオン村に鉱夫の皆が到着してくれたことを祝って乾杯!」

「「「乾杯!」」」


 俺の掛け声に合わせて皆がグラスをぶつける。

 荒々しい男たちが多かったこともあり、宴はあっという間に無礼講になっていく。ギルムたちが打ち解けられるか心配だったが、酒と料理があるせいか村人たちとも思ったより楽しそうに話している。村人は村人でこんな辺鄙なところに来てくれたということでギルムたちに好意を抱いていた。また、メリアやセレンともこれまでの冒険の武勇伝などで盛り上がっている。


 そんな中、俺はギルドの制服の上からエプロンをつけてかいがいしく働いてくれていたミラたちに話しかける。


「今日はこんなにたくさんの料理を用意してくれてありがとな」

「いえ、むしろこれまで仕事らしい仕事が何も出来ていなかったので、ずっと何か出来ることがないかと思っていたんです」


 ミラは目の前で盛り上がっている宴を見てほっとしたように言う。


「おかげで村人やギルムたちと仲良くなることが出来た。正直最初に村に来たとき彼らが俺たちに不信感を抱いていたから心配してたんだが、おかげで助かった」

「そう言っていただけると頑張った甲斐があります」


 こうして、遅くまで宴は続いたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る