7 出発

本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい



4/10 14:30


「え、どういうこと?」

先程から いや、本日ず~っと若い子に翻弄されている様な気がしないでもない

結構コミュニケーション能力には自信があったのだが、、


「いや、まぁ詳しくは母さん来たら聞いてみたら良いですよ、多分そろそろ来ますよ?  甘い物目当てで」

ランチを食べ終わったリィンはお茶の準備を始めている


「ごはんたべたらティーパーティーなんだよ?」

ウルもしっかり食べた分の食器をキッチンへと持って行く(カワイイ!)


「ん? お~?   と言うか来なすったぞ~  おっすおっすルトリ母よ」

カセンが入り口を見てひらひらと手を振る


「あらカセンさんこんにちは~  すぐそこでオールさんにお菓子頂いたよ」


「あれ?おじい一緒に食べるんじゃなかったんだ? ん、まぁいっか」

配分が増える為なのかリィンの「まぁいっか」が早い


「ルトリママいらっしゃ~い  ジンさんを助けた理由ってやつ私も聞きたいから早く座って座って~」

アイリはもうリィンに準備を任せて席へと座っている



「え、ええ? あぁ、いや困っていたらジンさんじゃなくても助けてはいたのよ?  本当よ?  ただ、ほら着てるものがキーロと一緒だったし髪の毛も黒かったから放っておけなくてね」

いきなりの問いに困惑しながらもしっかり応対する



「え? どういうことですか?」

少し分かりにくいので一個一個噛み砕いてもらう





どうやらこっちの世界で髪の毛が黒いと言うのがまず珍しいらしい

アイリみたいな紺色

ルトリさんの旦那さん 『ダンク』さんらしいのだが、暗めの茶色

黒に近くてもその程度で真っ黒の髪の毛は中々見ないんだとか


(珍しい!って事がチートに近づいたっぽくて俺はちょっと嬉しいのだが)

それと先程から会話に出る『キー兄ちゃん』

娘達がお兄さんと慕っている『キーロ』さんなのだが


10年前に俺同様倒れているところをルトリさんが発見し家に連れ帰り保護したらしい

俺みたいな軽傷ではなく足が不自由になってしまう程の重症で

まだ幼く記憶もふわふわしていたので放っておけずそのままルトリ一家の長男となったそうだ

今はダンクさんと同じ工房で機工師として一家を支えていると言う


サクッと良い話が聞けてちょっと泣きそうである



(、、ん??  って事は)

「キーロさんも転生者なんじゃ?」



少し場が止まるがすぐに母ルトリの口が開く


「う~ん、もしかしたらそうだったのかしら   小さい子が言っていた事だったし私も中々良く分からなくてね~    今でも周りの人が分からない事とかが変に理解出来たりしているみたいでね 自慢じゃないけど重宝されてるみたいだよ」

母の顔が緩む  血は繋がっていなくても大事な関係なんだと言う事が分かる


「キー兄はね~天才だも~ん」

(アイリさん、もしやキーロさんの事好きだろ、先程からちょこちょこと)



「だからさ!  三日後の王都行きはジンさんに任せたら良いんだよ」

リィンが軽くドヤ顔をする


「え?」


「え?」

リィンの発言でまたまた頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ




「いや、だってさ?三日後って討伐隊の人とかも沢山こっちに来るでしょ? アイリのお店はもちろんだけどうちも人手不足でしょ? あっちへの用事は薬の補充とこっちに重機持って来るだけだから別に母さんが無理に行く事も無いでしょ?   そうしたら私どっちも手伝えるじゃん?    ジンさんは兄さんと会って話せるし一石二鳥じゃん?」

お茶をすすりながらも ふふん!と再びドヤ顔をする


「あ~!!確かに!」

母ルトリとアイリが それだ! と言う顔をしている


「え? いや、え? なん~となくは分かったけど  え?」


やっぱりこの娘達    デキる!






この後3日間 ジンは店の手伝いをする代わりに寝所を提供してもらう事となった









4/13 7:00


3日後の朝


「え~と、こっちの箱三つが薬で、これがお父さんに渡すやつね」

母ルトリさんが淡々と積み荷の説明をする


「ジンさんでも分かるようにメモは書いてありますので最悪でも到着できればなんとかなりますよ」

(リィン  慣れてくると結構言うのね)


「ウルもいきたかったな~」

小さな黄緑ロングがブーたれている


「ごめんね~俺だけ行く事になっちゃって お土産可愛いの買って来るからさ! ぬいぐるみ!! 熊とか!?買ってきてあげるから」


「え!  ほんとう!? いいの?」

一気にキラッキラの笑顔になる

(ぬいぐるみ一つでこの笑顔   守りたい!この笑顔)*いや、ロリコンでは無い*


「いえいえ、そんな気を使わなくても」

母は困った顔をする


「いやいやいや!良いですよ~ お世話になりっぱなしなんですから   それと~、リィンちゃんは本で良いんだよね?」

この3日間で得た情報だ(主にウルから)


「え? 私も?  良いんですか??」


「全っ然! 本の一つや二つ!  任せなさい!!」

なんか親戚の叔父さんになった気分だ


「じゃあアイリちゃんにはお土産とか良いんで~ キー兄に寂しがってましたよ~って良い感じに伝えておいて下さいね~ ふふふ~」

紺色ツインテは三十路をからかう様にくすくす笑っている


「あはははh  覚えてたら、、ね」

(いや、キーロさんも初対面の三十路からそんな事言われたくはないだろうよ)


「さぁ!しゅっぱつじゃのぉ~」


「あ~うん そうだな、、、ってなんでカセンも来るんだよ?」

しれっと操縦席?運転席?に座っている 


「何故ってお前   ジンは馬! 引けるのか?」


「、、、アーー、、ソレナ」


「重機を乗せるのにもひ弱なジン一人じゃ苦労すると思ってのぉ あっしがやってやろうって親切心じゃよ    と言うか元々あっしの目的は王都の調査じゃし丁度良くてのぅ」

意外にもただふらふらと山を下りて来た訳ではないらしく

聞けば火の国で最近起きている異変を調べるために他国の様子を調査しに来たんだとか


「なぁに!心配せんでも帰って来る時はまた一緒に来てやるぞ~」

赤い鬼は にししとたくらみ顔で笑う

(、、、コイツ あわ良くば延々たかろうとしてないか?)





こうしてジンはキーロに話を聞く為カセンと共に王都へ向かう事となる



村から王都まで何も無ければ昼ぐらいには着く予定だ 往復でほぼ一日が終わる

運転席のカセンは鼻歌交じりに早速一杯ひっかけている

(これは飲酒運転とかにはならないんですかね?)


「えっと? ダンクさんの工房に届けて挨拶をして  で~キーロさんに話を聞いて?」

(時間があればやっぱり大聖堂の神父さんに魔法の才を見てもらわないとな)

と思って気が付いた

「あ!! 大聖堂の場所聞くの忘れた」


「お~? 王都の名物じゃしすぐ分かるじゃろ」


「え そんな感じ?」


「え しらんけど」

にんまり顔で荷台のジンをチラ見する


「いや、おまえさ~ そういうのやめて~?」


「ん~? 看板くらいあるじゃろ~て」


「こっちは全然分かんないんだからな~ 信用しちゃうだろ??」


「カカカカ  だからからかいたくなるんじゃろうが」


(三十路相手にお前は何ポジションなんだよ)

「はぁ~  すごいデカく見える王都だけどさ~ 中で迷子になったりとかしないかな?」

ここから見てるだけでも某 夢の国とかの比ではない  山とかの方が近しい気がする


「なったらなったじゃろ!?」


「その顔やめろし!」

(くそぉ、スマホの地図、、充電出来たとしてもきっと使えないよな~)

「はぁ~ まぁ、いいや  で~昨日のおさらいなんだけどさ」

なんやかんやじゃれつつも昨日の続きとばかりにこの世界の情報を質問していく



この3日間、村の人達からも情報収集はしていたのだが何故かアホっぽく見えるカセンの方が様々な事に詳しい(あくまでカセン目線だが)

なので多少の酒代と引き換えに夕方から毎日情報収集をしていたのだ


ここ最近の世界情勢から宗教、食べられている物、職種の種類から流行り廃り、土地の把握 等々


かと言っても内容は難しいモノではなく

いきなり世界地図全部は覚えられないので身近な馬で行ける付近を重点的だったり

みんなに好きな食べ物、嫌いな食べ物を羅列してもらったりと  飲みながら聞ける範囲だ

(そうだ、王都に着いたら詳しい地図とかも買っておかないとか)





あっと言う間に3時間強の時間が過ぎる





「門までは目と鼻の先まで来たな~  こういう門ってやっぱり何個かあるもの?」


「あ~東西南北で設置してあるのが一般らしいのう?  しかしここまで大きな建物じゃしもっとあるんじゃないかの?」


「カセンの国でもお城ってあるの?」


「お~? 城は見るがこんな山の様なでっかい建物ないのぅ   もっと大きな山ならあるぞ?天狗が住んでるとかなんとか」

(え?なに?田舎なの?)


「、、、って え、天狗?マジで!?」


「しかしのぉ 山に入った所であっしは見た事無いから良く分からんがの?」


「そこ重要だよ、妖怪みたいなのもいるのかこの世界は     ん?」




他愛の無い会話をしていると王都の門から騎馬隊が出て来る

数は  12~3? 程か



「なんじゃあ? 例の討伐隊だとしたら聞いてたよりも少ないのう?」


「え、少ないものなの?  なんか小さい子もいたな~   討伐ってスライム掃除してくれるって事だよね?」

普通の『討伐隊』の人数が想像出来ない


「ブフゥ!! あはははは  あ~はっはっは」

赤鬼が急に豪快に笑い転げる

(え 普通に大丈夫なの!? 運転とか)


「ははははは  スライムなんぞにやられるのはジンくらいじゃって!」

これは恥ずかしい!


「悪かったな、もう出会っても対処できますよ!  多分」


「カカカ、討伐するのは他の魔物じゃろ  恐らくあの村を通過してどこかのを狩るんじゃないか? エルフ共が戦争してると言うのも耳にするしのう  あの辺を拠点に何かしたいんじゃないのか?  お、もう城下町に入るぞ~」





王都到着




「工房は城下町の南側だってさ  通って来たのが西だから~ あっちか」


「お~?大聖堂は東側って書いてあるのぅ」

王都内にはちょくちょく立て看板がある (助かった)


「え、遠くなっちゃいそうだな~」


「まぁ最悪ジンだけお泊りすれば良いんじゃないか?」


「そしたら帰り徒歩じゃね~か!」


「馬を借りれば良いじゃろ  くふふふ」


「コノヤロウ」

(運転出来ないからアナタツイテキタンデショウ)


魔法適正識別はしてもらいたいがまずはお使いを終わらせないと

だが その前に


「あ、少しだけ止めて  そこの小物屋でお土産サクっと買って来ちゃうから」


「お~、後回しにすると忘れそうじゃしのぅ」



新刊だと言うファンタジーな本と猫くらいのサイズをしたクマのぬいぐるみを手にささっと会計を済ませる

3日も店番を手伝ったんだ 金銭のやりとりはもう慣れたものである


「あの娘ら喜ぶじゃろな~  カカカカカ」

何故だか赤鬼も嬉しそうである


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